Lidea(ライオン) vs 花王の顔(花王)【オウンドメディア一本勝負!第1回】
成功するオウンドメディアと失敗するオウンドメディアの違いは何なのでしょうか。私たちは、何を基準にオウンドメディアを運営していけば良いのでしょうか。
今回から始まる連載「オウンドメディア一本勝負!」では、業界の気になるオウンドメディアを比較・検証し、その答えを探っていきます。
第1回は、家庭用品メーカーの両雄、ライオン株式会社の「Lidea(リディア)」と、花王株式会社の「花王の顔」。
「Lidea」は、「くらしとココロに、いろどりを。」をキャッチフレーズに2014年10月にスタート。今年6月にリニューアルした生活情報メディアです。
「花王の顔」は、「ちょっといい毎日を発明しよう。」をキャッチフレーズに今年3月に始まったばかり。研究者を通じて、商品の開発秘話を紹介するメディアです。
次に挙げる5つの指標において、それぞれのメディアを採点していきます。
<5つの指標>
【1】ブランディング
企業に対する共感や信頼を通じて価値を高められているか。
【2】おや?まあ!へぇ~
疑問や好奇心を抱かせ、驚きや発見を与え、納得してもらえているか。
【3】ソートリーダーシップ
未来を見据えた革新的な提案によって、業界を主導できているか。
【4】解決策の提示
ユーザーが抱える課題や悩み、欲求を満たす提案ができているか。
【5】ストーリー性
心を動かし、記憶に残し、態度変容を促すストーリーが提供できているか。
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目次
【1】ブランディング
「Lidea」の最大の特徴は、研究キャリアと専門知識を持つ「暮らしのマイスター」と呼ばれる7名(2019年9月現在)の研究員が寄稿している点です。ライオンのスペシャリストが、知っておくと便利な暮らしのノウハウを提供し、ユーザーの疑問や悩みに答えています。
一方、「花王の顔」は、一人ひとりの研究員が日々の研究開発に取り組む姿を通して、花王の最新技術を伝えています。研究員という「人」にクローズアップすることで、花王にしか提供できないオリジナルコンテンツとなっています。
「ブランディングの神様」として知られるデービッド・アーカー教授は、ユーザーがブランドから受けるベネフィット(恩恵)を、次の3つに分類しています。
- 機能的ベネフィット
- 情緒的ベネフィット
- 自己表現ベネフィット
例えば、
・機能的ベネフィット
「会員登録で20%OFF」「史上最大濃度のプレミアム抗菌成分配合」といった、ユーザーが直接得られる具体的な恩恵のことを指します。
・情緒的ベネフィット
「汗のにおいが消えて炎天下でも安心」「いい香りで気になるあの人との急接近もOK」など、商品・サービスを受けることで得られる満足感、安心感、優越感などです。
・自己表現ベネフィット
「仕事も恋も積極的になれるかも!」「薄着でセクシーアピールしちゃおうかな?」といった、ポジティブなセルフイメージです。
「Lidea」の多くは課題解決型コンテンツなので、機能的ベネフィットはもちろん、ストーリー性も高いため、情緒的ベネフィット、自己表現ベネフィットにもスムーズにつなげています。例えば「【座談会】NANOX担当者もタジタジ|コスプレイヤー&アイドルファンの激アツ!ニオイ事情」という記事では、コスプレイヤーたちに、においとの苦戦について赤裸々に語ってもらいつつ、ライオンの専門家がその解決策についてアドバイスします。
「花王の顔」も同様に、研究者の科学的見地から機能を「立証」しているので、当然、機能的ベネフィットには説得力があります。ただ、ユーザーが自分事化するほどの情緒的ベネフィット、自己実現ベネフィットは提供できていません。
ライオンや花王が扱う商品は、毎日の生活の中で消費される低関与商品ゆえに、差別化が難しい側面があります。そのため、認知獲得を目的とした広告や店舗での棚の確保に大きく依存します。
つまり、差別化が難しければどれだけ目立つかが勝負になるのです。BtoCの低関与商品を扱う企業にとって、認知獲得に時間がかかるオウンドメディアの有効活用は非常に難しく、課題も多いのが現状です。
しかし、ライオンも花王も専門家を前面に押し出し、認知獲得よりエンゲージメントの強化に重点を置くことでブランディングに成功しています。これは、低関与商品を扱う企業には、とても参考になる事例といえるでしょう。
◆ブランディングの採点◆
5(Lidea):4(花王の顔)
3つのベネフィットをバランス良く網羅している点で「Lidea」の勝ち。「花王の顔」は、サイトのタイトルがストレートで潔し!まだ本数が少ないものの、今後どんな研究者が「顔」として登場してくるのか楽しみです。
【2】おや?まあ!へぇ~
