制約の三原則(予算/表現/時間)【コンテンツづくりの三原則 第5回】
オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。
第5回は「制約の三原則」。コンテンツ制作においては、「予算」と「表現」と「時間」の3つの制約が必ず立ちはだかります。しかし、この3つの制約を逆手にとることで、逆に価値の高いコンテンツを生むこともできます。今回は、この予算、表現、時間の制約を上手に活かす方法について解説します。
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目次
予算の制約:低予算でも大ヒットを飛ばした映画の数々
ハリウッド映画といえば、誰もが膨大な予算をつぎこんだ大作を思い浮かべるかと思います。しかし、どんなに有名な売れっ子監督やスター俳優でも、最初の一歩はありました。彼らが一躍脚光を浴びて、スターへの階段を駆け上がったのは、最初に低予算の中で知恵を絞ったからです。
例えば、シルベスター・スタローンの出世作が「ロッキー」なのはご存じの方も多いでしょう。シルベスター・スタローンは、この作品の主演と脚本を担当し、製作費わずか100万ドル(当時のレートで約3億円)で2億ドル(約600億円)以上の興行収益を上げました。
あるいは、「スター・ウォーズ」で知られるジョージ・ルーカス。彼のデビュー作「アメリカン・グラフィティ」は、もっと安い80万ドル(当時のレートで約2億2,000万円)弱の製作費で1億ドル(当時のレートで約300億円)以上の興行収益を上げました。
「激突!」のスティーブン・スピルバーグや、「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン、「レザボア・ドッグス」のクエンティン・タランティーノなどなど、大物監督はみんな低予算ながら斬新な作品で大ヒット作を生み、ヒットメーカーとしての階段を駆け上がっていったのです。
また、2000年前後にトレンドになった「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」「ソウ」「キューブ」「パラノーマル・アクティビティ」などのホラー映画は、低予算であることを逆手にとって密室という限られたロケーションを設定し、人間の極限状態を描くソリッドシチュエーションスリラーという新しいジャンルを築きました。
最近では、日本でもインディーズ映画「カメラを止めるな!」が大ヒットしたのは記憶に新しいところです。製作費はたったの300万円です。しかし、SNSの口コミ効果もあって全国公開へと拡大し、国内外の映画賞も数多く受賞。興行収入は30億円を超える大ヒットとなりました。
「ロッキー」や「アメリカン・グラフィティ」の収益が製作費の約100〜200倍というのも驚きですが、「カメラを止めるな!」はなんと約1,000倍です。費用対効果の高さがうかがい知れます。
アイディアには税金はかからない
近年のYouTuberブームも、お金をかけられない一個人が知恵を絞ったゆえに起きた現象だといえます。そして、そこからHIKAKINやはじめしゃちょー、ヒカルのようなスターも誕生し、YouTuberは子供たちの「将来なりたい職業」として常に上位にランキングされるまでの人気となっています。
企業がマーケティング活動をするにあたっては、常に予算との戦いです。「もっと予算があればやりたいことができるのに…」と思う方がほとんどではないでしょうか。しかし、十分な予算がないからこそ、生まれるアイディアもあります。これまでのコンテンツ制作の歴史を振り返れば、多くのクリエイターたちがそれを証明しています。結局のところ、予算があろうとなかろうと、知恵を振り絞って考え、アイディアを出さなければユーザーを惹きつけるコンテンツはできないのです。
「アイディアには税金はかからない」というユダヤの格言があります。無形の発想や考えには税金がかからない。そして、それはさまざまな発明やビジネスを生み出す源となる――つまり、アイディアこそがお金を生み出すという意味です。
アイディアを考えることには一切お金がかからないのだから、頭を使って考えてどんどん新しいアイディアを生み出そうということです。いいコンテンツができるか否かは、決して予算の多寡で決まるものではないのです。
表現の制約:コロナ禍の中、あえてその状況を活かしたドラマ
コロナ禍で緊急事態宣言が出された期間、テレビ局はロケやスタジオを使った番組制作ができなくなりました。そこで、やむをえず始まったのが自宅からのリモート出演によるトーク番組です。どの局もリモートによる制約のため番組づくりに苦心し、テレビ局の多くはZoomなどを使って話上手なお笑い芸人をそろえたトーク番組を作らざるをえませんでした。
しかし、一方でリモートであることを逆手にとった番組も誕生しています。NHKが制作した「今だから、新作ドラマ作ってみました」や「リモートドラマ Living」は、「仕方なくリモート」にしているのではなく、「あえてリモート」を活かした番組といえるでしょう。
NHKのウェブサイトでは「今だから、新作ドラマ作ってみました」について、こんな説明をしています。
“新型コロナウイルスの影響により、多くのドラマも当面の収録を見合わせています。
でも、こんな状況だからこそ、ホッとできる時間をドラマでお届けしたい!
