「サイボウズ式」はいかにして“KPIなし”で成果を出したか
サイボウズ株式会社のオウンドメディアである「サイボウズ式」には、「KPI目標は追わない。というより、そもそも作らない」「他メディアと同じ記事は書かない」「編集長が企画書だけでジャッジしない」といった、独自の運営方針があります。
2012年の立ち上げから、独自企画の記事のみを掲載し続け、テレビ番組にも取り上げられるほどの発信力をもつ「サイボウズ式」。しかし、PV数としては月間平均20万(最高値は40万弱)、公開記事数も月に10~15本と、メディアの規模としては決して大きくありません。
では、その発信力はどのように作られたのでしょうか?
連載「愛のないコンテンツマーケティングに未来はない」第12回と第13回では、「サイボウズ式」の藤村能光編集長と、編集部の明石悠佳さんに話をうかがいました。
読者からの信頼を築いた「メディア戦略」と、戦略の核である「企画」の作り方について、詳しく紹介します。
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目次
サイボウズ式には数値目標がない?
――サイトのKPIを設定していないと聞きましたが……本当ですか?
藤村:本当です。KPIやKGIは設定していません。
サイボウズ式を立ち上げた初年度の2012年は、KPIとして新規訪問で月間3万UUという目標設定がありましたが、無事に達成したので、その後は数値目標を特に設定していないんです。
記事の更新数もKPIとしては決めていません。最初のころは、企画の作り方やアウトプットを試行錯誤していたこともあり、月に1記事しか公開できなかったときもありました。
――それでオウンドメディアとして成果が出ているのは興味深いところですが、ほかにも「やらないこと」はありますか?
藤村:出してもらった企画書だけを見て、編集長の私が採否を決めるという進め方もやめました。編集者の「想い」を引き出して、企画を練り上げたかったからです。
二次情報を集めた記事や他メディアでも読めそうな企画、読者のためではない企画…例えば単純な製品PRが目的の企画は、サイボウズ式の編集方針に沿いません。なので、他部署から依頼があったとしても、無理に記事化せずお断りすることもあります。メディアとして「結果が出なかったから閉める」という撤退ラインも、今はありません。
これらはすべて、サイボウズを知らない方に向けて地道に信頼をつみ重ね、コミュニケーションしていくという根本姿勢からくるものです。メディアを継続するためには、そういった姿勢が大事なんじゃないかと思うんです。
サイボウズ式の「やらないこと」
- KPI/KGIの数値目標は設定しない(PV数、記事更新数、コメント数など)
- 他メディアでも読めそうな企画はやらない
- 二次情報だけで記事にすることはしない
- 読者のためにならないコンテンツはつくらない
- 編集長が企画書だけでジャッジしない
- オウンドメディアの撤退ラインは設定しない
オウンドメディアで成功できた勝因はなにか
――サイボウズ式では、取材をして記事を書こうというスタンスで取り組んでいますね?
藤村:なるべく自分たちで企画を立てるようにしています。取材や記事化の際は、ライターさんと写真家さんに依頼をしていっしょに記事を作り上げますが、企画を立てるところは、ほぼすべて編集部でやっています。企画立案を通じてメンバーの「スキルアップ」が見込めますので、その点は一貫して変わりません。
――立ち上げてから1年半ほどは、PV数も“横ばい”だったようですが「成果が出なかったらやめる」といった撤退ラインはありましたか?
藤村:特にありませんでした。メディアを立ち上げるときに、社長の青野(慶久)が、今までやってないコミュニケーションにチャレンジしてほしいといった意気込みを持っていてくれたこともあり、利益化のためのメディア運営といった話はこれまで出てきませんでした。
読者とサイボウズの信頼を築こうとする編集部に投資をしてくれたというか、見守ってくれたというか、そんな姿勢があったのかなと思います。
青野社長(写真右)はサイボウズ式の対談企画へもたびたび登場
――オウンドメディアで失敗する多くの企業がつまずくのは、まさに「成果にどうつながるの?」という部分ですが…サイボウズ式は何が違ったのでしょう?
藤村:オウンドメディアには、販売促進や売上達成を目的とした短期的な施策と、認知向上や広報を目的とした長期的な施策の、2つのタイプがあると思います。私たちは後者のブランディング視点で、長い期間で成果を見ています。会社も定量的な数値よりも、メディアのコンテンツが自社のビジョン達成にどう貢献しているかという定性的な成果を見ているのかなと感じていて。そういう前提の違いもサイボウズ式の運営には良かったのかもしれません。
――Webマーケティングでは目標から逆算して施策計画を立てるというのが基本だと思いますが、そういうことはしないのですか?
