“あの読者”に届けたい。楽天「それどこ」が実践した伝わるコンテンツの作り方

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“あの読者”に届けたい。楽天「それどこ」が実践した伝わるコンテンツの作り方

連載「愛のないコンテンツマーケティングに未来はない」第10回は、楽天市場のオウンドメディアである「それどこ」の岡本麻里奈編集長と制作を担当する株式会社はてなの高野政法営業部長に話をうかがった。

2015年4月に立ち上げられた「それどこ」は、リリースから1年半で人気記事は2万以上のシェアを獲得するほどに支持を広げている。「最近、ようやく読者が本当に何を必要としているかつかめてきた」と語る岡本編集長と一緒に、オウンドメディアで成果を出すために必要なターゲット理解の深め方と、それをいかしたコンテンツの作り方について考えてみよう。

 

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月に10~15本の記事を更新する「それどこ」は集客の4割がSNS経由

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編集長に抜擢されて3ヵ月目の決意

――「それどこ」について簡単に教えてください。

岡本:立ち上げの背景として、楽天市場は非会員向けのアプローチに課題がありました。会員向けにはポイントやクーポンなどさまざまなアプローチ手段を持っていますが、会員になってもらう前はテレビCMなどマス広告を展開するしかないという状況でした。そしてマス広告は費用が億単位の施策になってしまいます。

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そこでオウンドメディアであれば、これまでリーチできていなかった非会員のユーザーにもアプローチできるし、おもしろそうだからやろう!という流れで私のところに下りてきました。

――「下りてきた」?

岡本:私は「編成部」という部署にいるのですが、そこではおもに楽天会員向けの販促イベントを企画しています。楽天市場にはユニークなスタイルの登録店舗が本当にたくさん存在するので、そういった魅力的な店舗さんの情報がどうやったら伝わるかを考えて企画・運用していました。
そしたらある日、上司に呼ばれて「“それどこ”を担当してほしい。お前でうまくいかなければ、あのサイトは閉める」くらいのことを言われて。私のところへ“きた”わけです。

――かなりの抜擢ですね…?

岡本:2015年の9月頃でしたが、当時も「それどこ」の数字は良かったので、社内外で評価されることが多いサイトでした。ただ、そもそも私はメディア運営も担当したことがなかったですし、突然のことだったので…「何をすれば良いんだろう?」「このメディアをやる必要があるんだろうか?」とかなり悩みました。それが、3ヵ月たつ頃に「だったら、私がそれどこを変えてやろう」って思えるようになったんです。
「楽天らしさを出しながら、楽天市場のオウンドメディアとして事業に貢献できるようなサイトにしよう」と。だって私、楽天市場のことが好きなので。

高野:2016年に入ってからは、岡本さんの色に染まってきましたよね。

 

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岡本編集長【左】と制作を担当するはてなの高野営業部長【右】

 

岡本:2015年の立ち上げ当初は「それ どこで買ったの?」というサイト名でした。まず、それを「それどこ」に変えました。「どこで買ったの?」というサイト名なのに、買い物と関係のない記事も多くて乖離があると感じていたためです。
「それどこ」と短縮形にすることで、「それ どこがスゴいの?」「それ どこがおもしろいの?」と幅広いテーマを扱っても違和感がなくなりました。
あと、楽天市場内の特定店舗を紹介しないという方針で運営してきましたが、それも「紹介したい!」と言って変えました。楽天市場ならではの店舗さんに登場いただくことで、もしほかに似たようなサイトができても差別化できると考えたからです。上司からは一任されているので、基本は自由にやらせてもらってます。

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読者におもしろがってもらうために、コストを惜しんではいけない

――「それどこ」に関わっているのは、どのようなメンバーですか?

岡本:楽天側は、私と上司、あとSEOの技術的なチェックをする人間の計3名です。

高野:はてな側のおもなメンバーは、担当編集者が1人と私の2名ですね。あとは担当編集の指示で、執筆者に依頼する編集が複数名います。

――「それどこ」の目標やゴールはなんですか?

