今からWebマーケティングを強化したい企業がやるべきことは何か?
これからWebマーケティングに力をいれるとなったとき、まずどこから手を付ければよいのか?ナイルのデジタルマーケティング戦略顧問であり、USのAdobe本社でAdobeAnalyticsの開発にも携わった清水誠氏と、ナイルのアナリストユニットリーダー・清水拓也に話を聞きました。
この記事では、
- 今までWebマーケティングをしていなかった企業が、最初に着手することはユーザーの理解。まず手軽にできるのは、Google アナリティクスのユーザーエクスプローラーの活用
- データはアウトプットではなく、インプット。これからデータ活用をしたい企業は、どんなツールを入れればよいか?
- 数字成果を求められる現場で、ユーザー理解に時間を使うことが難しい場合は?
などをお話しています。
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目次
ユーザーがサイト内をどう動いているか、どのくらい知っていますか?
――企業サイトは持っていても、更新や分析、SEOなどを行っていない企業も多いかと思います。そうした企業が「これからWebマーケティングに力を入れたい」となったとき、最初にするべきことは何でしょうか。
清水誠:そのサイトは、誰にどうなってもらうために作られたのか、改めて考え直すことだと思います。分析ツールを入れれば、ページビュー(PV)がいくつあった、1日平均何人が来た、という数字はわかります。しかし、目的があやふやなままでは、数字をどう解釈すればいいか分からず、有効に活用できないんです。
清水拓也:確かに、「なぜかアクセスが下がった、どうしよう」と相談されるお客様のなかには、目先の数字に一喜一憂しているケースも少なくないですね。ECサイトなら明確なゴールを設定しやすいですが、そうではないサイトは「もっとアクセスしてほしい」「お問合せをしてほしい」といった企業視点で数字を語りがちです。まずは、サイトの訪問者にどう変わってほしいのか、目的を捉え直すべきかと思います。
――ユーザーの視点を得るために、具体的にはなにから着手すればよいでしょうか。
写真:清水誠氏
清水誠:ユーザーがサイト内をどのように動いているのか、実際に追いかけてみるといいでしょう。例えば、無料で導入できるGoogle アナリティクス(GA)には「ユーザーエクスプローラー」という機能があり、ユーザーがサイト内でどういう行動をしているのか、時系列で追いかけることができます。誰か一人の行動に着目すると、こんな使われ方をしていたのか、とか、この辺りは使い勝手が悪そうだ、という発見がある。10人も追いかければ、お客様ひとりひとりの顔が浮かんできて、ここでこうしたほうがいいんだろうな、と考えられるようになります。こうして顧客像をつかむところからスタートするといいと思いますね。
――たしかにユーザーエクスプローラーなら、GAで分析をしたことがない人も、すぐに触ってユーザーのサイト内の動きを確認できます。
※GAで「ユーザー」→「ユーザーエクスプローラー」→一覧表示されるクライアントIDをクリックすると、そのIDのユーザーがサイト内でどのように動いたのかを、時系列で確認できる
データはアウトプットではなく、インプットに使うもの
――GAの話が出ましたが、ユーザーを知るためにはどんなツールを使うとよいでしょうか。
清水拓也:アナリティクスのツールとしては、大半が無償版のGA、次いでAdobe Analytics(AA)、有償版のGA 360の順に利用が多いです。AAは大量のデータをリアルタイムにさばくのに長けているので、ビッグデータを扱う企業でよく導入されています。個人的には、有償版のGAを使うならAAのほうがいいですね。GAは有償版であっても、データ量が多いとサンプリング(データから一部を取り出して推定すること)が発生するので、ビッグデータで精度を求めるならAAでしょう。
清水誠:その代わり、AAはデータの持ち方などがかなりテクニカルな作りなんですよね。よく分からないまま使うと、違うデータを元に誤った分析をしてしまいがち。データ取得などの部分は外部に委託して、自分たちは分析などに専念するのがよさそうです。
清水拓也:そうですね。GAやAAのスキルはかなり専門的ですし、専任を置けないのであれば外部に任せたほうがスピード感を出せると思います。
清水誠:あと、最近はKARTEのようなWeb接客ツールも出ています。KARTEは、サイト内をどんな人がどう動いたか見ることができますし、訪問者によってコンテンツを出し分けることもできます。今から何か導入するのなら、GAなどの分析ツールではなく、最初はこうしたツールを入れるのもありでしょうね。
――GAやAAといった分析ツールとは、だいぶ種類が違うツールにも感じますが?
清水誠:「アナリティクス=分析」ではないんです。アナリティクスはあくまでデータを取得するための装置であって、取り出したデータを活用しなければ意味がありません。アナリティクスから取得したデータは、レポートにまとめて終わらせるものではなく、ユーザーとのコミュニケーションの起点となるべきもの。言わば、データはアウトプットではなく、インプットだと考えるべきです。例えばAAであれば、Web上の出し分けはAdobe Target、MAツールはAdobe Campaignといった連携サービスが用意されています。
清水拓也:その意味で接客ツールは、データ取得からコミュニケーションまでの一連の流れを体験できますね。他にも、広告におけるリマーケティング/リターゲティングなんて、まさにデータをインプットとして活用するもの。データからニーズを把握すれば、お客様に寄り添った接客ができます。これもユーザー視点として大切なことでしょう。
ツールの使い方よりも勉強した方がよいこと
――既に企業サイトが公開されている場合、そのサイトが構造的に分析しやすいものか否かも大事なのかと思います。分析しやすいようにディレクトリ構造などを改善したほうがいいのか、それとも分析ツールを現在のサイトに合わせてカスタマイズしたほうがいいのか、悩むところだと思うのですが。
清水拓也:検索意図が異なるのに、同じディレクトリにたどり着くようになっていたりすると、ユーザーの行動が推測しづらいんですよね。分析しようとしても社内でGAがうまく設定できなくて、私たちに依頼が来ることもよくあります。
清水誠:分析しにくい、データが取りにくいサイトって、結局使い勝手が悪いと思うんですね。
写真:清水拓也
清水拓也:なるほど、それはありますね。
清水誠:情報が分かりやすく整理されていれば、データも取りやすいはずなんです。例えば銀行のサイトは、「法人」と「個人」が区別され、「貯める」「借りる」「増やす」といった用途の異なるコンテンツが混じり合ってはいませんよね。お客様にどう使ってもらいたいかを整理すると、必然的にサイトも分かりやすくなり、データも取りやすくなります。
――裏を返せば、分析がしにくいサイトはユーザー視点ではなく、企業視点で作られていることになりますね。
清水誠:そういうことですね。そうなるとサイト自体を直すべきでしょうし、そもそもWebサイトがどのように製作・開発されるかも知っておいたほうがいいと思います。
――それはなぜでしょうか?