藤村:していません。理由は、私たちの部署の変遷にあります。
サイボウズ式編集部がある現在の「コーポレートブランディング部」は、「マーケティングコミュニケーション部」という部署からわかれて立ち上がりました。マーケティングコミュニケーション部では、クラウドサービスのお試し数を伸ばすことを目的に、製品のプロモーションをしていました。認知を得た後のお客様に対してサービスの試用をしてもらうことが目的であれば、逆算で施策を立てることも有益だと思います。
しかし、サイボウズとして情報システム部門などの顕在層へ向けた製品プロモーションだけではなく、企業以外のコミュニティを含めた新しいお客様とのつながりが必要ということで、コーポレートブランディング部が新設されました。製品の試用を促すマーケター以外に、広報としてのコミュニケーションを担当する仕事ができたわけです。
こうした社内体制の変化もあり、「やるべきこと」と「やらないこと」を決めてメディアを続けることができたので、徐々に多くの読者へ支持されるようになったんだと思います。
その結果として、成果が出たというのが正直なところです。
――そういう考え方がベースにあるから、1ヵ月で何記事という運営スケジュールになってないのですね。
藤村:月に何記事といった目標を設定すると、記事本数を達成することが目的になってしまいがちです。
私たち編集部は広報のスキルを持った人がメンバーの中心になっていて、メディア運営に長けているわけでもありません。数字でガチガチにKPIを管理して、「今月未達だから、達成できるような企画を作って!」といった働きかけをしてもダメだなと思いました。最終的にその記事を読む読者にとっておもしろい記事を作らないといけないな、という気持ちは強いです。
やっぱり、自分たちが納得できる「想い」のこもった企画を作らないと、結果として読者のためになる記事にもなりません。読者が「本当に面白い!」と言ってくれるものを真摯に作りたい。だから、数字達成のためのコミュニケーションはほとんどやっていません。
――コンテンツに対する反響も、数字ではなく中身を見ているのでしょうか?
明石:そうですね。FacebookやTwitterなどのSNSでシェアやいいね!された数よりも、どういうコメントが付いたのか?をじっくり見ます。
ポジティブなものもネガティブなものも、「Yahooリアルタイム検索」などのツールを使って確認し、主要なコメントはキャプチャして社内共有するようにしています。企画担当者としては、数字だけが伸びている記事よりも「この記事に救われた」と濃いコメントが付いているとうれしいです。
藤村:想いを込めて企画しているので 、公開後の反響は気になりますし、コメントやご意見はしっかりと読ませていただきます。仕事としてというよりも素でやってるという方が正しいかもしれないです。
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「子守営業」の記事は、なにがよかったのか
――具体的に、反響が大きかった記事としてはどういうものがありましたか?
藤村:大きな反響を実感したのは、2016年8月に公開した「営業チームで子守をした話」です。SNSを中心に拡散されて、1週間で15万PVくらいになりました。
内容は、営業メンバーで大事なお客様へのアポイントがある日に子どもが病気で保育園に預けられなくなってしまったときに、営業チームの若手メンバーや営業部長が代わりに子守をしたという話です。
最初は社内共有ツールに報告がアップされて、その後に「サイボウズ式で取り上げませんか?」と編集会議にも持ち込んでくれて、「じゃあ」と記事にしたら、これだけ大きな反響になりました。
――反響として、どういった点が印象的でしたか?
藤村:営業しながら子守をするって普通はできないと思われていたので、お客様から「こんなことできるんですね」と反響があったりしました。また、社長の青野が働き方改革のテーマでテレビに出演した際にも、この記事を取り上げて話をしていました。
この記事に限ったことではないですが、SNSのコメントで反応が見えると、社内でも「サイボウズ式、良い感じだよね」と言ってもらえます。
立ち上げ当初は社内でも「サイボウズ式って、なに?」という状態だったと思います。これまでにないチャレンジな施策の場合は、成果がなかなか見えにくいですし。でも、良いコンテンツや反響が出ると、社内からも応援というか、「これ、サイボウズ式のネタにどう?」という感じで、企画の持ち込みや相談が増えました。
場合によっては、コンテンツをきっかけに社内で議論がうまれたり、企業ミッションへの理解が深まったり、社内外で新しいコミュニケーションの起点になることもあります。このコミュニケーションが、サイボウズという会社のブランド力と競争力を高めるというコーポレートブランディング部のミッションにもつながるわけです。
――なるほど。ブランディングに貢献できるわけですね。
藤村:そうです。サイボウズ式では、コミュニケーションがうまれるきっかけになるコンテンツこそ重要だと考えています。読者の方が記事を読んでそのことを1回でも話に出したり、ソーシャルメディア上でリアクションしてもらったりすることで、記憶に残り、「サイボウズって子守営業していたよね」と言ってもらえる。これが、私たちが目指す「将来のお客様との関係づくり」につながります。
もしその読者が将来、製品を導入・検討いただく場面になったとき、「そういえばサイボウズって…」と思い出してくれる可能性が高まるわけですから。アクセス解析ツールでは計測が難しい領域ですが、そういう効果があると信じてやっているというのがサイボウズ式です。
◆続編
企画の熱量を引き出せ!「サイボウズ式」3ステップ企画術
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