NHKでは、打ち合わせやリハーサル、もちろん本番収録も、直接会わずに行う“テレワークドラマ”を制作します。
不安が募る毎日だからこそ、ほっこりしたり、じんわりしたり、腹を抱えて笑ったり…。
豪華キャストと脚本家陣が織りなす、こんな状況だからこそ生まれた物語です。“
台本を渡された役者がすべて自分で演技して、スマートフォンで撮影するという新しい取り組みのリモートドラマとして話題になりました。
「今だから、新作ドラマ作ってみました」では、柴咲コウとムロツヨシ、高橋一生が出演した、身体が入れ替わってしまう「転・コウ・生」、小日向文世と竹下景子が出演した、死んだはずの妻から離婚届がつきられて慌てふためく予測不能な「さよならMyWay!!!」といったラインナップが放送されました。また、「リモートドラマ Living」では、広瀬アリス・広瀬すずの姉妹、永山瑛太・永山絢斗の兄弟、そして仲里依紗・中尾明慶夫妻。優香・青木崇高夫妻といった俳優たちがドラマでも家族で演じています。つまり、「リモートだから作った」のではなく、「リモートでしかできない企画」が生まれたのです。
ショートストーリーで、かなり実験的試みの要素が強い番組ですが、ネットを見る限り、視聴者からの評判は非常に高かったようです。「物語の奇想天外さがおもしろかった」「キャストの演技がすばらしかった」といった声が多かったようです。男になりきった柴崎コウや猫になりきって演じた高橋一生の演技も好評を博していました。
こういった新しい試みは、いわゆるイノベーター理論でいうところの、イノベーター層、アーリーアダプター(オピニオンリーダー)層に支持されたことが容易に想像できます。
イノベーター理論とは、1962年、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が著書「イノベーション普及学」で提唱した理論です。ロジャース教授は消費者の商品購入に対する態度を新しい商品に対する購入の早い順から、下記の5つのタイプに分類しました(%は市場に占める割合)。
<イノベーター理論における消費者の5つのタイプ>
- 1 イノベーター:革新的採用者(2.5%)
- 2 アーリーアダプター(オピニオンリーダー):初期少数採用者(13.5%)
- 3 アーリーマジョリティ:初期多数採用者(34%)
- 4 レイトマジョリティ:後期多数採用者(34%)
- 5 ラガード:伝統主義者(または採用遅滞者)(16%)
ロジャース教授によるイノベーションの普及プロセスのグラフ。新しいアイディアや技術が次々と採用される(青字)につれ、普及率はいずれ飽和する(黄色)。普及率はS字状の曲線となるためSカーブと呼ばれる(図版はWikipediaより)。
制約の中から生まれた斬新な作品は、いつの時代もこのイノベーターとアーリーアダプターを惹きつけます。イノベーター層、アーリーアダプター層が最初に目をつけて、類似のコンテンツが徐々に増えてくることで、最終的にはラガード層まで広がることを意味しています。
時間の制約:限られた時間内で集中力を高める会議の方法
コンテンツ制作には、常に時間との戦いがつきまといます。働き方改革が叫ばれる昨今、「時短」は大きな課題です。いかにしてダラダラ残業やダラダラ会議を減らしていくべきかが問われています。これはまさに、時間をどれだけ制約するかという戦いです。
「5分会議」を提唱する会議コンサルタントの沖本るり子氏は、「会議HACK!」のインタビュー記事「毎日12時間の会議から生まれた「5分会議」?」で「時短」を意識することの重要性を説いています。
“「5分会議」™というのは、別に5分に限らないんです。3分もあったり、2分もあったりするんです。
何かのテーマについて、テーマが2分とか、3分とか、5分とかっていうふうに区切っているんです。「5分」と言っているのは、研修とか学びのときに、5分にしているから「5分」って言っているんです。一言ずつ発言していくので、2分でも十分です。
