アサヒビールがオウンドメディアで挑んだ、内外とのコミュニケーションの活性化
愛のないコンテンツマーケティングに未来はない――そんな強い思いでコンテンツマーケティングに取り組むナイルでは、「愛」に満ちたコンテンツマーケティング施策を展開している企業をシリーズで追っていく。
Vol.06は、アサヒビール株式会社が運営するお酒をテーマにしたオウンドメディア「カンパネラ(Campanella)」。「小さな鐘」を意味する「カンパネラ」は、アサヒビールにとってどんな狙いでスタートしたのか?あえて社名を強く出さないその意図とは?「カンパネラ」の運営責任者を務める経営企画本部デジタル戦略部育事業の馬場崇暢さんにお話を伺った。
\コンテンツマーケティングを中心に支援!資料ダウンロードはこちらから/
目次
アサヒビールのブランドイメージを覆す試み
ーー「カンパネラ」を立ち上げた経緯をお教えください。
1つはお酒を楽しむ機会が減ってきていること。だからお酒を楽しむこと自体を盛り上げていきたい。もう1つはアサヒビールという会社が良くも悪くも「スーパードライ」のイメージが強い。しかし、「スーパードライ」以外のお酒についても、もっと知ってもらいたい。少しでもお酒との接点をもってもらいたいと思って「カンパネラ」を立ち上げました。だから、あえてアサヒビールという会社名も全面的には出さないようにしました。
ーー馬場さんはどのようにして「カンパネラ」の責任者になったのでしょうか?
私の所属するデジタル戦略部はa2年前にできた新しい部署なんですが、何か新しいことができそうだと思って、自ら挙手してデジタル戦略部への配属を希望しました。でも、決してデジタルやメディアに精通していたわけではないんです(笑)。他のスタッフも同様にデジタルメディアを運用するノウハウはまったくなかったので、最初から試行錯誤でした。
「ビジネスパーソンにひらめきの鐘を」を謳うオウンドメディアの「Campanella」
ーー歴史ある大企業ゆえの苦労はありませんでしたか?
「カンパネラ」を立ち上げた当初は、やはり社内の理解を得るのに苦労しましたね。あえて社名を全面に出さないこともあって、社内でなかなか理解されないことが多かったです。「それやってどういう意味があるの?」「それをやることでいくら売上げが上がるの?」って聞かれることも多く、納得してもらう言い方がなかなか見つからなかったので。「そういう目的の取り組みではない」と言うしかなかった。KGIやKPIなど定量的な指標は設定していますが、これはあくまでもコンテンツを制作するうえでの指標。直接売上げにつなげるための社内を説得する指標ではないですからね。
社内を動かし始めた「外圧」
ーーそれはいまも続いている状況でしょうか?
いえ、社外の方から「カンパネラを見ました」と言ってもらうことが増えてきてから、比較的早く社内の理解を得られるようになりましたね。また、定期的に読者アンケートをとっているのですが、「お酒に対する興味を掻き立てられたか?」「アサヒビールに対してどう思ったか?」といった質問でも、「アサヒビールの“固い会社”という印象が変わった」とか「ビールだけのイメージが変わった」という回答が増えてきて、立ち上げの狙い通りのいい流れになっているという実感です。これはかなり想定以上の結果になっていますね。
コンテンツマーケティングは、売上げへのコンバージョンなどは計測が難しいですよね。なので定量的な指標は社内の理解を得るためにあまり意味がありません。またPVやUUなど定量的な数字は個々の記事によって変動があるため、月ごとの数字に一喜一憂していても仕方がない。だから最優先の目標は「固定の読者、リピーターを増やしていくこと」にしています。
「カンパネラ」を象徴する企画の誕生
ーー社員がお酒を飲みながら会議をする「アルコールブレスト」という企画はまさにお酒メーカーならではの企画ですが、どのような反響がありましたか?
お酒メーカーならではの企画を考えていたとき、お酒を飲みながらリラックスして企画会議をやったらいいのでは?という案が出ました。それが「アルコールブレスト」です。社員が出てきてお酒を飲みながら楽しく会議をしてもらう。社員を登場させたり、専門家を呼んだり、営業現場も含め全社巻き込み型でやっていきました。ブレスト?何それ?という人もいて、決して慣れているわけではないのですが、お酒を飲みながらやることでみんな口が滑らかになって盛り上がるんですよね。もちろん適正な量ですが。お酒をもっと楽しむためにはどうしたらいいのか、というテーマでいろいろ試してみました。
期間限定で実施した企画「アルコールブレスト」。好評だったため、また違う切り口で新しい企画を考えているという
社内を繋げることで生まれるさまざまな効果
ーー「カンパネラ」をスムーズに運営してくために社内で特に工夫したことはありますか?
