説得の三原則(ロゴス/パトス/エトス)【コンテンツづくりの三原則 第2回】

説得の三原則(ロゴス/パトス/エトス)【コンテンツづくりの三原則 第2回】

オウンドメディア運営において、コンテンツづくりは最大の肝です。
「コンテンツづくりの三原則」では、毎月1つのコンテンツづくりのテーマや目的を取り上げ、そこに紐づく3つのトピックを深掘りしていきます。

2回は「説得の三原則」。オウンドメディアを運用するにあたって意識しておきたい「ロゴス」「パトス」「エトス」について解説します。

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「ロゴス」「パトス」「エトス」の原則

「説得の三原則」は、古代ギリシャ時代(紀元前300年頃)の哲学者のアリストテレスが「弁論術」で記し、今日まで語り継がれてきた人を説得するための以下の3つの原則です。

ロゴス:理論立てて相手を説明すること

ロゴスとは、論理・理屈のことです。例えば、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の方針を、首相が順序立ててわかりやすく伝える。伝える本人が、諮問委員会や医師会の報告を十分に理解していないと、国民が理解できるような説明にはなりません。

もちろん、「感染者数の推移」「死のリスク」「経済的打撃」など、国の厳しい状況を伝えるには、ロゴスがないと説得力はありません。

オウンドメディアでも、車について紹介するメディアで車の情報に誤りが多くては論理・理屈が通っていないため、信頼できるメディアとは言えません。

パトス:熱く語って相手を説得すること

パトスとは情熱・感情のこと。「ウイルスとの闘いに打ち勝ち、この緊急事態という試練も必ずや乗り越えることができる、そう確信しています」と、自信と希望を熱く語ることも重要です。情熱的に話すと、相手にもその情熱が伝わります。
しかし、どんなに熱い言葉を並べても、話す本人に情熱がなければ決して人の心は動きません。たとえ良い内容でも、用意された原稿を淡々と読むだけではその思いが伝わることはありません。

オウンドメディアの記事も同様に、筆者や編集部の思いや経験則がなく、一般論ばかりでは、なかなか読者やファンはつかないでしょう。

エトス:信頼してもらって相手を説得すること

エトスとは信頼・人柄のことを指します。いくらわかりやすい説明を情熱的に行ったとしても、その人が信頼される人柄でなくては納得してもらうことは難しいです。何を言ったのかではなく、誰が言ったのかも重要なのです。
偉業を成し遂げた人の失敗談は人々の心を惹きつけますが、何もなしえていない人の失敗談には誰も耳を傾けません。最終的に人を動かすためには、このエトスが必要不可欠です。

さらに、VUCA(※)時代の現代は、伝統的価値観や正論の重要性が薄れつつあります。特に、新型コロナウイルスによって、世界はまったく先が見えない時代に突入しています。今日の社会情勢において、「無難」を追及するあまり、正論のみに溺れればパトスとエトスが失われてしまいます。

「若い人が夜遊びをしていることで感染拡大のリスクが高まっている」とデータを示して外出規制を呼びかけるより、有名タレント一人の訃報のほうが、人の感情を動かすための説得力は強いのです。

Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字から取った、予測不能な状態を意味する言葉。

企業によるオウンドメディアの運用は信頼が第一です。記事の中に致命的な誤りがあると、炎上などで大きくマイナスな影響をうけてしまいます。

通販はロゴス→パトス→エトスの3ステップで成り立っている

人気の通販サイトもまた、「説得の三原則」を徹底したコンテンツの宝箱といえるでしょう。

例えば、信頼できる家族や友人、恋人から急に「5万円のルームランナーを買って」とねだられても、買うのはためらってしまうかもしれません。

しかし、「このルームランナーは時速3kmから10kmまで調整できるので、お子さんからおじいちゃん、おばあちゃんまで家族みんなで使える。組み立ての必要なし。たためば場所もとらない。今回だけ100台限定で30%オフ」など、客観的事実を提示されたらどうでしょう。

「ちょっと検討してみようかな」と、少し行動変容が促されるのではないでしょうか。

これがロゴスです。

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そして、実際に1ヵ月使用したユーザーの体験レポートで、使用者が「1ヵ月で3kgやせた!家族の会話が増えた!ストレス解消になった!」と満面の笑みを浮かべて喜んでいるシーンを見たら、「本当かな?」と疑いつつも、もう少し話を聞いてみようと思うかもしれません。

これがパトスです。

パトスを強調するキーワードには、例に挙げたような「憧れ」「笑い」「喜び」「愛」「ストーリー」といったポジティブな訴求以外にも、「恐怖」「不安」などのネガティブな訴求もあります。

どんなに正しいことだとわかっていても、感情的に納得できないと受け入れることはできません。「肥満になると成人病のリスクが高くなる」とデータで示されるより、成人病で苦しんでいる人の闘病記(不安・恐怖)を生々しく伝えるほうが、「成人病になったらやばいなぁ。運動しなきゃ」と自分事化されて危機感を覚えるのではないでしょうか。

自動車免許更新の際に講習会で見る、ドラマ仕立ての動画も同様です。「飲酒運転はダメだ」と連呼するより、飲酒運転によって加害者と被害者がどれだけ悲惨な目に遭うのかを赤裸々に描いたドラマのほうが、心に刻まれるわけです。

