「五反田計画」という名のサードプレイス

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「五反田計画」という名のサードプレイス

五反田は、アメリカのシリコンバレーにならって「五反田バレー」と呼ばれ、IT企業やスタートアップ企業の一大集積地になっている。その名を冠した一般社団法人五反田バレーは、五反田を本拠地とする企業が、地域社会や企業とフラットな関わりを築き、イノベーションを生み出すヒト・モノ・コトのハブになることを理念に設立された。そして、社会問題を解決するために挑戦するベンチャー・スタートアップが、より豊かな未来を創っていくことを目指す。

五反田計画」では、五反田バレー参画企業やキーパーソンへのインタビューほか、イベントレポート、地元情報など、注目のコンテンツを適宜公開。企画制作は五反田を拠点に活動する、有限会社ノオトが担う。

「五反田計画」を通して、五反田の企業とそこに暮らす人、そして新しく生まれたコミュニティは、今後どのような化学反応を起こしながら進化していくのか。五反田バレーの理事企業である株式会社ココナラの柳澤芙美氏、有限会社ノオトの代表取締役・宮脇淳氏、そして「五反田計画」の編集者で有限会社ノオトの水上歩美氏にお話を伺った。

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日経新聞の記事が発端で始まった五反田バレー

――一般社団法人五反田バレーは、どういう経緯で設立されたのですか?

柳澤:五反田バレーという表現は、元々メディアが使い始めたもので、日経新聞で「五反田にベンチャー・スタートアップが集まっているらしい」と小さく報道されたことがきっかけです。

その頃に、ちょうど五反田にあるITスタートアップの広報会という勉強会を始めたんです。それを開催している中で、せっかくこれだけ五反田にスタートアップが集まったんだから、横のつながりも欲しいし、五反田という地域のブランディングもしようという流れになりました。五反田のブランディングをしてイメージを底上げしたい、企業の採用率を上げたいというのが目標でしたね。

法人化については、メルカリさんが上場間近と話題になっていた時期で、スタートアップが注目されていたので、社団法人を作って認知度を上げていける好機だと考えました。「設立イベントもやったらいいね。じゃあ、そこに品川区長さんに来てもらえたらおもしろいね」という感じで話が進みました。

その頃、品川区は、スタートアップ企業のためにいろいろ施策を講じてはいるけど、それをスタートアップ企業に届けられないという悩みを抱えていたんです。毎年100社ぐらい訪問してヒアリングしていたらしいのですが、それも実らずという状況でした。例えば、品川区で「エンジニア確保支援助成」という制度が新設されましたがご存じですか?これは、エンジニアを採用した区内中小企業に対し、人材紹介手数料等の一部を50万円(対象経費の1/2、1人のみ)まで助成する制度です。

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そういう支援事業が、全然知られていない。私たちが五反田バレーという社団法人を設立することで、情報を伝えるハブになれるんじゃないかと、お互い意見が合致してスタートしました。

――そもそもスタートアップは、五反田に自然発生的に集まってきたのですか?

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柳澤:そうですね。弊社(ココナラ)も元々渋谷にあったんですが、人数が増えて、渋谷が再開発されていって、居場所がなくなって五反田に流れてきたという感じです(笑)。

山手線沿線で今までの交通の便がそんなに変わらずに、しかも埼玉や横浜からわりとアクセスがいい大崎の隣。社員が不便なく移動できるので五反田に引っ越してきました。最初は「えらいとこに降り立ったな」という印象でしたが(笑)。そういう企業さんが多かったのだと思います。

宮脇:うち(ノオト)は皆さんより前から五反田にいて、2014年からここ(現オフィス)に入居しました。2007年に「品川経済新聞」というメディアを始めたので、品川エリアから出られなくなったんです(笑)。だから、オフィスを移転するとき品川区内で物件を探していて、たまたま五反田駅から比較的近くて便利なところが借りられた。それが今のオフィスです。

そして、2018年に五反田バレーの設立イベントでモデレーターをやってくれという話をいただきました。「品川経済新聞」として担当し、それを機に五反田バレーに参加しています。

柳澤:五反田バレーという名を冠しているくらいなので、一応スタートアップ事業をやっている会社という立てつけにはしています。ただ、いろいろな企業さんに入っていただきたかったので、「ぜひノオトさん、五反田のドンとして入ってください」ってお願いしました。

