Web担当者がライターを育てる方法【成田幸久のコンテンツ相談室】
こんにちは。コンテンツディレクターの成田です。このコーナーでは、お客様からよくいただくご質問から毎回1テーマをピックアップしてご紹介していきたいと思います。
企業によるオウンドメディアが浸透してきた昨今、「オウンドメディアを運用しているが、ライターの質のコントロールが難しい。やはりプロの編集者に、任せないとダメなのか」という声をよく聞きます。
そこで今回はライターとの付き合い方や、ライターの育て方についてお話をしたいと思います。
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目次
ライターとして依頼したくなる2つの基準
先日、ある若手の編集者から「成田さんは、よくライターの経験がない人にもいきなり書かせていますよね〜。心配にならないですか?」と驚かれました。彼は私がライターが本業ではない人にインタビュー記事を書いてもらったり、インタビュー経験のない新人ライターにインタビューをしてもらっていることを知っていたからです。もちろん私は、誰彼構わず未経験者に依頼しているわけではありません。
「この人にライターとして仕事を頼んでみたい」と思う基準は、大きく2つあります。
まずは「気が合う」かどうか。「気が合う」というと友だちになれそうだったら誰でもいいのか!? と、つっこまれそうですが、そうではありません。ライターとしての信条や考え方、なぜインタビューしたいのか、なぜそのテーマで取材したいのか、という明確な意図があり、それに私自身が共感するかどうかです。
そして、もう1つはメールでのやりとりです。当たり前ですが、読む相手に主旨や意図、目的がわかりやすく伝わるように書けているかどうか。「読み手に伝える」という意味では、メールでも記事でも違いはありません。
編集者不在でもライターは育つのか?
ときどき、ライターさんから売り込みのメールをいただくことがあります。最近もあるライターさんからこんなメールをいただきました。
「どんなに書いても月10万円くらいしか稼げません。何か仕事があればよろしくお願いします」と。
しかし、このライターさんは、自分の名前(名字だけ)も職歴も過去の実績も送ってこなかったので、検討のしようがありませんでした。これは先述の2つ目の「メールのやりとり」の基準でいえばすでに失格です。
私は一応、このライターさんに職歴と過去の実績を送るようにお願いしました。するとすぐに過去の実績を送ってきてくれました。メールのやりとりにおいて返事はとても早かったので、この点においては合格です(ただし職歴は送ってこなかったので、経験年数や年齢などはわかりませんでした)。
送ってくれた実績の記事は50本以上ありました。私はそこからジャンル別にまずランダムに5本を選んで読んでみました。しかし、どの記事も誤字脱字が多く、主語と述語がつながっていなかったり、同じ段落で同じ語彙を繰り返して使っていたり、記事の主旨が見えなかったり…。記事というより「作文」のレベルでした。ほとんどがクラウドソーシングで書いた記事とのことでしたが、本人が書いてから掲載に至るまでの過程で誰かがチェックをしている形跡が見られないのです。第三者によるチェック機能が働かない記事をいくら書いても、文章力はなかなか上達しません。上手になるどころか、悪いクセだけが、カビやサビのように身にこびりついてしまいます。スポーツでもまず基本のフォーム固めから始めるように、変なクセがついてしまっては、上達を阻むことになりかねません。私は伸びしろのありそうな未経験者は試してみたいという意欲がわきますが、経験はあるものの進化の兆しがなく、どんな原稿になるか容易に想像がつく人には、あまり依頼をする気にはなりません。
前回の「インタビューにおける編集者の役割は?」でも書きましたが、ライターと編集者(職業としての編集者である必要はありません)は、一心同体です。編集者なくしてライターは育ちません。私は編集者としてもライターとしても30年近くの経験がありますが、いまも必ず第三者に見てもらっています。いま書いているこの記事も20代の若手マネージャー(編集者ではありません)に読んでもらって、掲載までに何度も書き直しています。
「安かろう、悪かろう」記事で勝者は生まれない
クラウドソーシングではよく「スキル不要!」とライターを募集しています。では、スキルのないライターを一から育ててくれるのでしょうか。
クラウドソーシングの役割はあくまでもライターのマッチング・斡旋です。安い原稿料で請け負う初心者、あるいはスキルの著しく低いライターは、やはり安い価格なりの品質になります。そうすると記事への信頼性も低くなります。
ライターを育てるには、編集者としての経験と知見があれば、もちろん理想です。しかし、企業がオウンドメディアを運営するとき、クラウドソーシングなどを使って直接ライターを起用するか、社内のスタッフに書いてもらわなければならないことのほうが多いでしょう。
