「コンテンツは”共感”よりも”発見”が重要」育児マンガで飛躍したConobieに聞く1,000万PVメディアの育て方
育児メディア「Conobie(コノビ―)」は、育児マンガを起爆剤に2015年4月のサイト開設から約2年半で月間1,100万PVを達成するほどに成長しました。
当初のコノビーは数百人のライターを抱えて毎月大量の記事を公開するメディアでしたが、2年目以降は1/4以下にライター数と更新記事数を減らしつつもPV数を成長させることに成功しました。なぜ、そのような成長を遂げることができたのでしょうか?
今回は、株式会社LITALICOが運営する子育てメディア コノビー編集長の渡辺龍彦さんに、メディアを成長させるために有効なマンガコンテンツの作り方と、編集部のあり方について話をうかがいました。
- 「メディア事業を行っているがPV獲得が思うようにできていない」と悩んでいる方
- 「大量のコンテンツを投下して流入を増やすというメディア運営はしんどい」と感じている方
- 「自社のコンテンツマーケティングを発展させるアイデアがほしい」という方
に、ぜひ読んでいただきたい内容です。
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目次
「子育てに、笑いと発見を」をコンセプトに成長した2年目
――コノビーは立ち上げから現在まで、メディアとしてどのように推移してきましたか?
LITALICOは、もともとインターネット事業会社ではなく、障害者福祉や教育の施設を全国で運営している会社です。なので、コノビーのオープン当時は、会社としてもメディア事業部を立ち上げたばかりで編集経験者がおらず、今と比べればメディアのコンセプトから事業戦略まですべてが模索中といえる状態でした。
僕は、コノビーが公開された翌月の5月から専任の編集長になって、現在に至ります。その前は、発達障害児向けの教育施設のマネジメントをしていました。
1年目は、とにかくコンテンツを更新し続けました。数百人の外部ライターさんに記事を書いていただき、それを編集して公開する方針です。ただ、1年弱運営してみてわかったのですが、この体制で品質をコントロールするのは限界だろうという判断になりました。そこで、ライターさんの数を1/4程度まで絞り込み、制作する記事数も同じくらいの割合で減らしました。また、コンテンツの種類をテキスト中心からマンガに絞り、現在は8~9割を育児マンガで構成しています。
――コンテンツの数を減らしたのに、PVを増やすことができたのはなぜですか?
前提として、最初の1年間でいわゆる「グロースハック」については思いつく限りのことをやりました。1年目に培ったノウハウが、今でも数字に貢献していると思っています。
それに加えて、コンテンツの更新数ばかりを追わずに、コンセプトと数値に基づいた選択と集中を行い、記事の内容によりコミットできるようになったことが大きいと思います。また、コノビーのコンテンツを支えるライターさん達は、すでにSNSやブログで活躍した実績がある方をスカウトし、その中でコノビーに合う方に書いていただいています。なので、1記事あたりの反響が大きいことも大切な要因です。
読者であるお母さんたちは、育児の合間に息抜きとしてコノビーを読んでくださっています。その生活スタイルに対してマンガというコンテンツは相性が良い。そこに絞り込んだことも良かったと思っています。
コノビー編集部は渡辺編集長を含めて6名で運営している。
――ライターのスカウトはどういう基準で行われていますか?
スカウトを2年間続けてきて最も重要だと思うポイントは、シンプルに「おもしろくなりそうか?」という点です。描写が細かくて臨場感があるとか、笑いのセンスがあるとか、少し変わった視点を持っているとか、ライターさんの強みが明確で、それがコノビーでいきるイメージが湧くかどうかですね。
そして、基本的には数本のトライアル執筆を経て、読者の反応なども参考にしながら、正式に執筆者として参画していただくことになります。
コノビーに執筆したことで、ライターさんのSNSフォロワーが一気に増えたりとか、出版社から書籍化の声がかかったりとか、新しい才能が世の中に認められていくお手伝いができます。そうなると、僕らもすごくうれしいです。
――「おもしろい」というのは、どういう基準で決めていますか?