岡本:KGIは楽天市場への事業的な貢献、KPIはUU数をおもな指標としています。記事の公開本数に必要なコストと、実際に読んでくれたユーザー数、さらにその方々が楽天市場でどのくらい買い物をしてくれるのか、長期的にどのくらいの収益が期待できるのか、という視点で目標を算出しています。
UU数は結構な上昇率で設定されていますが、いまのところ好調に達成しています。

――流入経路の割合はどうなっていますか?

高野:SNSが4割くらい、検索が2割ちょっと、あとは参照元からです。

――KPI達成のために記事本数を増やしたり、バズを狙ったりすることもあるのでしょうか?

岡本:それはないです。ソーシャルからの流入が多いからといって、コンテンツの本数を増やしてバズ狙いの記事を当てにいっても流入は増えないんですよ。そういう「質より量」に流れるよりも、短期的に数字を増やすなら楽天市場内に「それどこ」への露出を増やしたりして回遊をうながす方が効果あったりします。

高野:SNSで反響があるかどうかって、記事を作って公開するまでわからない部分がどうしてもあります。あるのですが、だんだんと打率が上がってきてる感触はあります。どういうライターに書いてもらえばいいか、どういう企画で掘り下げてもらうといいか、どういう情報を「それどこ」の読者はよろこんでくれそうか、そういうイメージを編集者がしっかり共有しています。
その仮説イメージを元に企画を詰めてライターを選定して、記事へと落とし込んでいきます。公開されたら読者の反応とすり合わせて、仮説が正しかったかを確認して…そうした積み重ねでようやくわかってきた感覚値みたいなものです。
だから、目標達成のために記事本数を増やすというよりも、感覚値を元に記事の作り込みをじっくり行う方が大きな反響が期待でき、結果として目標KPIを達成できるという循環が生まれています。

 

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――反響が出るポイントは、具体的にどのような点にあると思いますか?

岡本:どこなんでしょうね…感覚的なものなので説明が難しいのですが、読者の反響を知るためにTwitterのコメントを重要視しています。Facebookの反響を見ていないわけではないのですが、Twitterはシェアのされ方が早く、読者の反響をつかみやすいと感じています。
実際にTwitterで「楽天は嫌いだけど、このメディアは好きだ」というコメントをいただいたことがあったのですが、それは私が最初に目標としていたことのひとつなんです。「楽天をあまり好きじゃない人にも読んでもらいたい」というのが。そうやって少しずつ手応えを感じるようになってきました。

高野:1年半以上も続けている中で、「この人、いつもはてブしてくれるな」とか「この人のリツイートしたくなるポイントはココか」というのが見えてくるんです。だから、「この企画でこのライターに書いてもらったら、たぶんこの読者にすごくおもしろいって言ってもらえるだろうなぁ」というのが感覚としてつかめてきている気がします。

――読者のペルソナはどのように設定されていますか?

岡本:記事ごとに設定しています。逆に「それどこ」のサイト全体にはターゲットを設けていません。読者が拡散してくれるのは記事であって、「それどこ」というメディア自体を紹介してくれるわけではないからです。 だから記事ごとに男性向け、女性向け、30代向け、20代向け…という読者を設定して。さっき高野さんもおっしゃっていましたが「あの読者に届けたい」という感じです。

――ライターへの依頼時には、そのイメージをどのように共有していますか?