アサヒビールとして「カンパネラ」の最終的な目的は、当然、酒類の売上げ向上になります。ただ、オウンドメディアを通じて、直接売上げへの貢献度を説明するのは非常に難しい。外からの評価は社内を動かすのにとても助けになりますが、社内を繋げることも常に意識しています。「カンパネラ」でコーポレートサイトへ送客し、サイト内をどのように回遊してもらうかを工夫して店頭や購入に繋げるなど、考えなければいけないことはたくさんありますね。
たとえば同じ企画で同じ人に取材した1つの記事を「カンパネラ」とコーポレートサイト用に、切り口を変えて2種類出すこともあります。そうすることで他部署との相互協力の関係もできるし、記事の相乗効果も生まれ、よりアサヒビールという会社への親近感と理解が深まると思ったのです。
ーー日経BPさんを外部パートナーにしていますが、外注ゆえのメリットとデメリットがあればお教えください。
自分たちにとっては当たり前で珍しくもないと思い込んでいることが、第三者から見ると意外と面白いことがあるんですよね。指摘されてやってみると、「ああ、そういう視点や切り口があるんだ」と改めて自社を客観視することができるのも大きなメリットです。自社には自分たちが予想もしない、面白いコンテンツの原石がいっぱい埋もれているだなと、再発見の日々です。
お酒を扱う会社なので、表現に気を使わなければならないことがけっこうあるのですが、デメリットとしては、お酒メーカー特有のNG表現を日経BPさんに理解してもらうのに時間はかかりましたね。日経BPさんとしては、当然編集的視点で「面白さ」「珍しさ」「インパクト」を重視していろいろ考えてくれるのですが、それがけっこう社会通念的にNGなことがあったりしたので。いまではかなり相互理解が深まってきているので、そういう意味でデメリットはなくなってきているかと思います。
コンテンツマーケティングを実施することで生まれるメリット
ーー「カンパネラ」を運営してみて、どんなメリットを実感していますか?
コンテンツマーケティングは、自社を客観視できるきっかけになりますね。それを社員に気づかせるのも私の仕事だと考えています。「カンパネラ」というメディアが世に認知されることで、社外から得られる反響が、社員や体制に影響を与えるようになってきていると実感します。 ある記事がきっかけで他部署との繋がりを得たり、ひいては他社とのコラボレーションをする機会が生まれることもあります。
コンテンツマーケティングを実施することで、コンテンツ作りに対する新たな知見を得られれば、本体事業にも生かすことができると期待しています。また、コンテンツを発信し続けることによって、競合他社と比較したときの自社の強みやポジショニングも改めて可視化できます。そういったことが、コンテンツマーケティングを実施することで生まれるメリットでしょうか。
ーー今後はどのようにして会社全体を巻き込んでいきたいと考えてますか?
立ち上げてからしばらくは、社内の認知や理解を得ることも大変でしたが、社員を巻き込み、外からの声を集めることで、「カンパネラ」への理解も徐々に深まってきました。 最近は他部署からも「こういうネタを取り上げてほしい」という話も増えてきています。今後はもっと社内でうまく使ってもらえるメディアになっていければと思います。たとえば営業との連動では、量販店で定期的に行う催事などで、企画のテーマをお互いに出し合って、O2Oで連動していきたいですね。
“ひらめきの鐘”を鳴らすお手伝いができればいいですね。
ーー「カンパネラ」のキャッチフレーズは「ビジネスパーソンにひらめきの鐘を」ですが、これにはどんな意図が込められていますか?
雇用形態も職種も社員に求められるスキルも複雑化・多様化する現代、コミュニケーションは、ビジネスパーソンに非常に重要な意味を持ちます。そういう意味でビジネスパーソンにとって「お酒」は昔から、コミュニケーションの触媒であり続けてきました。
“風が吹けば桶屋が儲かる”という諺がありますが、「カンパネラ」は、風を吹かせて、桶屋が儲かるまでのサポートをするメディアだと思ってやっています。そして、お酒を通じて少しでも多くの人の「ひらめきの鐘」が鳴るお手伝いができればと考えています。遠回りに見えますが、それが結局コンテンツマーケティングの成果を出す一番の近道だと信じています。
\コンテンツマーケティングを中心に支援!資料ダウンロードはこちらから/
関連記事