――実際はスタートアップに限定していないのですね。

柳澤:今はしていないですね。最初は「社会課題を解決するオリジナルのサービスがあるITベンチャー企業」としていたのですが、品川区の意向もあって、品川区・五反田にある企業であればわりと自由です。あとは、町工場が多いエリアなので、そういう老舗の小さな会社も何社か入ってくださっていますね。人材交流とかナレッジの共有とか、ベンチャー企業とちょっと情報交換したいという意向があるようです。

「知ってもらって、働いてもらって、創業してもらう」という3つの柱

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――五反田バレーの活動の一環として「五反田計画」というメディアがあると思いますが、どういった経緯で立ち上がったのですか?

宮脇:五反田バレーに加入したタイミングで、ノオトでも何か協力できることはないかと考えました。メディアを立ち上げたり、情報発信したりすることだったらできるということで、メディアの立ち上げをご提案しました。

五反田バレーの広報は、それぞれの会社の広報さんが本業と別に兼任されているので、頻繁な情報発信は難しいだろうと思ったんです。メディアを持っておけば、そこからいろいろ情報を発信することができるだろうと話を持ちかけて、実現に至りました。

――どんなターゲットに向けてコンテンツを制作しているのですか?

水上:メインは五反田に住んでいる人と働いている人ですね。カテゴリーは「五反田の企業」「五反田で働く」「五反田を知る」「五反田で学ぶ」の4つを設けています。

五反田という街のブランディングの目的もあるので、「出没!アド街ック天国」のような人気番組にのっかって、21日に放送された「五反田」のランキングを予想する記事を放送前に公開しました。また、五反田バレー参画企業さんの紹介や、五反田バレー主催のイベントレポートも数多く公開していますね。今後は、五反田の歴史を紹介するカテゴリーも考えています。

――どういうコンテンツを発信していくか、基準はあるのですか?

水上:編集部のメンバーは私を含めて4人いるのですが、みんな五反田エリア近辺に住んでいるんです。なので、ネタは五反田エリアに住んで働いている当事者としての目線と、五反田バレーの参加企業の目線から、五反田のいいところを紹介したいよね、という思いで企画を立てています。

宮脇:全世界の人に読んでもらいたいとか、日本全国に知られたいというよりは、五反田に暮らす人やこれから暮らそうと考えている人、何かしら五反田とつながりがある人たちが見てくれればと考えています。

柳澤:五反田というエリアで区切っているのは意味が大きいです。例えば、私の会社(ココナラ)は「シェアリングエコノミー」というビジネスをやっていて、シェアリングエコノミー協会に入っています。協会でのつながりは、どうしてもビジネスの括りになっちゃうんですよね。だけど、エリアで区切ることでビジネスの括りもない。業態とか業種の括りもなく、エリアというつながりの中で情報発信ができるのは、唯一無二だと思っています。

品川区としては、「五反田を知ってもらって、働いてもらって、創業してもらう」という3つの柱を推し進めたいと思っていて、まさに「五反田計画」の発信したいことと重なっています。五反田バレーとしては、まず五反田で働いている人には五反田をより好きになってほしい。企業の採用ターゲットに対しては、「五反田いい街じゃん。働いてもいいかも」って思ってもらい、採用につながることを目指しています。

――「五反田計画」が立ち上がってまだ1年足らずですが、反応はいかがですか?

水上:五反田バレーの参画企業さんが、SNSでシェアしてくださることが多いです。五反田エリアにみんな愛着があるので、地域密着の情報発信することで、そこで働いている人たちが反応してくれている印象はありますよね。

柳澤:同じ五反田で働いていても、やっぱりほかの企業さんのことって結構知らない。それを取材して、企業内容、事業内容を紹介しているので、「五反田計画」をまたいで事業マッチングみたいなことができれば理想的ですね。

あとは、ITベンチャーのエッセンスを入れてイノベーションを起こしたいという会社もいるので、そういう方たちと「五反田計画」を絡められたらいいなと思っています。

切磋琢磨しながらビジネスが生まれる街にしたい

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――「五反田計画」にはノオトの会社名が表に出ていないですが、あえて会社のブランディングや宣伝は避けているのですか?