コノビーは「子育てに、笑いと発見を」というコンセプトで運営しています。おもしろさという観点で言うと、「笑い」がFunnyで、「発見」がInterestという整理が、感覚として近いです。
「笑い」は、記事のテーマや目的によって必要ではないこともありますが、「発見」はどの記事にも欠かせない要素です。
――「発見」を重視するのは、なぜですか?
「発見」は、新しいものの見方や感情の動きを読者に与えます。読者が既に知っていることを、ありきたりな方法で描いてあったとしたら、読んでもらう意味がないと思うんです。
だから、編集部では常に「この記事の発見はどこにある?」という問いが飛び交ってます。最近メディア運営で重視すべきと言われる「共感」よりも、「発見」の方がおもしろさにとっては重要だと考えています。
「発見」のある人気作品は、1記事で月間25万PVを集めることも。
マンガは、作者と編集部が一丸となって「おもしろくする」
――マンガコンテンツの制作で注意しているポイントはどこですか?
編集とライターさんとのコミュニケーションです。今、子育てメディアでマンガコンテンツに力を入れているところは多いですが、連載を他メディアと掛け持ちしているライターさんからは、「コノビーさんが一番たいへん」とよく言われます。
コノビーでのマンガ制作プロセスは、基本的にまずライターさんから構成を箇条書きで出してもらうことから始まります。次に、編集者がフィードバックした構成をもとに、ライターさんは下書き状態のラフ絵を作ります。
さらに、ラフ絵に対して編集者から「人物の向きは読みやすいのでこっちに変えましょう」とか、「文字の大きさはここを強調したい」「ここは“発見”の手前だからタメを作ってみては?」といった要望を伝えて、内容を詰めていきます。
それだけに、普段のコミュニケーションは重要です。メールや電話で常時連絡を取っていますし、ときには北海道や九州など、全国各地のライターさんに会いに行くこともします。月に1回はライターさん限定のメルマガも配信していますし、一筆添えた年賀状や暑中見舞いも送っています。
――なぜ、それほど手をかけるのですか?
コノビーの執筆者にはブロガーやインスタグラマーの方から、プロの漫画家やイラストレーターとして活躍されている方まで、様々な方がいらっしゃいます。
それぞれに強みはありますが、記事の企画からスマホ画面上での見せ方、拡散方法までを、ライターさんだけで考えるのは大変なことです。画力があるからといって必ずしも反響が大きいわけではありませんし、笑いのセンスは素晴らしくても、そもそものテーマ設定が読者層とずれてしまうと上手くいきません。
忙しい育児の合間に執筆いただくことになるので、なんとかヒットさせたい。狙った反響を得られるように記事の質を高めようとすると、編集者と一緒に手をかけて積み上げていく必要があります。
ただ、時間をかければいいというものでもないですし、ライターさんの子育ての負担になりすぎるのも良くないと思うので、必要に応じて、こちらで工夫できることはもっとしていきたいと思っています。
――読者の反応を知っている編集者だからこそ、おもしろさを引き出すことができるのですね。
コノビーで扱う「子育て」というテーマは、笑いあり涙ありと相当に幅広いのですが、「発見」がないものは反響がないというのが明確です。
反響がないということは、発見がうまく伝わらなかった、もしくは発見自体がなかったということなので、毎週の編集会議でふり返って、次にいかします。この積み重ねが、反響を出すためのノウハウとして蓄積されてきています。
あと、SNSの中ではFacebookからの流入が多いのですが、投稿がユーザーからどう見えるかは非常に重要なので、記事の内容と同じくらいふり返りをします。投稿設定のノウハウとしては、現時点では全部で20くらいのルールに集約されています。
コノビーのFacebookページには、15万人を超えるフォロワーがいる。
読者と直接交流し一緒に考えることで、メディア方針が鮮明に
――編集部のルール化は、ほかにどういったものがありますか?
