「灯台もと暮らし」編集長に聞く、メディアは新しい価値観や人と出会える場

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「灯台もと暮らし」編集長に聞く、メディアは新しい価値観や人と出会える場

高度経済成長期のように、みんなが同じ目標と価値観を持って生きられた時代は終わった。社会の価値観が目まぐるしく変わり、生き方や働き方も多様化している現代社会。そんな時代にあって、「灯台もと暮らし」を運営する株式会社Waseiは、「これからの暮らしを考える。より幸せで納得感のある生き方を」をコンセプトに、地域の自治体や企業の活性化とブランディングをサポートする。

「灯台もと暮らし」は、次代を担う若者たちをターゲットに「自分にとって理想的な暮らしとは何か」を考えるきっかけを提供するメディアだ。編集長の小松崎拓郎氏は、現在ベルリンに居を構えながら、「灯台もと暮らし」を通して、みずからも「理想的な暮らし」を探求する。

「メディアには熱量が必要」「編集者である前に探求者でありたい」と熱弁する小松崎氏。メディアを通して若者たちといっしょに「生き方、暮らし方」を考える彼に、メディアの果たす役割について話を伺った。

2「灯台もと暮らし」のトップページ。コンセプトに「問いを立てて探求する実践者が集まるメディア」を掲げる。

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やりたいことをやれば、収益は後からついてくる

――「灯台もと暮らし」は、どんな経緯で立ち上がったのですか?

2015年の1月1日に、初期のメンバー4名で立ち上げています。当時はみんな20代で、「これから私たちはどうやって生きていきたいか」を考えるために始めました。

自分たちが憧れる暮らしをしている人が地方に多くいらっしゃったので、彼らを取材していく中で、地域特集や企業特集を展開していきました。そこから派生したイベントやコミュニティなども提供しながら、同じような思いを持つ若い読者に向けて、コンテンツをシェアしてきました。

――ビジネスにしていくという構想は最初からあったのですか?

もちろん、会社としてやっているので、ビジネスという考えはありました。でも、どちらかというと、「やりたいことをやろう」というのがメンバーとしては大きかったと思います。結果的に、収益化にもつながってはいるのですが、収益化以前に単純にやりたいことを重視して、実際に取材をして作るという雰囲気でした。

――メディアのコンセプトを一言で表すと何でしょうか?

最初は「これからの暮らしを考えるメディア」ということで運営を始めました。その後、定期的に編集メンバーで合宿をしているのですが、そこでさらに「より幸せで納得感のある生き方を」というコンセプトが加わりました。

ペルソナは編集メンバー自身

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――読者はどんなペルソナを設定していますか?

実は、ペルソナは特に決めていないんです。2019年7月にリニューアルをしているのですが、そのときも、あえて明確には決めませんでした。ペルソナを明確に定めないのは、編集メンバー自身がペルソナだからです。リニューアルしてからは、問いを立てて探求する実践者が集まるための場づくりをして、20代の方を応援しているイメージです。

また、ペルソナを決めないということは、コンテンツづくりにもつながってきます。僕自身は、「超個人的」な人生の題材から問いを立てて、コンテンツを企画しています。超個人的で属人的なものづくりが、結果的に読者に刺さると思っているので。

――自分たちに共感してくれる人がターゲットということですね。

そうです。「これからどう生きていこう」と、働き方や暮らし方を考えているような方に見ていただいていると思います。

――「灯台もと暮らし」らしい読者の特徴はありますか?

今の自分を何か変えたいとか、その状態から良い状態にしたいと思っている方が多いと思います。例えば、東京のような大都市に住んでいるけど、ゆくゆくは地方で暮らしてみたいと思っているとか、今はバリバリ働いているけど、ゆくゆくは違う働き方をしたいと思っているとか…。現状に満足せず、何かを抱えている方が読んでくださっている気がします。

――今は都市に住まなくても、リモートワークで仕事ができる環境も整ってきていますね。

もちろん業種にもよりますが、自由度が高くなってきているのは確かだと思います。僕らは実際、「移動する編集部」という言い方で、居場所を転々としながら仕事をしてきました。個々人がみんな移動しながら、実際にメディアを運営しています。もちろん、工場や建設現場などのような仕事は難しいですが、そうでなければリモートワークはしやすくなっていると思います。

僕自身、今はベルリンを拠点に日本の仕事をしていますが、不都合はまったくないです。今日はシェアオフィスを利用していますが、ここには世界に向けて活動する会社やフリーランサーの方もたくさんいます。