清水誠:HTMLもJavaScriptもCookieも分からない状態だと、どんなデータがどう取れているのか、また、どんなデータが取れる可能性があるかも分からないんです。リアルな店舗に例えるなら、店内のどこにどんな商品があるか、お客様の導線はどうなっているか、店員はどんな対応をしているのか……など、ある程度実情を把握していないと、データの見方なんてわからないですよね。それと一緒で、サイトの作りを理解しておかないと、得られたデータを正しく見ることができません。
清水拓也:うちのチームにも「数字だけを最初に見ず、サイトから見るように」とは伝えていますね。ツールに慣れると数字遊びが楽しくなって、目的から離れてしまったりするんです。まずサイトの理解からですね。
――数字だけ追い求めてしまうと「店のことは知らないけど、とにかく人を呼んでこい」みたいなことになるわけですね。
清水誠:そうですね。とにかく人を呼んで、来た人には無理やりにでも商品を買ってもらおうとする。また人が来なくなると、なんとなくボタンの色を緑から赤に変えてみたりする。
いくら企業視点を押しつけても、うまくいくわけがないですよね。
数字成果を求められる現場で、ユーザー理解に時間を使うことが難しい場合は?
――「数字ではなく、ユーザーやサイトの理解こそ本質である」と理解しましたが、社内で数字のプレッシャーを受けている方も多くいるのではと思います。そうした層を説得するために、お二人はどんな施策から着手されているのでしょうか。
清水誠:「コンセプトダイアグラム」のようなワークショップを通じて、そもそもどういう人にどうなってもらうのがビジネスにとって望ましいのか、最初に整理してもらうところから始めています。簡単ではないですが、一度整理できると「○○に力を入れよう」など、社内で共通言語が生まれるので、そのあとの施策が実現しやすくなります。
▼コンセプトダイアグラムの例
引用:コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析 (Web Professional Books)ー清水誠著 100ページ目
※コンセプトダイアグラム:企業が望むゴールに顧客が到達するまでの過程を、縦と横の軸を用いて表現する図法。「売上」「単価」といった企業視点ではなく、「こだわりの強さ」「自己理解」といった顧客視点の心理的な要因を設定するのが特徴。
※参考記事1:カスタマー視点とアナリティクスでSEOはこう変わる | ナイルのSEO相談室
※参考記事2:ユーザーの検索体験を「SEO成果指標」として可視化する方法(概念と準備編)|ナイルのSEO相談室
清水拓也:訪問数などの数字が増えても、コンバージョン(CV)につながるとは限りませんので、流入経路や継続状況、CV傾向などの行動パターンについてPDCA調査を行います。必ず定量分析のあとに定性分析をやるようにしていますね。
清水誠:両方大事ですよね。定量分析で当たりをつけたあと、ユーザーエクスプローラーで訪問者の動きを追った定性分析をして、さらにこのパターンがあるなら……と定量分析に戻って。グルグル回していくと、いくらでも発見がありますよね。
清水拓也:定性分析はやればやるほど仮説が生まれるので、キリが無いんですよね(笑) 定量分析と定性分析を行ったり来たりすれば、SEO施策やコンテンツのネタは尽きないと思います。
清水誠:そうなんです。なぜ定量分析と定性分析を行き来すれば施策のアイデアが尽きないのかというと、顧客理解が進んでいるからですよ。数字だけを見て、パフォーマンスチューニングや最適化をしても、顧客理解は全く進みません。むしろ「騙される客がこの辺にいる」という変な理解が進んでしまう。
清水拓也:サービスや顧客を理解していないと、的外れな改善施策に取り組んでしまいますよね。それこそ「ボタンの色を目立つ色に変えたら押してくれるのでは」みたいな。それも企業視点ですから。
清水誠:コロナウイルスという危機的状況下で、そうした企業の姿勢が浮き彫りになってきたと感じます。こんな時に目先の数字に焦った施策をするのか、自分たちに貢献できる事を考えてユーザーとコミュニケーションを図るのか、どちらがより良い動きなのかは明白です。顧客視点が抜けたサイトは、もう増えてほしくないですね。世の中を良い方向に導くのが、本来の企業活動だと思いますから。
――Webマーケティングは施策成果やユーザーの動きをデータで見ることができるので、データの「数字」を良くすることを意識してしまうのかもしれません。データを読み解くことでユーザーを理解し、それが結果としてアクセス数やCV数といった数字成果や、成果をもたらす施策に繋がっていくのですね。本日はお忙しい中、ありがとうございました!
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