つまり、ユーザーの立場に立って考え、印象に残りやすく、共感を生み、心を揺さぶるような熱意の伝え方が重要なのです。

そして、ユーザーの信頼を厚くするためには、その商品やサービスの提供元である企業の評価・評判を高める必要があります。その商品やサービスがどんなにすばらしくても、企業自体の評価・評判が低くては、信頼は生まれません。「この企業なら安心かも」と思ってもらわなければなりません。

これがエトスです。

通販番組「ジャパネットたかた」の看板MCである中島一成氏は、あるイベントの対談で、聴衆へ向けてこんなメッセージを送っています。

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「自分の想いに正直になって、人に伝えるって、それが伝わって、その伝わった方の人生とか考えが変わることの素晴らしさを知ってほしい。その価値が言葉というツールを使って、たとえば90秒でも10分でも人の人生を変えられるのがプレゼンの素晴らしさ。伝えることの価値を体感して私は人生が変わったので、皆さまにも勇気をもって感じてもらえたらなって思います。プレゼンは決して簡単ではないですけど、楽しいのでぜひチャレンジしてもらいたいなって思います。」

正直に素直な思いを伝えることで、信頼を勝ち得てきたのが成功の秘訣なのです。エトスは「倫理」にも通じる解釈で、聞き手が道徳的に正しいと感じるかどうかという意味も持ちます。

また、実績や経歴や権力も、上手に使えば強いエトスに成りえます。私たちが偉人や有名人の言葉に心動かされるのも、エトスゆえです。
「ジャパネットたかた」は、歴史と実績がもちろんエトスとなっていますが、例えば本田圭佑選手や青山学院大学陸上競技部の原晋監督がこのルームランナーを推薦したらどうでしょう。商品への信頼度はぐっと高まるに違いありません。

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歴史上の説得の達人たち

ケネディ大統領、キング牧師、ガンジー、チャーチル首相など、歴史的危機が迫ったときのリーダーの言葉からは、名演説が生まれることが多く見られます。過去の偉人の多くは「説得の三原則」の達人です。

例えば、第二次世界大戦でナチスドイツと戦ったイギリスのチャーチル首相のスピーチの映像を見ると、その力強さがひしひしと伝わってきます。
当然、当時はプロンプターなどありません。しかし、原稿を読み上げる際にも、全身を使って一言一言噛みしめるように語る姿から、チャーチル首相がいかに「説得の三原則」の達人だったかが垣間見えます。

最後に、危機に直面したときのチャーチル首相の名スピーチの一部を紹介します。

「凧が一番高く上がるのは、風に向かっているときである。風に流されているときではない。

我々の目的は、勝利、この二字であります。あらゆる犠牲を払い、あらゆる辛苦に耐え、いかに長く苦しい道程であろうとも、戦い抜き勝ち抜くこと、これであります。

たとえ生死の境にあって、気持ちが極度に張りつめているときでさえも、他人の人生を思いやり、人類を支配する法則とは何であるかを考えてみるとすれば、必ず何らかの報酬が返ってくる。

現在、我々は悪い時期を通過している。事態は良くなるまでに、おそらく現在より悪くなるだろう。しかし、我々が忍耐し、我慢しさえすれば、やがて良くなることを私はまったく疑わない。

事前に慌てふためいて、後は悠然と構えているほうが、事前に悠然と構えていて、事が起こったときに慌てふためくよりも、利口な場合がある。

私が義務感と信念にもとづいて行動している限り、いくら悪口を言われようと何ともない。害になるよりはむしろ益になるくらいだ」

チャーチル首相のスピーチは、彼特有の話し方や立ち居振る舞いとセットで説得力を持ちますが、ここに挙げたスピーチの一部からでもその力強さが十分に伝わってくるのではないでしょうか。

「説得の三原則」はバランス良く使わないと効果は出ない

「説得の三原則」は、スピーチやプレゼンだけでなく、オウンドメディアでの情報発信、メールマガジンを使ったセールス、営業、社内でのコミュニケーション、上司への企画提案など、さまざまな場面で使える説得術です。

人を説得し、行動変容を促すには、ロゴス、パトス、エトスがバランス良く踏襲されていることが欠かせません。政治家や企業などは、情報を発信する際に正確さを最優先するあまり、ロゴスに終始して安心してしまいがちです。反対に、芸能人などの謝罪会見は、土下座したり泣いたりするなどパトスに陥りがちになります。しかし、ロゴスだけでもパトスだけでも、人を説得することはできません。

ロゴスは、この三原則の中では一番弱い要素だといわれます。つまり「112」という正論を淡々と語るより、うまい表現、熱のこもった話し方、比喩表現といったパトスや、自己犠牲の精神、責任感、決意といったエトスを使ったほうがメッセージは強く伝わるということです。
日々のささいな言動と対応の積み重ねこそがエトスであり、エトスがあってこそロゴス、パトスの効果が高まり、大きな力となって人々を動かせるのです。

※参考資料:「どんな人も思い通りに動かせる アリストテレス 無敵の「弁論術」」(高橋健太郎著/朝日新聞出版)、「チャーチル 150の言葉」(ジェームズ・ヒュームズ編/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

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2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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