もしあなたの会社で予算が月額5万円しかなく、1本1000字で1000円の記事を毎月50本上げたい、というのであれば、いますぐやめるべきでしょう。
どこにでもあるありふれた価値の低い記事を量産をするだけ、むしろあなたの会社のブランドを毀損するだけです。
だからといって、諦めるのは早計です。要は第三者の目で客観的にチェックすることが重要なのです。プロであるかどうかは、そのアウトプットされたコンテンツに対して、責任が持てるかどうか、なのです。
オリエンシートの上手な使い方
そうはいっても、そもそも何を基準に原稿の良し悪しを判断すればよいのかわからない、という方もいると思います。
そんな方には、まずオリエンシートを作成することをオススメします。上がってきた原稿が想定したものとズレが生じないように事前にどんな原稿になるかを詰めておくために使います。
特に検索で上位表示を狙うために必要なキーワードを網羅したり、同じテーマで何本も書く場合、ライターによって内容が被らないようにしたり、ターゲットのニーズに適合しているか確認するためです。
ただ、これを誤ると、とても効率の悪い作業になるので気をつけなければなりません。たとえばオリエンシートには「テーマ」「必要なキーワード」「文字数」「概要」「ターゲットニーズ(課題、欲求、不安)」「ターゲットに気づいてもらいたいこと」「想定される構成要素」といったチェック項目を埋めていきます。
オリエンシートは上手に使えば、編集経験がほとんどない人には、強力な助っ人ツールになり得ますので、活用する価値はあると思います。
専任のライターを育てよう
プロの編集者とライターを起用する場合は、企画、編集、テーマ選定、ライターのキャスティング、ディレクション、校正、校閲などが入ってくるため、2000字程度で最低でも3万〜5万円はかかります。
しかし、そんな予算はないという企業も少なくないでしょう。
そういう場合は専任のライターを育てることをオススメします。求人を出してもよいですし、オウンドメディアやソーシャルメディアで募集してもよいでしょう。
あなたの会社の商品やサービスのことを最も知っているのはあなた自身です。しかし、あなた自身がライターとして原稿を書く余力はないでしょう。その場合はライターに自身を取材して記事を書いてもらうのです。繰り返しますが、大量生産のどこにでもある記事に価値はありません。価値があるのは、あなたの会社しか持っていない情報やノウハウなのです。
たとえば、あなたの会社がケーキを売っているとします。つまりケーキ作りのプロです。ストロベリーショートが名物かもしれません。あるいはチーズタルトが一番売れ筋商品かもしれません。そんなあなたの会社の専門的な話をさまざまな切り口で考え、ライターにあなたやあなたの会社の職人さんなどに取材をしてもらいます。そして、1回の取材で1本2000字の記事を5000円☓10本=5万円で書いてもらうのです。長期的視点に立てば、1000円の記事を50本制作するより価値の高いコンテンツができることは言うまでもありません。専任にすることで、そのライターはあなたの会社やその業界に精通し、書けば書くほど記事の質は高くなっていきます。
テストライティングで見極める
とはいえ、プロの編集者でも、最初からライターの良し悪しを見極め、育てていくのは難しいものです。質の高い売れっ子のライターは忙しいので、募集告知をしてもあまり集まってこないかもしれません。ただ、ライターとしては経験が乏しくても、あなたのいる業界に興味があったり、詳しかったりするライターが応募してくる可能性は十分あります。
まず、初めて依頼するライターには、テストライティングをすることをオススメします。そして何本か書いてもらって、締め切りを守ったか、指示通りにできているかなど、やりとりはスムーズにできたか、チェック項目を設けてテストしてみてください。そのようなテストを拒否するライターであれば、その程度のライターだと割り切って起用しなければよいのです。
テストライティングにしろ、本番依頼にしろ、ディレクションに対して、質問が多く出てくるライターは期待してよいでしょう。齟齬がないように詰めておきたいという気持ちが強いからです。文章が拙かったり、小慣れていなかったりしても、基本的な構成が抑えられていれば大きな障害ではありません。文章はディレクションと経験次第でいくらでも上手になりますので、あまり心配する必要はありません。
必要なのは、上手な文章を書くライターではなく、読まれる文章を書くライターです。そして、大切なのは、どこにでもあるコピペ記事を大量生産することではなく、あなたの会社にしかないオリジナルのコンテンツをつくることなのです。
イラスト:タナカケンイチ
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