新年に読みたいコンテンツづくりのヒントになる本【成田幸久のコンテンツ相談室】
こんにちは。コンテンツディレクターの成田です。このコーナーでは、お客様からよくいただくご質問から毎回1テーマをピックアップしてご紹介していきたいと思います。
コンテンツマーケティングを実施していると、必ず「良質なコンテンツを作るべし」という話を耳にするが、そもそも「良質なコンテンツって何?」という声をよく聞きます。
そこで今回は、「良質なコンテンツとは何か」「良質なコンテンツはどうやって作ればいいのか」。そんな疑問にヒントを与えてくれる良書をご紹介します。
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目次
アイデアは「才能」ではない
アイデアのちから(チップ・ハース+ダン・ハース著/日経BP社刊)
オウンドメディアの運営やコンテンツマーケティングの実施において、「ネタがすぐに尽きる」「おもしろいコンテンツを作れない」と悩む方は多いのではないでしょうか。
本書はさまざまな実例を基に、そんな「アイデアの枯渇」にヒントを与えてくれる一冊です。いかに「発想」するかではなく、どう「構築」するかについて教えてくれます。つまり、「アイデアは一定の視点に沿って考えれば育てられる」ということが提唱されています。その一定の視点とは、以下の6点です。
- 単純明快である(Simple)
- 意外性がある(Unexpected)
- 具体的である(Concrete)
- 信頼性がある(Credible)
- 感情に訴える(Emotional)
- 物語性(Story)
アイデアがよく浮かぶ人と、アイデアを出すのが苦手な人の境界線はただひとつ。この6つの条件を満たす考え方を「構築する」スキルを、身に付けるか否かです。
「おもしろいアイデアでPVを稼ぎたい、バズりたい」と考える方も多いかもしれません。しかし、アイデアとは、あくまでもユーザーとコミュニケーションを図り、エンゲージメントを築くためのものです。「おもしろいアイデア」にとらわれるあまり、本来の目標を見失わないよう気を付けたいですね。
要するに、愛と情熱なのだ
メディア化する企業はなぜ強いのか?(小林弘人著/技術評論社刊)
本書は、デジタルエージェンシーのインフォバーン・代表取締役CVO小林弘人氏によるオウンドメディア本。どれだけテクノロジーが進化しても、変わらないものがあることを改めて教えてくれます。 それは「人」と「組織」です。
中でも印象深かったのが、「上司説得型マーケティング」という言葉です。特に、企業がオウンドメディアを運営するときにありがちな、「上司を説得する」という壁。日本の企業の「事例好き」の理由もここにあります。
「あの会社がこれで成功しているのだから、やってみる価値がある」「あの会社がこれだけの予算をつぎ込んでいるだから、うちも」「そのコンテンツ、バズるの?」「いくらかけたら100万PVになるの?」「◯✕社みたいにできるの?」とか…。そこには愛も情熱もありません。
小林氏は言います。「作り手が冷めていると、コンテンツは無機質でつまらないものになります。テクニックが洗練されていなくても、そこに作り手の愛さえあれば、不思議と魅力的かつパワフルなものが創出できることがあります」と。
あなたは今、上司や会社を説得したくて他社事例を探しているかもしれません。しかし、事例を見て参考にするときは、予算やコンテンツ量やPVではなく、そのメディアの運営者に愛と情熱が感じられるかどうかを見るべきでしょう。そして、「なんか熱いな」と感じたら、まねしてみるべきです。もちろん手法ではなく、「愛と情熱」の抱き方を。
映画はコンテンツ作りのヒントの宝庫
フィルムスクールで学ぶ 101のアイデア(ニール・ランドー+マシュー・フレデリック著/フィルムアート社刊)