宮脇:自社のブランディングというよりは、協業という認識です。「五反田計画」は同じエリアの中の企業さんみんなのものだと思っています。でも、編集部としては好きなように自由に作らせてもらっている感じです。どんな記事が上がってくるのかな、くらいの温度感で見られていますね。

自由に企画できますし、その記事がヒットすれば編集部としてもうれしいですし、表立ってアピールしていなくても、それがきっかけでうちの本業にもいろいろ引き合いがあるんですよ。これが最終的に、加盟している企業さんの採用につながるなど、そういう貢献ができていければいいなと思っています。

――ノオトさんは企業のメディアも自社メディアもやられる編集プロダクションとしての実績が豊富ですが、「ウェブメディアはこうありたい」という思いはありますか?

宮脇:好かれるメディアを作りたいと思いますね。インターネットってちょっと炎上させれば、安直にPVが稼げるじゃないですか。ちょっと反感を買うようなことを書いて議論を巻き起こせばいい。それも戦略としてはありなんでしょうけど、アンチもいっぱい出てくるので最終的に嫌われるんですよね。

そういう意味で「五反田計画」は、多分嫌われようがないと思うんです。むしろ、ますます五反田が好きになるとか、バズるようなインパクトのあるコンテンツでなくても、「いつも見てるよ」とかいわれるようなメディアにしていきたい。「品川経済新聞」は、それをうまくやってきたメディアです。コツコツやることが一番大事ですね。

――メディアというよりもオンラインサロンに近いイメージもありますね。

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宮脇:そうですね。ただ、サロンになっちゃうと外から見えづらいので、メディアとしてたまたま偶然出会うことも大事かなと思っています。検索したらこれが出てきたとか、「アド街」で見て知ったとか。

サロンという意味では、うち(ノオト)はコワーキングスペースの分室として、コワーキングスナックを運営(※)しています。夜の営業はママとチーママが曜日交代、そして週に3日だけは昼スナックもやっています。そこでお客様の相談にのったりとか、お客様同士をマッチングさせたりっていうのが仕事につながるんですよね。まさに「サードプレイス」的な場になっています。

COVID-19感染拡大防止のため臨時休業中、営業日はカレンダーで確認を

柳澤:やはり「五反田計画」を通して、何か事業が生まれるのは夢ですね。「五反田計画」を見た町工場の方が、「そんなVRの技術あるんだったら、うちに取り入れたいな」といって、そこで事業マッチングが起こるとか。そういうスタートアップの五反田バレーならではの活動を通して、お互いに切磋琢磨しながらビジネスが生まれる。元々、「社会貢献度の高いビジネスを五反田バレーで」と集まったので、そこで社会に還元できたらうれしいという感じですかね。それが夢です。

宮脇:例えばキャッシュレスの街にするとかね。深センのように、どこの店行っても「ここ、キャッシュレスできるね」っていうのを五反田が率先してやるとか。渋谷でいきなりやろうとしても難しいと思うんですけど、五反田だったらいけるんじゃないかと、ちょっと期待もあるんですよね。

五反田バレーに入っているIT企業さんがアドバイスするとかして、キャッシュレス化とIT化をセットで飲食店におすすめしていく。それに、品川区も協力してくれれば、街そのものを変えやすいと思うんです。「最近の五反田はすごいよね」っていう空気になるのを期待したい。

柳澤:働く身としては、五反田って居心地が良くて、肩肘張らずに気取らずに、リラックスして働ける街だと思います。未開拓感があって、「自分が発見できる街」みたいな面もあるので、愛着が持てますね。働く場ですごく愛着のわく街ってなかなかないと思うんですけど、五反田はそういう愛着が自然とわき上がるいい街だと思います。

――そういう下町感と、最先端のIT企業のスタートアップが集まるギャップがおもしろいですね。

柳澤:みんな、サードプレイスを探しているのかもしれないですね。

宮脇:仕事を終えて家に帰るまでのあいだのコミュニティみたいな感じはありますよね。

柳澤:五反田は職場の近くでそれができちゃうみたいな感じですかね。

水上:ITなのにアナログ、インターネットなのにローカルみたいな。

柳澤:五反田バレーは各社からそれぞれ広報担当が集まっている組織なので、社内の人に言えないこともここで相談することもありますし、みんなすごく仲がいい。五反田バレー自体がサードプレイスになっている感じはありますね。みんな近くで働いているので、「飲みに行こうよ」って声もかけやすいです(笑)。

 

202026日取材)

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編集者情報

ナイル編集部
ナイル編集部

2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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