“純度の高いコンテンツ”が結果を生む!DODA「”未来を変える”プロジェクト」の徹底的な環境づくり
「愛」に満ちたコンテンツマーケティング施策を展開する企業を追う連載企画「愛のないコンテンツマーケティングに未来はない」。第7回となる今回は、転職サービスDODAが展開するオウンドメディア「“未来を変える”プロジェクト」を運営する株式会社インテリジェンス(現:パーソナルキャリア株式会社)の三石原士さんに話をうかがった。2015リニューアル後の“コンテンツ制作のある手法”を導入することによって1記事に数千のいいね!や数万のPVを獲得できるまで急成長。「狙い通り」と語る三石さんに、その手法の秘密を聞いた。
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目次
ターゲットは「ビジネススクールへ通う人」。広告やSEOだけでは接触が難しい対象と接点を持つために
――サイトの目的について教えてください。
“未来を変える”プロジェクト の目的は、まだ転職を考えていない層に対するDODAの認知向上になります。弊社は新卒の就職支援事業を展開していないので、就活時に接点がある他社に比べると認知が劣ってしまうという課題がありました。そこでDODAの認知向上と将来的な新規の会員獲得を目的に、「まだ転職を具体的に考えていない層」に対するコンテンツマーケティング施策として“未来を変える”プロジェクトを展開しています。
――DODAとしては「キャリアコンパス」というオウンドメディアも展開されていますが、どうすみ分けしていますか?
キャリアコンパスがスタートしたのは2012年なのに対して、“未来を変える”プロジェクトは2015年と後発です。すみ分けでいうと、ターゲットがキャリアコンパスは20代全般向けなのに対して、“未来を変える”プロジェクトは20代後半から30代、かつ前向きにキャリアを考えている方を想定しています。具体的にいうと「ビジネススクールへ通っている人」としています。
キャリアコンパスへの流入経路はSEOが中心です。人気のあるコンテンツは「年収ランキング」とか、今の職場環境に対する悩みに結びつく検索キーワードが基本になります。ですから運営方針もキーワードリストを設定して、どこから流入したら会員登録まで自然に進んでもらえるかという前提でコンテンツマップが設計されています。
そういったSEOやキーワードだけではリーチし切れないターゲットと接点を持とうというのが“未来を変える”プロジェクトになります。
――SEOは重視していないということですか?
重点的には行っていません。コンテンツを公開した後でタイトルやディスクリプションを調整するとか。ただ、キーワードを意識したコンテンツもあります。例えば「レジリエンス(復元力)」や「マインドフルネス」というキーワードは、人材開発の注目ワードでしたし、Googleトレンドで徐々に検索数が増えていることをチェックしていました。マインドフルネスでいうと今年の5月にコンテンツページを複数作ったところ、NHKの番組でマインドフルネスが取り上げられたことで一気に検索ニーズが高まり、流入に貢献してくれました。
――ペルソナはどのように設定していますか?
リニューアル当初の仮説は、キャリア志向の高い方のなかには「このままじゃいけない」という漠然とした危機感はあるけど、具体的になにをすればいいのかわからないという悩みがある、と考えていました。
テクノロジーによる働き方の変化や、10年前にあった大企業が途端に無くなってしまう時代です。特に大手企業に所属する方ほど、このままではいけないという危機感が強い。それでキャリアにおける明確な目的を持てていないけど、成長意欲が高い方が意外と多いのではないかと考えました。仮説を裏付けるために定量調査も行いましたし、私自身も知り合いや想定ターゲット層に近い人たちが集まる場で話を聞いて、その仮説が間違っていないことを確かめていきました。
そしてDODAの事業方針と併せるとともに、私自身の肌感覚として「サイトを必要としてくれるのはこういう人だ」というペルソナを設定し、そこからメディアとしての企画や制作のパートナー集めといった施策へと展開していきました。
――サイトのコンセプトにはどのように結びつけていきましたか?
漠然とした課題感のあるユーザーは、良い意味で「意識が高い」人たちといえます。環境の変化を察知して、ビジネススクールへ通ったりアクションを起こしたり、行動に移しています。ただ、課題が何かはまだわからない。
では、その課題を一緒に考え、変化をどう捉えるべきか考えるきっかけになるコンテンツがあればいいのでは。未来の働き方のヒントになる変化や、いっそ変化を楽しむための情報をコンテンツとして配信していこうと考えて、「変化を楽しめる人が何度も訪れたくなるサイト」というコンセプトへと落としこんでいきました。
ディスカッションイベントを編集会議として、ユーザーの声を直接コンテンツに注入
――ペルソナやコンセプトから、どのように配信するコンテンツを決めて制作していますか?