「映画は総合芸術」とよくいわれます。映画はかかる費用も関わる人も多く、表現方法が多様で、伝播力も影響力もとても大きなコンテンツです。本書を読むと、「映画を作るのは本当にたいへんなんだな」と、再認識させられます。それゆえに、Webコンテンツの制作にも役立つノウハウが満載です。 ここでは、「101のアイデア1」の中から、特にWebコンテンツの制作において重要と思われる5つのアイデアを抜粋してご紹介します。
1. 最初は強く
映画のオープニングシーンは作品のテーマを象徴的に表すだけでなく、ストーリーの背景を明らかにする目的があります。つまり最初に見せるのは「導入」ではなく、「結論」なのです。ただし、「結論」とはいわゆる「ネタバレ」ではなく、「寸止め」です。「一番おもしろいポイント」を焦らしながら、好奇心や期待感を駆り立てるのです。Webコンテンツにおいても、情報洪水の中で泳ぎ回るユーザーは、起承転結に従って読む時間も余裕もありません。最初に強いインパクトを与え、「おもしろそう」と思わせるかどうかがカギを握ります。
2. ビギニング、ミドル、エンド
ストーリーには必ずビギニング、ミドル、エンドの三幕があります。
ビギニング:問題を確立する(状況設定)
ミドル:事態を複雑にする(葛藤)
エンド:事態は解決に向かう(課題解決)
ここで求められるストーリーとは、ユーザー(観衆)自身のストーリーです。つまり共感を得られ、自分事化してもらうためのストーリーです。
例えば30歳になるまで、ずっと彼女ができずに悩んでいる男性のユーザーがいたとします。もしあなたの会社がそのユーザーの悩みに応えられそうな商品やサービスを提供できるのであれば、まずあなたは商品自体の魅力を伝えることでしょう。
そのときに、ただ一方的に商品訴求をしても、ユーザーはなかなか自分事化してくれません。商品を売るまえにまずすべきことは、「なぜ彼には彼女ができないのか?」というユーザーの抱える問題に耳を傾け、彼が求めるストーリーの道筋の段階(ビギニング、ミドル、エンド)を示し、助言を与えることなのです。
3. ストーリーは登場人物特有の性格に、テーマは普遍的な人間性に関係する
人の心を動かすためには、ストーリーに感情を込めなければなりません。そのためには、キャラクターをいかに精緻に描くかが勝負になってきます。
一方、テーマは「愛ほど尊いものはない」「正直に生きれば幸せになれる」といった、人間が普遍的に抱く思想といえます。SF映画のようにどんなに非現実的なシチュエーションでも、私たちがその世界に入り込んで心を動かされるのは、この普遍的な人間性に関係するテーマが必ず盛り込まれているからです。
4. 対立軸を実在させる
ストーリーをおもしろく際立たせる方法論として確立されているのが、対立軸です。対立軸には「Change(変化)」「Contrast(対比)」「Character(キャラクター)」の3つがあります。その対立軸のギャップが大きければ大きいほど、人の心は動かされます。
Change(変化)とは、ストーリーにおける「欠落→回復」「行く→帰る」「問題→解決」のプロセスのギャップです。このプロセスにおいて、困難や障害が立ちはだかるほど、ストーリーはおもしろくなります。Contrast(対比)は善と悪、失敗と成功、貧乏と金持ち、生と死のギャップなどです。Character(キャラクター)の対立軸は、例えば「アナと雪の女王」のアナとエルサ、「ダークナイト」のバットマンとジョーカー、「スター・ウォーズ」のルークとダース・ベイダーなどです。
あなたのお気に入りの小説や映画、ドラマを思い浮かべてみてください。きっとこの対立軸が明確に存在し、そのギャップはとても大きいに違いありません。
5. 簡潔に!
