家具と車とインターネット(後編)株式会社クラス/バチェラー・久保裕丈×ナイル株式会社・高橋飛翔
ナイル株式会社の代表・高橋飛翔が、自身の専門分野である「インターネット」について、ゲストと旨い酒を酌み交わしながら互いの分野の可能性について語り合う。
第2回目のゲストは、初代バチェラーとして人気の久保裕丈さん。対談前編では「家具と車とインターネット」の話はほとんど出ずじまいでしたが、後編ではビジネスの話で大いに盛り上がる!
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目次
マーケット選びがビジネスの成功を左右する
久保:飛翔くんが、「カルモ」(※1)を始めたのっていつだっけ?
※1 ナイル株式会社が展開している、車のサブスクリプションサービス。
高橋:2018年1月です。いろんな企業と提携していくのが一番大変で、立ち上げに1年ちょっとかかりましたね。
久保:当時は、車のリースはあったけど、サブスクみたいなのはなかったよね。どんな思いで作ったの?
高橋:カーリースっていうのが、事実上、車のサブスクなんですよ。ただ、カーリースっていう言葉の認知度が、人口に対して15%ぐらいしかないことがわかっていて。消費者個人にとっては、購入もリースも、全然関係のない話なのかと。
そこで、最初は「車のサブスク」とか「マイカー賃貸」みたいな言い方をして、カーリースをリブランディングしたら、低いCPO(※2)で取っていけるんじゃないかと考えたんです。
※2 Cost Per Orderの略。新規顧客に商品や定期コースを購入してもらうために、1件あたりにかかった広告費用のこと。
久保:結構、ビジネス視点で領域を選んだわけだ。
高橋:元々、車が好きということもありますよ。ライドシェアリングをはじめとして自動車業界全体が盛り上がっているので、参入するなら今がちょうどいいというか。だけど、業界への入り方は、めちゃくちゃ考えましたね。
久保:カーシェアリングもすごいしね。
高橋:カーシェアリングって、市場規模が300億円ぐらいしかないんですよね。そのうちの90%ぐらいがタイムズのカーシェアリングで、個人間カーシェアリングなんてほとんど勝てない。
ほかにも、レンタカーとかいろいろ調べていく中で、結局マイカー社会だから、マイカー領域で商品の見せ方を変えていくのがいいんじゃないかという結論に至って始めた感じでしたね。
久保:昔、飛翔くんからカーリースとかの話を聞いたとき、自動車業界はものすごいレッドオーシャンというか、ジャイアントしかいないところだから、「よく行くな」って思ったことを強烈に覚えているんだよね。「Appliv(アプリヴ)」(※3)から、急にそっちの方向に行ったことも疑問で。
※3 ナイル株式会社が運営している、スマートフォン用アプリのレビューサイト。
高橋:デジタルマーケティング、メディアと事業をやってきて、実は「ニッチマーケットで圧勝すること」と「ビッグマーケットで勝つこと」の難しさは、たいして変わらないのではないかって。メルカリとかを見ていても思うんですけど、メルカリの経営チームとナイルの経営チームで、50倍の力の差があるかというと、そんなことはない。
やっぱり、選ぶマーケットとビジネスモデルで、その成功がどこまで大きくなるかが決まる。ビッグマーケットで戦ったほうがいいという判断は、2つの事業をやってきて思い至った答えなんですよね。車って、日本最大のビッグマーケットだから、ここでシェア1%取れるだけで全然違う。
久保:おもしろいね。
ニッチな業界における戦い方
高橋:経営の本によく書かれている「ニッチで勝て」みたいなのは嘘だなと。エクイティファイナンス(※4)も全然成立していなかった時代の、資本がない前提の本が多くて。
今ってビジネスモデル的にいけるんだったら、金は集まるじゃないですか。そういう意味だと、ニッチじゃなくても勝ち筋はあるんじゃないかって。
※4 企業が新株を発行し、買い取ってもらうことで資金を調達する方法。
久保:俺は、そこの部分は違う読み解き方をしていて。車って、売買とかまで含めると、ビッグマーケットじゃん。でも、サブスクだけに目を向けたときは、ニッチになる。
まずは、ニッチなところでドミナント(※5)を取れば、利益もある程度出るはずだから、それを原資にサブスク以外のマーケットを侵食していく戦い方も正しいと思う。
※5 支配的。コンビニなどが地域を絞って集中的に出店することをドミナント戦略という。
高橋:なるほど。そういう意味では、カルモでやろうとしていることは、「カーリースというニッチで参入して、ローンというビッグマーケットも取りにいこうとしている」とも言えるかもしれません。
久保:それでいうと、家具って全体で見ると、なかなかのビッグマーケットなんだよね。
高橋:何兆円ぐらい?