――みずから理想の暮らしを体現しているわけですね。

コンセプトを「より幸せで納得感のある生き方を」にしているという点ではそうですね。今は終身雇用も崩れつつあり、若い人たちにとって選択肢がたくさんある時代です。

そう思うと、改めて僕らはずっと決まった答えを学ぶ教育を受けてきたんだなと痛感しています。就職活動のときに、初めて社会のためにどんな貢献ができるかを考える。会社に入ると、今度は人生の多くの時間を仕事に使っている。自分の人生をどう生きるのかを考えて、深めていく場や時間はないと思っています。

だから、違和感とか好奇心とか、素直な気持ちを大切にする人たちといっしょに疑問を感じ、考えて行動していける探求者でありたい。そうあることで、納得感のある生き方をしていけるんじゃないかと考えています。

編集メンバーの属人性の高いものを作る

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――現在、「灯台もと暮らし」のマネタイズはどのようにされているのですか?

「灯台もと暮らし」は、元々、マネタイズを考えていたわけではないんです。運営を始めて2年目から、県や市などの自治体から地域特集をやってほしいというお話をいただくようになり、スポンサードコンテンツ(※)として「宜しく伝える」というカテゴリーを設置しました。

今では、「私の地域でもこういうものを作ってほしい」とお声掛けをいただく機会が増えていますが、僕たち自身が共感できる地域やご担当者さんに出会えたら、やらせていただいています。

※メディアの編集側がコンテンツを制作し、そのコンテンツに広告主がスポンサードするもの。

――メディアのコンセプトにフィットしたコンテンツだけを提供していくということですね。

はい。実際、多くの地域や行政の方に、「好きなように作ってください」とおっしゃっていただけるので、作ったものに対して大幅に修正を加えられたりすることもなく、任せていただけています。
基本的には編集メンバーの属人性の高いものを作るようにして、「灯台もと暮らしらしさ」を出せるようにしています。

――今後も、自治体からの仕事を中心にマネタイズしていく予定ですか?

それも引き続き並行しつつ、単なる地域メディアではなく、「みずから問いを立てて行動する探求者が集まるメディア」にしていきたいと考えています。各編集メンバーがさまざまな企画を立てて、属人的なコンテンツを作ることに注力していきたいですね。

地域は今、「生き方」を模索している

――自治体の仕事はどんな企画が多いのですか?

自治体ではどちらかというと、場所より人が目的になる風潮になってきています。いろいろな人にお話を伺う中で、点ではなく面で見て、地域の持つ魅力を伝える特集ができるようにしています。

企画自体はその地域によって異なるので一概にはいえないですが、基本的には移住者を増やしたいというのが近年の皆さんがおっしゃることです。

――必ずしも観光だけじゃないのですね。

むしろ、「灯台もと暮らし」に関しては、観光よりも移住ですね。長い目で見て「生きていく」ことをテーマにすることが多いです。読者もそうですし、行政からもそういうご要望が多いです。

――全体を俯瞰したときに、人気がある地域や傾向、トレンドはありますか?

やはり日本全体を見たときに、光る地域はありますね。例えば、青森県十和田市であったり、島根県海士町だったり、いろいろな地域を特集させてもらっています。「鳥取メディア研究部」のように、地域に暮らしている人々が自分たちの手で情報を発信していこうと始まった企画もあります。

また、さまざまな講師の方をお招きして、学べる講座を参加者の方々といっしょに開催もしています。地域特集だけではなく、東京と地域の人をつなぐことを東京でやったり、地方でやったり…。単純に、ただ発信するだけではない展開をしています。

KPIは読者の熱量

――実際に、地域の人と読者とのコミュニケーションはあるのですか?

オンラインコミュニティは、いろいろな形でやっています。初代編集長がやっていた「編集女子が“私らしく生きるため”の作戦会議」とか。僕は「もとくらの現像室 / 現像室」という写真オンラインコミュニティを運営してきました。あるいは、「Wasei Salon」という「これからの働くを考える」をテーマにしたオンラインサロンもあります。

地域の特集もコンテンツだけで終わらずに、イベントもいっしょにやるようにしています。イベントに来られた読者の方は、実際に特集記事の感想をツイートしてくれることが多いんです。関心を持ってくれた人と地域の接点は、必ずイベントで作っています。イベントを定期的にやっているので、これもある意味コミュニティといえるかと思います。

また、「灯台もと暮らし」を熱量のある場所にしたいと思い、リニューアル時に感想を送れるシステムを導入しました。「灯台もと暮らし」では、熱量の高い記事を作って、心の奥深いところから読者に共鳴してほしいので。