人は複雑さを嫌います。シンプルな言葉であるほど、伝えたいメッセージは強く印象的になります。本書では「どんなに直観力にすぐれ、独創的であっても、ストーリーに対して絶対に必要かどうか、必ず見直すべきだ」と提唱しています。「簡潔に!」というのは、不要な要素をそぎ落としていく作業なのです。
「完全が達成されたというのは、そこにつけ足すものがない状態ではなく、とり除くものがないという状態です」
本書で紹介されている作家、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(「星の王子さま」の著者)のこの言葉は、コンテンツづくりにおける編集の重要性を、まさに一言で表しています。
良質なコンテンツは一行の文章で説明できる
ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代(ダニエル・ピンク著/三笠書房刊)
「ハイ・コンセプト」とは、ダニエル・ピンクの本書で広く知られるようになった言葉です。
著書によると、ハイ・コンセプトとは
- パターンやチャンスを見いだす力
- 芸術的で感情面に訴える美を生み出す能力
- 人を納得させる能力
- 一見ばらばらな概念を組み合わせ新しいものを生み出す能力
とあります。
著者は「情報化社会はコンピュータのようなロジカル能力によって築かれた。次の時代は、創意や共感などによって築かれる『コンセプトの時代』がやってくる」と予言しています。 このようなハイ・コンセプトなコンテンツは、一行の文章で説明できる――逆にいえば、一行で説明できないコンセプトのコンテンツでは見向きもされない、ということになります。
ハリウッドやシリコンバレーには「エレベータートーク」という言葉があります。これは、脚本家や起業家がプロデューサーや投資家に自分のアイデアをエレベーターに乗っている短時間で売り込むことに由来しています。
まさに、エレベーターでの数秒(一行)で説明できるコンテンツこそが、ハイ・コンセプトなコンテンツといえるのです。
アニメ界の巨匠の企画書に学ぶ
出発点 1979〜1996(宮崎駿著/スタジオジブリ刊)
巨匠・宮﨑駿監督さえも、「作品を作るにあたって企画書を書くんだ!?」という驚きがありました。ただし、私たちにおなじみのパワーポイントで作成しているわけではありません。テキストのみで延々と書かれた企画書。しかし、それは珠玉のエッセイのように、読み始めると、いつの間にか宮崎ワールドに引き込まれていきます。
本書は、ジブリ作品のファンに限らず、すべてのコンテンツ制作者が「良質なコンテンツ」を作るための指南書となっています。580ページに及ぶ本書には、演出メモや企画書、エッセイ、講演録、一流クリエイターたちとの対談など、90本の物語が記されています。アニメに興味はなくても、学びの多い一冊となるでしょう。
私自身、コンテンツ制作者として一番印象的だったのは、下記のくだりです。シンプルでありきたりの言葉のようでもありますが、日常業務の中でつい見落としがちなことです。
「その作品で何をいいたいかということ」が一番大事である。いわゆるテーマだ。もしテーマがはっきりせずに、技術だけが先行したりすると、表現したいことが曖昧な、なんだかわからない作品になってしまう。反対に、技術が劣っていたとしても、表現したいことがはっきりしている作品は、高く評価される。
宮崎監督が最も重要と語る「テーマ」は、上述した「ハイ・コンセプト」と同じ意味と解釈していいでしょう。
例えば、「耳をすませば」(宮﨑駿脚本)。
「この作品は、自分の青春に痛恨の悔いを残すおじさん達の、若い人々への一種の挑発である」とあります。まさに一言(数秒)でどんな作品かを言い表しています。
「主題(テーマ)をはっきりさせる。ここで言う主題は、もっと単純で素朴で、つまり根源になるものだ」
そして、宮崎監督は言います。 「大切なのは理屈をとおすことではない。理屈はいくらでも考えつく。一番おもしろい方法を考えるのだ」と。
私たちは、知らず知らずのうちに、クライアントを説得するために、自分に言い訳をするために、いつの間にか理屈を通そうとしていないでしょうか? 何が最も伝えたいメッセージなのか。そのテーマさえはっきりさせておけば、あとはストーリーもキャラクターも勝手についてくるというのが宮崎哲学です。
以上、5冊の本をご紹介しましたが、どれも違うアプローチで「良質なコンテンツ」を作るためのヒントが散りばめられています。
これらの本に共通するのは、「おもしろい」こと。どんなにノウハウが詰められていても、おもしろくない本からはあまり学びはありません。なぜなら、自身の心が動かされないからです。
皆さんも良質なコンテンツを作ろうと思ったら、まず自身がおもしろいと思うコンテンツに多くふれ、それがなぜおもしろいのかを考えてみることをおすすめします。
表層的なノウハウやテクニックをどれだけ学んでも、決して人の心を動かせないことを、これらの本は教えてくれます。
イラスト:タナカケンイチ
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