メディアのポリシーを作りました。この資料は社内と、あとコンテンツを作ってくれるライターさんに共有しています。
ライターと共有されているコノビーのメディアポリシー(一部抜粋)。
LITALICOという会社は、障害がある方への就労支援や発達障害のある子供の教育事業を行っています。僕は元々、教育事業で現場の親御さんとの面談や、施設のサービス改善に取り組んだりしていました。
一方で、施設事業にはどうしても地理的な制限があり、サポートできる方の数が限られてしまう。そこで、新しくインターネット事業を立ち上げ、「子育ての新しい文化づくり」を目的としたコノビーを運営することになったのです。
その事業ミッションからブレイクダウンしたものを、制作の現場で共有できるマニュアルにしています。
あと、記事を通じた情報発信に加えての取り組みとして、「コノビーサロン」というリアルイベントを今年から始めました。
――「コノビーサロン」とは、どういうものですか?
「自分に立ちもどれる場所」というコンセプトで、コノビーの読者に募集を行い、応募者の中から選抜させていただいた6名をメンバーとして、全3回のワークショップを無料で行っています。お母さんたちが連れてきた赤ちゃんたちは別室でシッターさんに預け、メンバーだけで集まります。
子供が生まれると、どうしても時間や気持ちの大部分が育児に費やされてしまいます。「◯◯ちゃんママ」と子供の名前で呼ばれることが増えて、自分自身の思いや好きなことを素直に語れる機会が減ります。
たとえば、好きな映画や音楽を記入するワークシートでは、意外に手が止まってしまうんですね。子供向けの音楽や教育番組以外に、あまり見聞きしてないなと気づく。そこから「自分って、どんなものが好きな人だっけ?」という、一個人としての自分像を、徐々に思い出していくわけです。
「自分に立ちもどれる場所」がコンセプトのコノビーサロン。
――参加者にとっては興味深いワークショップだと思いますが、コノビーにとってのメリットはあるのでしょうか。
コノビーサロンを運営することのメリットは2つあります。
1つは、その場からコンテンツが生まれていくというメリット。参加者へのインタビューを通じて、コノビーサロンで参加者が感じた自分自身の変化や発見を、多くの読者に共有できるのはとても貴重なことです。事業的にも、そのコンテンツのPVが生む収益で運営コストは回収できますし、メッセージ性の高いコンテンツを通じて間接的に生まれるメディアへのブランディングを検討すると、十分に取り組む価値があると考えています。
コノビーサロン参加者へのインタビュー記事は、メディアの姿勢を明確に表している。
もう1つは、こちらがより重要ですが、編集部が読者のことを知ることができるというメリット。
記事を編集するときにも、コノビーサロンの参加者個人のイメージを思い浮かべながら「◯◯さんだったら読んでくれるかな?」「△△さんなら、ちょっと嫌がるかもね」といった感じで、編集部メンバーが共通認識を持って制作できます。
よく「ペルソナが大事」と言われますが、それでも僕は解像度が足りないと思っています。コノビーサロンのメンバーは、Facebookグループでサロン参加後の近況も知っているし、家族ぐるみで交流があるので「□□ちゃんがついに立った!」とか、子供のことまで編集部全員が良く知っている。編集部が読者のインサイトに対して臨場感を持てるというのは、ものすごく強いです。
メディアのコンセプトが明確になり、読者とライターと一緒に成長したコノビー。
――今後、コノビーとして取り組んでいきたいことを教えてください。
画一的な家族像、画一的な子育てのイメージ。母親らしさ・父親らしさ、それぞれへの偏った期待。「こうあるべき」という理想の押し付け。そうしたものに縛られずに子育てできる文化をつくるのがコノビーのミッションです。
子育ては、自分の親など少ないサンプルにイメージが縛られやすいですが、実際は家庭ごとにものすごく違う。その違いに気づいて、受け止めて、その先へ…と、読者とその家族が、自分たちなりの幸せを作っていけるようにサポートしたい。そのためには、今のように記事を作ってサイトで公開しているだけでは不十分で、将来的にはメディア以外の展開も含めて、まだまだやらなければならないことはたくさんあると思っています。
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