高野:実際に依頼する際は、はてなの編集者がライターと相談しながら進めるのですが、できる限り対面で打ち合わせを行うようにしています。お互いに信頼関係を作りながら企画の細部を詰め、最終的に記事の完成イメージを共有するためです。
具体的には、まず執筆を依頼した理由を伝えます。そうすることで依頼された側も寄稿に対して納得感が増しますし、こちらとしても期待することを伝えやすいです。その後は、スケジュールや業務内容の明確化、記事案や記事構成を一緒に練る作業、また必要に応じて取材や画像利用の許諾調整、最終的なレイアウト確認や写真のレタッチ、SNSでのOGPチェックまで行います。
最近では、ライターに「“それどこ”でお願いしたいのですが…」と言うと、「待ってました!」とか「いつも読んでますー」という声が増えていて。逆に「こういう風に書いたらどうでしょう?」といった企画の提案をいただくことがあるので、「それどこ」の空気感というか、世界観が皆さんに浸透しつつあるのかなと感じています。

 

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高野営業部長は「ジモコロ」など多くのオウンドメディアに関わってきた

 

――必ず対面で打ち合わせするって、大事なことですね。

高野:「利益」だけを考えてしまうと、打ち合わせはやらない方が良いんですよ。コストですし。でも、やはりメール文より対面の方が執筆者のことを理解できますし、こちらの思いも伝えやすいです。きちんと関係性を作り、企画や読者イメージのディテールまで詰まっていないと良い記事にならない。思いが詰まってないと読者にも見透かされてしまいますし、結果として拡散されないんです。
紙の時代の編集者からしたら、打ち合わせするなんて「当たり前だ」って言われそうなことですけど。インターネットで簡単にコンテンツが量産できる時代になって、そこが継承されてないというか、置き去りにされてしまっていることが多いような気がしています。
でも、当たり前のことをきちんとやらないと長期的な取り組みにとっては大きなリスク要因になってしまうと思うんですよね。

オウンドメディアの編集長に必要なスキル

――「それどこ」に対する評価指標はどのように設定していますか?

岡本:これだけのコストをかけるだけのリターンが得られているのか、という費用対効果は…とても数値化が難しいところです。社内でもまったく関係ない部署から見たら、「岡本はものすごい金額を使っている」と言われかねないですから。そのときのために「こういうことやってます。ああいう成果も出ました」という社内共有は意識して行うようにしています。
1年目、2年目は正直「おもしろそうだから」でチャレンジしたという側面も「それどこ」にはありました。でもUU数は順調に伸びてますし、現在は楽天市場にとって投資するだけの価値があるメディアだと認められる存在です。

 

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――では3年目に向けて取り組んでいきたい施策はありますか?

岡本:最初にお伝えしたことですが、楽天市場には本当にユニークな店舗さんが多いので、その魅力を掘り下げるような企画を増やしていきたいと思っています。それと関連して、ライターと店舗さんのオフ会みたいな企画をやりたいです。
店舗さんそれぞれにドラマがあるというか、本当に商品のストーリーはもちろんですが店舗運営の苦しさ楽しさみたいなところも含めて、楽天市場の店舗さんはとても魅力的なんですよ。
だから、記事になるかどうかは別として、リアルなイベントとしてライターと引き合わせてみたいなと考えています。このライターさんだったら、この店舗さんの商品をエモーショナルに熱量こめて語ってくれるんじゃないか…とか。実際に会うことで予想できない化学反応が起こることを期待しています。

――最後に、あなたにとって「コンテンツマーケティング」とは何でしょうか?

岡本:私が役割として担っている部分が、まさにコンテンツマーケティングだと思っています。価値のある記事を「それどこ」に書いてもらって、それが広く知れ渡って、興味のある人がサイトから楽天市場を訪れてもらう。
そのために、違和感を覚えたことはハッキリ言わなきゃいけないし、読者のコメントを読みながら反響をどうつかむかという部分とか、定量的に説明が難しい部分も直感的に判断して進めることが大事なんじゃないかとも思っています。もちろん、直感だけではなく根拠となる数字やデータを示すことは必要でしょうけど、どうしても数値化・言語化できない「手応え」みたいな部分もありますし。
その説明が難しい部分を熱量で推進させることが、コンテンツマーケティングをうまく機能させるために必要なのではないでしょうか。

 

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編集者情報

ナイル編集部
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2007年に創業し、約15年間で累計2,000社以上の会社にマーケティング支援を行う。また、会社としても様々な本を出版しており、業界へのノウハウ浸透に貢献している。(実績・事例はこちら

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