インタビューにおける編集者の役割は?【成田幸久のコンテンツ相談室】
こんにちは。コンテンツディレクターの成田幸久です。
このコーナーでは、お客様からよくいただくご質問から毎回1テーマをピックアップしてご紹介していきたいと思います。
今回は、「インタビューに失敗しないコツはありますか?」という質問について。前後編でお届けします。
タレントさんや社長さんにインタビューしても、なかなか期待通りの記事にならない。人選が悪いのかライターが悪いのか。期待していた話が出てこなかったり、的はずれな質問と答えだったり…。きちんと狙い通りのインタビュー記事にするコツはないか?という質問をよくいただきます。
インタビューは取材の基本です。素材集めの基本です。どんなに一流シェフが料理をしても、素材が悪ければ、美味しい料理は作れません。
そこで今回はインタビューの取り組み方についてお話したいと思います。
インタビューを円滑に進めるためには、5つのタスクがあります。
(1)ライターの手配
(2)事前のすり合わせ
(3)記事の仕上がりを想定
(4)現場でのフォロー
(5)原稿のチェックと修正
インタビューは、ライターにお題を与えて、「インタビューしておいて」と依頼すれば自動的に出来上がるものではありません。そこには必ずディレクションが必要になります。ディレクションとは、上記の5つのタスクを押さえて的確な指示をすることです。映画製作と同じです。俳優たちが脚本に沿って、勝手にセリフを言えば作れるわけではありません。プロデューサーや映画監督がいなければ映画が作れないのと同じです。
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目次
お粗末なインタビューは誰のせい?
「コンテンツマーケティングとかコンテンツディレクターについて、まったく知らないので、小学生でもわかるように説明していただけますか」
最近、あるメディアの取材で「コンテンツディレクターという仕事」についてインタビューを受けました。
そのときのインタビュアー(話を聞く人)として現れたライターの最初の一言がこれでした。
「なぜあなたの不勉強(怠慢)をわたしがフォローしなければならないの?」という思いが頭をよぎりました。
もちろん、わたしはいつも「わかりやすく」を信条にしているので、専門用語を並べて難しい話をするつもりはありません。しかし、難しい話を読者にわかりやすく伝えるのは、インタビュイー(話す人)の仕事ではありません。インタビュアー(話を聞く人)の仕事です。そのためにインタビュアーはインタビュイーのことを事前に徹底的に予習しておかなければならないのです。
そして、質問に入っていくのですが、そのインタビュアーは、編集部が用意した質問骨子に従って順番に読み上げていくだけ。
「これだったら、メールで質問送ってもらって返事したほうが良かったのでは?」という思いが頭をよぎりました。
それでも精一杯わかりやすく説明したつもりでしたが、インタビュアーの反応を見ていると、とても理解しているとは思えないことがたびたびありました。
「いまの説明わからなかったでしょ? なんでスルーしちゃうの? 確認しなくていいの?」という思いが頭をよぎりました。
といった感じで「???」連発のインタビューながらも、自分なりに話せることは精一杯話しました。なぜなら、良い記事を作ってもらいたいからです。そして、できるだけ多くの読者に「コンテンツディレクター」という仕事に興味を持ってもらいたかったからです。
もちろん上がってくる記事に、ほとんど期待はしていませんでした。けっきょく何が聞きたかったのか、わたし自身が最後までわからなかったからです。
スルーされたところは予想通り、まったく反対の意味にとらえていたり、誤解していたりで、惨憺たる出来上がりでした。それ以上に誤字脱字のオンパレード。全体の流れも用意された質問骨子に沿って、ただ時系列に並べているだけ。テープ起こしをした生素材をそのまま渡されたのかと思いました。この記事で何を読者に伝えようとしているのか主旨がさっぱりわかりませんでした。
ライターのレベルに依存するのは、編集者の仕事ではない。
わたし自身、新人ライターを起用することは少なくありません。新人を育てることも編集者の重要な仕事だと考えているからです。
だから新人ライターや初めて仕事をするライターの場合、インタビューに限らず取材をするときは、必ず事前に念入りに打ち合わせをして段取りを確認します。どんな原稿にまとめるかの構成についてもだいたい決めておきます。そして現場には必ず同席して、いつでもフォローできるように臨みます。最悪、ライターがドタキャンして現れなくても問題ないように準備しておきます。それが編集者の仕事なのです。
わたしが受けたインタビューは、5つのタスクのすべてがないがしろにされていました。これではたとえベテランの一流ライターを起用しても、質の高い記事を上げることは難しいでしょう。
インタビューがひどかったり、原稿がひどかったりするとライターの問題にされがちです。しかし責任の8割〜9割は編集者(ディレクションをする人)にある、とわたしは考えています。なぜなら事前のディレクションによって、ほとんどの問題は回避できるからです。
以下は、この5つのタスクをどのように押さえていくか、わたしが実際にインタビューに臨んだ実例をもとにお話します。
2年前のことです。あるムック本の仕事で、5人のタレントにインタビューをする機会がありました。そしてフリーランスになったばかりの、新人の女性ライターと仕事をすることになりました。
彼女はライターとしてインタビューをするのは初めてです。そこで最初はわたしがインタビューをして、彼女をアシスタントとして隣に同席させました。そして、その後のインタビューのための質問骨子を一緒に作り、インタビューの段取りについて綿密に打ち合わせをしました。そして後日、ようやく彼女にインタビューをしてもらうことになります。