久保:ざっくり2兆円から3兆円。車に比べると全然だけど、家具をサブスクで切り取ると、100億円もない。
まずは、そこでドミナントを取って、徐々にサブスクリプションという業態で販売という業態を侵食していく。最終的に気づいたら、家具全体の中でドミナントが取れるプレイヤーになっている。
高橋:すごい。
久保:だから、ベンチャー向けの本で「ニッチから攻めろ」というのは、そういうことだと思っている。
高橋:まだ、カルモはマーケットリーダーにはなっていないけど、おそらく、今年か来年にはなれるはずで…。実は、周りが広告宣伝を、バカスカやってくれるんですよ。他社がカーリースのCMを打つと、関連ワードの検索からカルモにガンガン流入してくる。
久保:それ、めちゃくちゃおいしいね。
高橋:でも、その中で勝っていくには限界がある。そこで、自分が着目したのがローンとリース。これって、本来マーケットは別なんだけど、手に入れるという概念ではまったく同じ。消費者は、企業に提案されるからローンにしたり、リースにしたりしているだけなんです。
だから、我々が「月額定額でマイカーが持てる」みたいな訴求で広げていって、消費者が便益を感じてくれればいい。ローンでもリースでも何でもいいから、カルモで車が安く持てるというところまで持っていきたい。
久保:ローンもリースもサブスクも、消費者にとっては同じだろうからね。
家具サブスクを始めたきっかけと展望
高橋:久保さんが「クラス」を始めたきっかけって何でしたっけ?
久保:クラスの場合、市場規模とかはあまり考えていなかったね。シンプルに自分が家具好きだったことと、家具業界に危機感を持っていたことが始めたきっかけだったかな。
一応、フィジビリティ(※6)とか見るじゃん。そのとき、家具業界はSEOで強いところってどこもないなって思ったんだよね。これなら、家具業界では後発だけど、ほとんどのビッグワードを取れると思った。
※6 サービスや事業の実現可能性を、事前に調査・検討すること。
高橋:粗利が低いビジネスって、SEOが発達する傾向が強いですよね。インハウスでがんばるから。
久保:家具業界って、粗利はそんなに高くない。そもそも、ITリテラシーが業界全体で低くて、アパレルに比べて、IT化が5年は遅れている肌感がある。
高橋:SEOでいうと「ソファー 通販」とかで上げたい感じ?
久保:それで上げたい。通販とかのお客さんを、クラスに誘導できるといいんだけど。
高橋:将来的に、みんなが「家具 サブスク」で検索しまくったら、クラスは絶対に流入取れますね。
久保:だけど、現状はまったくないからね。「家具 レンタル」ですら、ほとんど検索されない。結局、オーガニックで流入させるには、「家具 通販」とか「ソファー」とかで取っていくしかない。
高橋:久保さんは、クラスを家具入手のスタンダードにしたいと考えてる?
久保:社内でずっと言っているのは、クラスを「家具を手に入れるときの第一想起にする」こと。引っ越して家具が必要だっていうとき、みんなだいたいニトリ、IKEA、無印を思い浮かべる。将来的には、ニトリ、IKEA、クラスの3強の状態を目指したいよね。
高橋:ちなみに、ニトリって何で強いんですか?
久保:ニトリって、多くの人が気に入るような最大公約数的なものづくりだと思う。だから、商品の魅力というよりも、出店戦略と価格戦略が強いんだよね。
一方で、ウェブマーケティングは苦手と見ているので、クラスはそこに勝機を見いだしていく感じかな。
食事を終えて…
高橋:今日は久々にお会いできて、いろいろな話ができて楽しかった。
久保:これまで飯食ったときは、ここまでビジネスの話をしたことはなかったよね。
高橋:ちょっとビジネスの領域、近くなりましたしね。
久保:いやー、ビジネスの話、本当におもしろかった。しばらくは、恋愛よりもこっちのほうがいいかな。
高橋:まだまだ結婚はできなそうですね(笑)。今後、サブスク絡みでいっしょにやっていきましょうよ。今日はありがとうございました。
※本対談は、緊急事態宣言発令前に行われたものです。
■今回のゲスト
久保裕丈
1981年生まれ、株式会社クラス 代表取締役社長。東京大学工学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修士課程修了。2012年、ミューズコー株式会社を設立。2017年には、恋愛リアリティ番組「バチェラー・ジャパン」に、初代バチェラーとして出演。2018年、家具・家電のサブスクリプションサービスを展開する株式会社クラスを設立。現在は、数々のメディア、テレビ番組等でも活躍中。
Amazon.co.jp: バチェラー・ジャパン シーズン1を観る | Prime Video
■今回のお店
レストラン ラ・カンサトゥール
【場 所】東京都品川区北品川6-7-29 ガーデンシティー品川御殿山1F
【電 話】03-5422-7846
【営業時間】11:30~15:00、18:00~23:00
【定 休 日】不定休
【 U R L 】http://kancatour.com/
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