それを図るために、「感想文を送りたくなるくらい、共感してくれたらうれしいよね」「私も悩んだりしているけど、いっしょにがんばろうね」と、目配せし合える場にしたいと思っています。そのために、記事の末尾に感想を送れるシステムを導入しました。

実際に記事が公開されるといろいろな感想が送られてきて、それに対して編集メンバーが必ず目を通し、書いた人が返信をしています。感想まで書いてくれる人は、なかなかいないと思うんです。しかし、そこまでしてくれる人がいる。「灯台もと暮らし」にKPIがあるとすれば、その感想の熱量が指標になるでしょうね。

編集者というより、探求者としてものを作っていきたい

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――今後、コミュニティ強化のために会員制などは考えていますか?

考えています。「灯台もと暮らし」では、「問いを立てて、みずから探求者が集まるメディアにしていきたい」と表明しているのですが、まず僕ら自身が問いかけ、探求者となるモデルの記事を作る。それが集まってきたら、いずれはもっと読者の方が関われる余白を作っていこうと思っています。その余白が、会員制という形になるかもしれません。

――今、メディアは広告収入だけで成立させるのは厳しい状況ですが、今後マネタイズについてはどのように考えていますか?

お金になる・ならないにかかわらず、まず作り手である自分たちが当事者意識を持っていること。なぜやるのかを明確にして、本当に作りたいものを作れる場であることが一番大事だと思っています。トレンドを追いかけようとか、急いで何かをしようというのはあまり考えていないですね。

――「灯台もと暮らし」とそのコミュニティから、何が生まれてくると期待していますか?

やはり、自己実現をしながら道を進んでいる人たちが、世の中に増えていくといいなと思っています。そのために、僕らは編集者というより、探求者としてものを作っていきたい。僕らがそういうコンテンツを作っていくことで、考えるきっかけを投げかけられればと思っています。

さまざまな価値観と出会い、出会ったヒト・モノ・コトから考えたり、議論したり、書いたりする中で考えを深める。そして、「私はこう生きたいから、こういうアクションをしてみよう」というところまでいけるのが、理想の世の中かと思っています。まだまだ僕らがやっていることは、本当に第一歩ぐらいのことですけど。

――その第一歩として、メディアが一番適切だったということですか?

そうです。新しい価値観だったり新しい人だったり、メディアで出会う機会を作る。そういう出会いが人を成長させてくれると思っています。

「灯台もと暮らし」4つの方針

――「灯台もと暮らし」の今後の展望があればお教えください。

今の社会全体の課題は、考える力を養いづらいことだと思っています。だから、「灯台もと暮らし」がすべきことは、自分の人生をどう生きるのかを考える場を作ることに尽きます。そのためにみずから問いを立てて、そういう力を養えるような学び舎みたいになれたらと考えています。そうなれば、「灯台もと暮らし」は、より社会にとって役に立つようになると思っています。

――「より幸せで納得感のある生き方を」の実現は、まさにご自身で体現されていると思いますが、ベルリンでの暮らしはいかがですか?

ベルリンで暮らして、12月末でちょうど1年になります。生活するだけでこんなにもいろいろな試練が待ち受けているという意味では、やはりマイノリティだと感じますね。すごく鍛えられていると思います。

――今後、オウンドメディアを運営していく上で、一番大切にしていることは何ですか?

4つあります。まず、ユーザーファーストではなく、編集者ファーストのものづくりをしていること。
2つ目は、PVが指標ではなく、熱量を指標としていること。3つ目は、1ヵ所に集まって作るのではなく、世界各地で作っているということ。最後に、メディアの差別化を他者と比較するのではなく、自分と向き合うというやり方をしていること。

インターネットのコンテンツは、ほぼ当たり前のように無料で読むことができます。メディアは入り口を担っているからこそ、PVを追いかける以上に、その世界観に共感した人たちに対していかにして価値を提供するか。逆にいえば、企業が提供するサービスと、いかにつなげていくかを大事にしたほうがいいと考えています。

 

小松﨑拓郎(こまつざき たくろう)
1991年茨城県生まれ。フリーランスの編集者/シネマトグラファー。2015年に株式会社Waseiに入社。これからの暮らしを考えるメディア「灯台もと暮らし」立ち上げに参加し、現在編集長。パートナーの荻原ゆかと暮らしをデザイン・編集するチーム「白梟」としても活動中。オリンパスアンバサダー。湖畔住まいが夢。

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編集者情報

ナイル編集部
ナイル編集部

2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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