コンテンツにおいて、最初にユーザーに「おや?」と、疑問や好奇心を抱かせることで、注意喚起を促します。続いて、「まあ!今までそんな風に考えたことがなかった!」といった驚きの反応を引き起こします。そして、最後に「へぇ~」と納得させます。
この「おや?まあ!へぇ~」のステップで、ユーザーに新たな体験をもたらします。
「Lidea」は、地味なテーマでも切り口がユニークで、「あえて思考停止で充実の晩ごはん!レシピアシスタントにまず相談だ」「トイレスリッパは必要?実験でわかった意外な効果」「「ほったらかし洗い」で、食器洗いがもっとラクラク!」など、一瞬「えっ?どういうこと?」と注意を引くタイトルが多く見られます。
「花王の顔」も、研究開発を軸にしたコンテンツゆえに、「おや?まあ!へぇ~」を強く打ち出しています。公開してまだ約半年なのでコンテンツ量は多くはありませんが、丁寧に作られた動画とテキストをセットにしたコンテンツは、ちょっとした科学ドュメンタリーのようなワクワク感があります。
◆おや?まあ!へぇ~の採点◆
4(Lidea):4(花王の顔)
ネタの豊富さ、切り口のバリエーションは「Lidea」の勝ち。ただ、花王も研究開発ネタの一点突破で攻める強さがあるので、総合点では互角。今後、どんな強烈なコンテンツが出てくるのか楽しみです。
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【3】ソートリーダーシップ
ソートリーダーシップとは、企業が未来を見据えた革新的なアイディアや解決策を提示し、業界における主導的な地位に立つことです。
ライオンと花王は、生活用品メーカーの両雄だけあって、ソートリーダーとしての挟持が十分に伝わるコンテンツが並びます。
「Lidea」では、ライオン快適生活研究所の7名のスペシャリストが前面に出て、「お洗濯」「リビングケア」「オーラルケア」「ヘルスケア」の研究成果を積極的に発信しています。
例えば、お洗濯マイスターは、洗濯用洗剤などの製品開発に約15年携わってきた繊維製品品質管理士。リビングケアマイスターは、家事関連の製品企画、マーケティングを約20年、生活者向け講習会などを約10年経験してきた消費生活アドバイザー。オーラルケアマイスターは、オーラルケア関連の基礎研究、開発研究に20年以上携わった健康予防管理専門士が担当しています。
このように、ライオンで長年研究開発のキャリアを積んだベテランたちが、ソートリーダーとして名を連ねます。
オウンドメディアにありがちな職業ライターが書いたハウツーやノウハウのまとめ記事とは、一線を画しています。これ以上、信頼に足る一次情報はないでしょう。
一方の花王は、「世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化の実現」や「社会のサステナビリティ(持続可能性)への貢献」を使命とする企業理念を掲げています。
そして、ソートリーダーとしての理念を実現する「顔」として白羽の矢が立ったのが、約3,000人の研究員です。未来の課題を解決すべく、日々研究を行う研究員の姿をユーザーに伝えようとする心意気が伝わってきます。今後、研究員からどんな驚きの話が出てくるのか、非常に楽しみです。
「Lidea」も「花王の顔」も「専門家」を前面に打ち出すことで、業界内でソートリーダーとしての存在感を十分にアピールしています。豊富な経験と知識によって信頼を醸成し、ユーザーとのエンゲージメントにつなげています。
◆ソートリーダーシップの採点◆
5(Lidea):5(花王の顔)
両社とも譲らず互角の勝負です。どちらも社内の「開発者」というエースを出してきている点は、業界を越えて、次代のオウンドメディアの在り方の指標になるに違いありません。
企業オウンドメディアの成功事例を詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください
【4】解決策の提示
解決策の提示は、オウンドメディアを運営する上で必須条件です。ユーザーは「洗剤が欲しい」のではなく、「衣服をきれいに洗いたい」のです。洗剤はそのための手段でしかありません。つまり、解決策の提示とは、「洗剤を紹介する」ことではなく、「衣服をきれいに洗う」ことなのです。
解決策を提示されることで、ユーザーは初めて「このブランドは自分のニーズ満たしてくれる」と感じることができるのです。
自社の事業に関係がありながら、関心を引くコンテンツを出し続けていくことは簡単ではありません。逆にいえば、ユーザーが抱える課題や悩みの解決策を提示すれば、関心を持つユーザーだけを呼び寄せることができるということです。
自社製品の研究・開発に関連するコンテンツであれば、ネタに困ることはないでしょう。内容の濃い、役立つ情報を発信し続けていくことは可能なのです。
例えば「Lidea」の人気記事ランキング(2019年9月時点)を見ると、下記のようになっています。
1位 服にうっかり油性ペン汚れが!これって落とせるの?