もちろん彼女にとってはデビュー戦だったので、わたしは同席し、いつでもフォローできる態勢で臨みました。すると10 分もするとピタっと話が止まってしまい、緊張のせいか一言も話せなくなり、沈黙がしばらく続きました。雰囲気が悪くなりかけたので、そこからわたしが引き継いでインタビューを終えました。
インタビュー終了後は、反省会を開き、次回のインタビューに備え、リハーサルをしました。そして迎えた数日後、大物タレントのインタビューだったのですが、彼女は緊張することもなく、最初から最後までほぼ完璧にインタビューを成し遂げました。原稿もまったく直しはなく、タレントの方にも満足してもらえました。
彼女は、いまでは「クライアントや編集者に原稿を書き直されたことがないです(笑)」と豪語するまでに成長し、売れっ子インタビュアーとして活躍しています。
もうひとりの新人ライターの例です。
同じ新人ライターを、同じクライアントの同じ企画で起用しながら、担当編集者が違っただけで、その新人ライターの評価がまったく正反対となったことがあります。
これは、ある知人の編集者の体験談です。新人ライターの取材に編集者が企画立案から一緒に取り組み、インタビューも同席し、原稿の最終仕上げまで担当したときのことです。上がってきた原稿は修正箇所は多かったものの、修正指示によって原稿は生まれ変わり、クライアントからも「こういう記事がほしかった」と褒めてもらったそうです。これも編集者が事前に打ち合わせをしっかりやり、二人三脚で進めたからです。
しかし、同じ企画で別の編集者がついて書いたある記事では、事実誤認や不明瞭な引用などが発覚し、クライアントの信頼を失うことになったそうです。これは別の編集者が上がってきた原稿の品質を見抜けなかったこともありますが、その前にどのようなディレクションをしたのか?という疑問が残ります。ライターは新人で、基本的にライティングのいろはもまだよく理解していなかったのですから。
ライターを生かすも殺すも、編集者(ディレクター)の取り組み方次第なのです。
5つのタスクのおさらい
改めて5つのタスクについて整理してみましょう。
(1)ライターの手配
ライターのレベル、特性、実績、面談などからきちんと精査してキャスティングすれば、半分は成功です。どんなに名シェフでも腐りかけた野菜で新鮮なサラダは作れません。
ライターがそれまでに書いた実績の確認はもちろん大切ですが、それ以上に重要なのが直接話してみることです。人との対話の仕方(クセ)、話のポイント(ツボ)の押さえ方などでどんなインタビューをするか想定問答をしてみます。また、何に興味を持っているか、これまでのインタビューで苦労したこと、感動したことなどを聞いてみてもいいでしょう.そうすることで、ウィークポイントや得意なことがわかります。インタビュアーは、おしゃべり上手な人である必要はありません。必要なのは「聞き上手」であることです。
(2)事前のすり合わせ
なぜこのインタビュー(取材)をするのか、その意図と目的を明確にし、意識合わせをしておきます。そして質問骨子は必ず共同作業で作ります。素案はどちらが作成してもよいですが、どちらがインタビュアーになってもよいくらいの心構えで質問を作成します。
(3)記事の仕上がりを想定
最初にすり合わせたインタビューの意図と目的に沿って、記事をどういう流れでどんなオチにするかを想定しておきます。もちろん実際に話を聞いて、もっと興味深い話が出てきたら、変更して構いません。よくオリエンシートなどで最初に構成をガチガチに決めると、そこから外れないように忠実に進める人もいますが、目的はより面白い、より質の高い記事を作ることです。インタビュー中にPDCAを回しているつもりで、変更していくことは構わないのです。
(4)現場でのフォロー
Web担当者や編集者がインタビューに同席するのは、インタビュイーに挨拶をするためだけではありません。インタビュイーに取材の意図をきちんと伝え、インタビュアーが意図通りきちんと話が聞けているか確認し、話がずれていたら軌道修正をしたり、漏れがあったら補足したりするためです。
インタビューが終わったら、記憶が鮮明なうちにインタビュー内容についてライターと振り返り、どこがポイントだったか、削っていい話はどこなのか、どんな流れで構成するかを話し合います。そうすることで原稿が上がってきてから想定していた内容とぜんぜん違う!となることを避けます。
(5)原稿のチェックと修正
原稿が上がってきたら、インタビュー後に確認した通りの構成になっているか、訴求ポイントがきちんと押さえられているかを確認します。誤字脱字や表記ゆれ(漢字やひらながなが統一されていない)は気づいたら修正してしまっても構いませんが、ライターのクセになっていることも多いので、今後間違えないためにも、直接ライターに直してもらったほうがよいでしょう。
今回はインタビューに臨むときに押さえておくべき5つのタスクについてお話をしました。インタビューには、もちろんプロとして身につけておきたいスキルも必要ですが、その前にまず「いい話を聞きたい」「いい記事を作りたい」という意欲がなければ始まりません。
おざなりに質問を並べて、聞くべき要素は揃った、では質の高い記事は作れません。インタビュー記事はインタビュイー(話をする人)とインタビュアー(話を聞く人)、そして編集者(ディレクションをする人)が三位一体となって、初めてスタート地点に立つのです。
次回は実際にインタビューをするにあたって、覚えておくと役に立つテクニックについて説明をしたいと思います。
イラスト:タナカケンイチ
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