編集会議というと、編集長とか編集部が密室でコンテンツ内容を決めるということが多いように思います。本メディアでは、そういうことはやらない、と決めています。なぜかというと、変化を楽しむことに正解はありません。ならば、いっそのこと、変化を楽しんでいる人や楽しみたいと考えている人を集めて徹底的に議論し、出てきた多様な切り口を集約してコンテンツを決めたらいいのではと考えました。
変化を楽しむために掲げるテーマは、毎回変わります。例えばキャリアとお金の話があります。キャリアと健康という観点もすごく重要でしょう。もっと細かく落としていくと、転職や起業する時にパートナーの賛同をどう得るかという観点も大事です。「嫁ブロック」という言葉があるくらいですから。もちろん実務レベルで変化を楽しむためにも、職場における世代間ギャップの解消や、フレームワークの知識とか、心理的なストレスとどう向き合うかとか。本当にさまざまなテーマの切り出し方があるわけです。
そうしたテーマを毎月ひとつ揚げて、40人くらいのビジネスパーソンに集まっていただき、議論を十分に行っています。そして、イベント後のアンケートで内容を集約します。建設的な提案やおもしろい視点を提供してくれた参加者4、5人にはその後の少人数検討会に再度集まっていただき、さらに内容を掘り下げます。そこから発生する問いに対して答えを持っていそうな有識者に取材したりして記事を制作し、イベント参加者へもコンテンツのレビューやチェックしてもらいながら仕上げていくという方法でコンテンツを作っていくことにしました。
――まったく聞いたことがない方法で作っているように思いますが、相当に手間がかかりませんか?
そうですね。「よくこんな凝った方法でやってますね」って言われます(笑)。
ただ、議論イベントに参加いただいている方々は、非常にユニークな切り口を提供してくれる方たちばかりです。プライバシーの問題からお名前を挙げられないのが残念ですが。ベンチャー企業の経営者や大企業で専門性の高い管理部門を任されている方、士業、国家公務員、一流大学の学生まで幅広いバックグラウンドを持った参加者が集まっています。なかには「えっ!?」と驚くくらい著名なビジネスパーソンも議論に参加しています。
それでイベントの議論の後に書くアンケートで「この観点は学びになった」「この切り口でこの人に話を聞いたらおもしろそう」と寄せてくれた意見を元にコンテンツの企画を詰めていきます。そうやって作ると、確かに手間はかかるかもしれませんがハズレません。
――ターゲットの声を直接聞きながらコンテンツを作ってるわけですからね。
制作を担当するライターや編集者もイベントに参加し、目の前にいるターゲットをイメージしながら記事を仕上げていくので、軸のぶれないコンテンツがあがってきます。
さらに記事を公開するタイミングでは議論イベントに参加した参加者の方々が「そうそう、ここが大事だった」とSNSで拡散を支援してくれるので、初動からワッと広がります。自分たちで議論したことが土台になっているわけですから、当事者としてコンテンツの良さを伝えてくれます。
――これは、ちょっとした発明ですね。理想的なコンテンツの作り方だと思いますが、コストはかかりませんか?
かかりますね。おそらく他社さんよりも1記事当たりの予算はかけている方だと思います。ただ、読者層は年収が高めの方たちになるため、最終的には売上に十分に貢献するモデルになっています。コンテンツも量より質にこだわりたい。捨て記事を出したくないんです。
コンテンツの純度を保つためには量よりも質、さらに“場”の環境づくりにこだわりたい
――実際にイベントでの議論から記事の公開まで、どのくらいのスケジュールで進行されていますか? また制作体制はどのようにされていますか?
制作期間は1ヵ月半から2ヵ月ぐらいですね。特集と呼んでいるメインコンテンツをはじめ、イベントを下地にしたインタビュー記事や様々な読み物コンテンツを制作しています。
制作に関わるのは、インテリジェンス側は私一人です。あとイベントの企画進行とコンテンツのサポート役としてビジネス経験が豊富なベンチャーキャピタルの方が2名、編集者とライターは4名ほどです。コンテンツの内容から豊富なビジネス知識を求められますし、かつ毎回の特集で扱うテーマも専門性が高いので、ターゲットユーザーと対話ができるような経験やスキルをお持ちの編集者やライターでないと依頼が難しいという背景もあります。
それで、メインでお願いしているプロダクションの拠点はオランダとシンガポールだったりします。Skypeで海外からインタビュー取材を行ったりしていますが、やってみるとまったく問題ないですね。
さらにSkype取材の応用として、私や編集者がPC越しに同席しています。通常のコンテンツ制作だと、予算や工数の関係で取材はライターだけに任せることが多いと思うんですが、それだと読者がもつ課題感や目線とズレてしまうんですね。取材の質問や掘り下げ方が消化不良にならないよう編集者が参加して一緒に情報を掘り下げるイメージでやっています。
コンテンツを作る上では取材が命です。そこで手を抜くと純度が下がってしまいます。取材対象者の方にも記事に対して満足していただけないと、記事公開後に「このコンテンツはすごくいいよ」とSNSでシェアしていただけません。
そうした対象者と読者、さらに私たちも納得できるコンテンツの純度にこだわった結果、Skypeでの取材同席という方法が生まれました。3者にとって発見やメリットがあるのが良い取材ですし、特にインタビュイーに新しい気づきがある取材にするために、編み出した方法です。
――そのほかに制作でコンテンツの純度を保つために気をつけていることはありますか?