2位 冷凍した食品を電子レンジで上手に「解凍」する方法
3位 「野菜」を上手に冷蔵・冷凍保存する方法
4位 「タオルケット・敷きパッド」のお洗濯方法と早く乾かす干し方
5位 最短半日で完成!夏の自由研究ノート「汚れた服がキレイになる仕組み」
これだけでも、ユーザーの抱える課題に答えるコンテンツが、いかに幅広くそろっているのかがわかります。
また、オウンドメディアの運営では、DMP(データマネジメントプラットフォーム)や会員情報、アクセス解析など、施策によって豊富な顧客データを持つことができます。「どんな記事に人気があるのか」「どんなユーザーが来ているのか」といったデータを活用すれば、コンテンツが増えれば増えるほど、ユーザーのニーズに最適化したコンテンツになっていきます。ユーザーから直接得られる情報はコンテンツ制作だけでなく、広告・宣伝にも欠かせない重要な役割を果たします。
「花王の顔」は、研究員のインタビュー記事がメインのため、一見、課題解決型コンテンツからは離れている印象も受けます。しかし、花王の商品がどんな目的で作られ、市場でどんな役割を果たそうとしているのか、花王という会社の理念や哲学がリアルに伝わってきます。そのため、花王というブランドへの信頼醸成に大きく貢献しているといえるでしょう。
例えば、「未来型の界面活性剤 バイオIOS」というコンテンツは、なぜ洗剤で汚れが落ちるのかという基礎的な話から始まります。「汚れがきれいに落ちる!」という主張ではなく、「なぜ汚れが落ちるのか?」というストーリーを展開することで、ユーザーはキャッチコピーやイメージだけに踊らされずに、深く理解した上で商品を選択できるのです。
◆解決策の提示の採点◆
5(Lidea):3(花王の顔)
「Lidea」は、課題解決型コンテンツの量とバリエーションにおいて、「花王の顔」を圧倒しています。「花王の顔」は動画をベースにしているので、わかりやすさ、親しみやすさという点で、今後どんな展開になっていくのかが楽しみです。
【5】ストーリー性
「Lidea」で提供されるコンテンツの多くは課題解決型ですが、時々目を引くのが、「「めんどくさい」の正体を脳科学者に聞く」「ハミガキの"ミントの味と香り"は、こう決まる。フレーバリストのマニアなお仕事」といった、ユニークな視点で切り取ったストーリー性の高いコンテンツです。
例えば「「めんどくさい」の正体を脳科学者に聞く」は、読者代表のライターが「なんでもめんどくさいと思ってしまう自分を変えたい」と脳内科医を訪ねます。そこから先生の講義が始まり、「30秒でめんどくさい」が消える方法や、「めんどくさい」が起こるメカニズムを解説。
実践を交えたユーモラスな写真とかわいらしい漫画で、わかりやすく丁寧に説明をしてくれます。体験レポートの体でストーリーが進むので、読者は「最後はどうなるんだろう?」と気になって、最後まで一気に読まずにはいられません。
この「めんどくさい」というテーマは、ライオンの商品とどう関係あるのかと思いきや、オチは歯磨きでした。普段、めんどくさいと思いがちな歯磨きを、サボらずにやるにはどうすればいいかをアドバイスしているのです。
「なぜ歯磨きはめんどくさいのか?」「どうすればめんどくさくなくなるのか?」。こんな切り口のお話なら、一度読んだらきっと一生忘れないでしょう。これがストーリーの威力です。
一方、「花王の顔」は、サイト内のコンテンツが「花王の顔」と「Open the Kao」の2つのコーナーに分かれています。研究員の開発秘話が中心なので、当然すべてがストーリー仕立てになっています。
2019年9月現在、「花王の顔」で公開されているのは、「洗浄の世界に革新をもたらす」という未来型の界面活性剤「バイオIOS」と、「汚れを落ちやすく、つきにくくする」を可能にした技術「AC-HEC」の2つの開発ストーリー。研究者が詳しく語った内容が、動画とテキストで紹介されています。
もうひとつの「Open the Kao」では、フリーアナウンサーの大橋未歩さんが研究開発の現場をリポート。研究者に直接インタビューする様子が動画として視聴できます。
どんなコンテンツもストーリーがなければ、ユーザーは心を動かされません。人は単に羅列されただけの情報を記憶することは苦手です。何も起こらない事実や無機質な情報には、すぐに退屈します。それがストーリーになれば、興味を抱き、心にとどめます。ストーリーは心を動かすスイッチであり、伝えたい情報を心に刻む記憶装置なのです。
◆ストーリー性の採点◆
4(Lidea):5(花王の顔)
「Lidea」にも多くのストーリーコンテンツがありますが、ストーリーコンテンツのみに徹した「花王の顔」が一歩リード。今後、笑いや涙も交えたヒューマンドキュメンタリーも出てくると期待します。
総合結果
最後に、それぞれの項目の結果を合計してみましょう。
◆合計◆
23(Lidea):21(花王の顔)
僅差で「Lidea」の勝ち!「Lidea」はスタートして4年経つので優位ではあります。とはいえ、「花王の顔」も動画コンテンツならではのインパクトと波及力で、一気に大化けする可能性を秘めているのではないでしょうか。
あなたも自社と競合のオウンドメディアで、5ラウンド勝負してみてはいかがでしょうか。きっと、今まで気付かなかった課題とやるべき戦略が見えてきますよ。
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