5分の枠の中で、5人いたら1人20秒ぐらいで、ポンポン言っていって、また順番が回ってきます。2回目、3回目。時間内で、ずっと意見出しを、そのテーマについて語らなきゃいけない。しゃべっているだけだとわからなくなるので、書く人を必ず1人決めて、それをすべて書き出します。順番に書き出しの係をやっていくので、お客様気分では会議に参加できないんです。”
もし、自分に3分の持ち時間があったら、「3分もあるのか」と思うか、「3分しかないのか」と思うか。いずれにしても3分という制約の中でできることを考えなければなりません。
さらに、3分の持ち時間が、20秒が9回と振り分けられたら、自分の順番が来るたびに、20秒で自分の言いたいことが伝わるよう、話す内容を常に整理してまとめなければいけません。これには、かなりの集中力と思考力が求められます。
集中力を長時間維持することはなかなか難しいですが、小刻みに分けられた短時間単位なら、緊張感を持って集中できそうです。終了後の疲労感は半端なものではないかもしれませんが、生産性が向上することは間違いないでしょう。スポーツ選手が本番で試合をするようなものです。
1時間の会議に6人が集まったとします。均等に時間配分をすれば、1人10分の持ち時間になります。では、1つの議題について1人10分ずつ話してもらおうとすると、聞いている人はきっと途中で飽きたりダレたりすることでしょう。
これが、1人30秒ずつで20回に分けて話すと、きっと聞いている残りの5人も集中して耳を傾けることになります。相手の意見を聞きながら、自分の話も交互に入れていかなければならないので、ジャズのセッションのようにアドリブでいろいろとアイディアが出てくるに違いありません。
人の集中力は15〜20分程度が限界のため、60分の会議なら、15分×4回というようにインターバルを設けてメリハリをつけるだけでも、効率はかなり上がると考えられます。15〜20分刻みで時間を設定して会議やブレストをしてみると、きっと普段頭を使う作業がいかにダラダラと時間を費やしているか、実感するに違いありません。
制約が良質のコンテンツを生み出す
コンテンツ制作をする上で、制約の三原則はそれぞれ以下の役割を担っています。
- 予算の制約:実現可能性の担保
- 表現の制約:新しい発想や思考を生む起爆剤
- 時間の制約:リソースの有効活用(生産性の向上)
こうした制約があるからこそ、良質のコンテンツが生まれるといえます。
最後に、制約を活かした最新のコンテンツ事例をご紹介します。
制約を活用してブレイクしたTikToker
近年、10代の若者たちのあいだで大人気となっている「TikTok」は、まさに制約の宝庫です。音楽と口パクとダンスを組み合わせた動画が簡単に作れるのが特徴ですが、15秒から最大60秒という制限を設けることで、さまざまな表現方法が生まれています。
そんなTikTokで、最近話題の「あやせとあやさ」というTikTokerをご存じでしょうか。双子姉妹による15〜60秒のショートコントなのですが、フォロワーが50万人近く(2020年7月現在)おり、YouTubeにも進出して大ブレイク中の若者たちです。
内容は多くのTikTokerの動画と同様に、とてもシンプルです。スタッフは、主役の双子姉妹と兄・父・恋人の一人三役を演じる友人男性1名の、計3名です。機材はスマートフォンのみとのこと。
舞台はほとんど家の中で、内容によって長さのバリエーションがあります。コントの内容は、日常のありふれた会話から「あるある」のオチで共感と爆笑を誘います。15〜60秒でも記憶に残るストーリーが十分詰め込められることを証明しています。
これはまさに、予算と表現と時間の制約の中から生まれた、新世代のコンテンツといえるでしょう。
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