私の経験上ですが、メディアの運用が安定してくると徐々にコンテンツがマンネリ化してきます。読者は常に新しい切り口を求めているため、変化を続けていかなければ、いつか去ってしまいます。そのため、常に複数の制作ラインを持ち、新しいコンテンツを企画できるようにしています。
たとえば、弊社のサービスで「i-common(アイコモン)」という企業の顧問や取締役で活躍されたシニアエグゼクティブによる経営支援サービスがあるのですが、その人脈を活用して記事執筆をお願いし、大企業の元経営者や役職にいた方々に寄稿していただいています。またBooks&Appsというマネジメント層向けの人気ブログを運用している安達 裕哉さんにも寄稿者として参加いただいたりしています。
そうやって私自身が「変化を楽しむ」というコンセプトにチャレンジして、良い緊張感を保つようにしています。
編集長としては、社内や上司と調整する役割を担いますが、数字を追いすぎないように注意しています。オウンドメディアが成長してくると「もっと上の目標を目指そう」といった声や、社外からは「自社を取り上げてもらえないか」といった声が出てきます。大変ありがたいお話ですが、一方でコンセプトからずれた数字の作り方、コンテンツのリリースに傾きだすと一緒に制作する編集パートナーやライターのモチベーションが下がってしまいます。このメディアがつくる世界観や読者に響くコンテンツづくりに協力してくれるのであって、「弊社の売上のためにがんばってください」という気配を感じとれば、パートナーはスーッと離れていくように思います。そのあたりのパートナー間における緊張感や距離感は大事にしていますね。
――見えにくい部分ですが、とても大事なことですね。
幸いパートナーの編集者やライターからは「サイトが良くなってきたら、もっと大きなイベントやりましょうよ」と声かけてくれたり、目指す方向に向けたアイデアを出してくれることが多いです。大きなことができそうだからぜひやりたいと言ってくれる人たちばかりで。
私の方からも逆に、「どういうことやったらおもしろいと思う?」とか「自分でどうしても取材したいところの企画があれば出して」とか、声かけてます。弊社のサイトで築くことができる経験や人脈がパートナーにとってもメリットになれば、より高いモチベーションで制作に臨んでもらえます。良い循環が生まれるように務めています。
大事なことは、イベントの参加者から制作パートナー、そして取材対象者まで“未来を変える”プロジェクトに関わるすべての人が「変化を楽しむ」というコンセプトに対して純粋に共感できているか。そして、私たちのコンテンツが読者にとって刺激材料になっているかどうか。サイトを応援してくれる全員の視点がそろうような、純度の高いコンテンツを制作できれば自然と結果はついてくると思います。
――実際に運用してみて、仮説とのギャップはありましたか?
DODAの認知を高めるうえで追っているのはUUとPV、新規ユーザー数の比率はチェックしていますが、ほぼ狙い通りです。あとサイト流入のCVはDODAの会員登録ですが、年齢や年収のデータを追ってみるとキャリアコンパスでは接点を持てていなかったターゲットにリーチできています。
――今後の目標はありますか?
キャリアを考えるときに真っ先に思いつくオウンドメディアになりたいですよね。
今も独特な立ち位置は確保できていると思いますが、まだまだ知られていないので。現状は月間で20~30万PVくらいですが、伸びしろはあると思っています。一方で、数値目標を追うよりも読者から「このサイトのコンテンツが1番いいよね」と言ってもらえることが大事だと考えています。ただ単純に数を増やせばいいというものでもないですし。
SNSを運営していたある会社役員の方がコメントしていたのですが、ダメになるコミュニティは「入れてはいけない人を入れてしまった」ことによって引き起こされるというんです。数字だけを追うと、コミュニティの純度が下がり、荒れてしまうのかもしれません。
実は議論イベントは招待制で運用しています。1度だけ、公開応募にしたことがあるんですよ。その時は参加者の課題認識や背景がぶれてしまって。議論もうまく噛み合わなかったところがありました。だから、そこの純度を保つことは何よりも気をつけなければならないと思っています。
「変化を楽しむ」をテーマに真面目に議論していると真面目でそのテーマに関心がある方たちが集まってくれます。不思議なもので。自然に伝わるんでしょうね。
――最後に、あなたにとってのコンテンツマーケティングとはなんでしょうか?
「マーケティング」と言うと「自社利益のために」というニュアンスが強くなるイメージですが、コンテンツマーケティングはお客さまとなる読者のためにどういう情報を提供できるのかを真剣に考えれば、結果的に成果がついてくる方法だと思っています。
そこに自分はこだわりを持って取り組んでいるので、自社と自分個人の知見をフル活用して読者のためになる情報を届けるために、愚直にやらなければいけないと思っています。
目的を共感できる編集パートナーも含めて、愚直にやれる人が必要で。その愚直にやれるためのモチベーㇳをするために私は売上や数字だけではなく、その仕事自体がどうなのか、楽しくおもしろく実現できる環境になっているのかという点もこだわっています。
イベントにご参加いただいて隣に座った皆さんの課題認識や視点を理解し、パートナーも含めた参加者全員が同じユーザー理解を持ってコンテンツに向き合えているのか。その純度を下げないよう愚直に取り組むことがファンをつくり、最終的に成果につながるのではないでしょうか。
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