「決定者が多いと、つまらないものしかできない」BAKE阿座上さん・塩谷さんに聞くオウンドメディア成功の秘訣
愛のないコンテンツマーケティングに未来はない――そんな強い思いでコンテンツマーケティングに取り組むナイルでは、「愛」に満ちたコンテンツマーケティング施策を展開している企業をシリーズで追っていく。
Vol.04は、設立わずか3年で急成長し、東京・自由が丘の旗艦店が「行列のできる」チーズタルト専門店として大人気の株式会社BAKE。 1ブランド1商品にこだわり、現在「BAKE CHEESE TART」以外に「PICTCAKE」「CROQUANT CHOU ZAKUZAKU」と「 RINGO」の4ブランドのスイーツを販売する。そんな人気ブランドのお菓子屋さんが、昨年5月にオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」を立ち上げた。 その狙いは? そこにはどんな愛情が注入されているのか?
プロデューサーの阿座上陽平さんと編集長の塩谷舞さんに、「THE BAKE MAGAZINE」誕生の経緯と、これからの展望について話を伺った。
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目次
「広報がわかる人、ネットの文脈がわかる人、コンテンツが作れる人」が条件の編集長探しから始まった
――「THE BAKE MAGAZINE」を立ち上げたきっかけをお教えください。
阿座上:会社を設立して3年が経ち、おかげさまでテレビなどマスコミにも取り上げられる機会も増え、ブランドがそれぞれ認知されてきました。ただ、商品にブランド力がついてきた一方で、今度は会社としてのファンを育てていきたいと考えました。そのためのメディアが「THE BAKE MAGAZINE」です。企画自体は設立から1年半くらいから進めており、編集長が見つかったタイミングですぐに始めました。
――編集長の塩谷さんはどのように探したのですか?
阿座上:ぼくがあちこちで調べまくって見つけてきました。条件が「広報がわかる人、ネットの文脈がわかる人、コンテンツが作れる人」ということで欲張っていたので探すのに苦労しました。でも見つけたんですよね、塩谷さんを(笑)。彼女がブログで書いてる記事を読んだら、どうやってウェブ上で会社をPRすべきかなど、内容がすごく熱くて「これだ!」と。まさに探していた人材にぴったりだったんです。だからすぐにブログから直接メールしてスカウトしました。
週に2回の更新で、立ち上げて1年で月間10万PVに成長したオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」
――塩谷さんは、編集長の打診があったときはどう思われましたか?
塩谷:私は甘いものが苦手なので、まさか自分がお菓子屋さんで働くとは夢にも思わなかったですね(笑)。でもお会いしてチーズタルトをいただいたら、スイーツが苦手な自分でも感動的なくらい美味しかったんです! BAKEは私の持っていたお菓子屋さんのイメージを超えていて、「お菓子屋さんのスタートアップ」としてクリエイティブな意識が高く、業界を変えていきたいという想いを抱いてました。そのミッションや考え方に共感したので、一緒に育てていきたい! と思いました。
「テクノロジー」や「デザイン」を核に事業者に訴求
――「THE BAKE MAGAZINE」は会社のオウンドメディアということですが、主な目的は何でしょうか?
阿座上:各商品のブランドのハブとして見てもらうのではなく、会社としてのファンを育てていくのが目的なので、あえて各ブランドをつなげないようにしています。取引先、メディア、採用向けにアプローチし、会社の素顔や裏側を紹介していく位置づけでやっています。
――実際にどういうニーズの来訪者が多いですか?
阿座上:やはり各ブランドからの流入が多いですが、商品を買われる消費者というよりも、ビジネス関係者の人に読んでもらいたいので、コンテンツは事業者目線で発信しています。「THE BAKE MAGAZINE」には「テクノロジー」や「デザイン」のカテゴリーがありますが、これはBAKEの事業がテクノロジーやデザインをどのように生かしているのか、あるいはそれを生かして何をやっていきたいと考えているのかということを知ってもらうためです。狙い通り、そういうことが知りたい事業者の方からの訪問は多いと思います。
自由が丘の旗艦店「BAKE CHEESE TART」
1つに決めずに実情に応じて事業を少しずつピボット(方向転換)していく
――集客のための具体的な施策をお教えください。
阿座上:主な流入はFacebookとTwitterからです。記事としては社員紹介や自社のプロモーションや店舗立ち上げなどの事例紹介、他社のブランディングや組織作りの事例もあります。月1回はバズを狙ったまとめ記事的なものも配信してます。さらには大学の先生や、スタートアップ企業、飲食関連の経営者の方々などにマーケティングの面白い話をしていただくこともあります。 オフラインでは採用と取材を狙ってコラボ企画などを四半期に1回くらいで催していますが、スタートアップ企業としての訴求ができればいいと思ってます。
毎日8万個が販売されるというチーズタルト
――阿座上さんご自身、メディアの営業やECなど、これまでいろいろな職種を経験されてますが、そのノウハウは具体的にどのように生かされていますか?
阿座上:ウェブ制作会社で営業をやっていた経験は、すごく役に立っていますね。ウェブ上での情報の流れがわかるようになったので。どこが起点になって、どうしたらネット上で拡散していくか、他社と協業するとどういう効果があるかなど、裏側が理解できたことが大きいです。また常にコンテンツ制作をする人と接点があったので、広報としてどのように情報を出せばメディアが書きやすいか、取り上げやすいかなどが勉強できました。
インテリアの企画会社でMDをやっていたときは、広告で集客してお客様に買ってもらうのではなく、ニーズを掴んだ商品を開発することで広告に頼らずに売上を作ることを覚えました。ドロップシッピングという仕組みで、顧客となるECショップにLPごと渡して販売してもらい、ECショップ注文が入れば自社から商品を購買者に発送するという流れでした。そのためどんな商品を出せばどのくらい売れるかが、ショップの特性に関わらずECという市場全体の傾向がわかるんです。そうやって数字だけ見てお客さんがどのような商品を求めているかを把握・分析することを叩きこまれました。その経験もいま生かされていると思います。
オウンドメディアは、ある程度遊び心がないとユーザーもついてきてくれない
――塩谷さんは編集長として1年やってみて、感触はいかがですか?
塩谷:これがオウンドメディアが成功しやすい環境なんだな、って思いました。「お菓子屋さんのスタートアップ」というコピーは誰の耳にも新鮮でしたし、覚えてもらいやすいんです。一番いいなと思ったのは、代表の真太郎さん含め社内の部長陣が完全に任せてくれていて、「これを書いちゃNG」ってことがほとんどないんですよ。 多くのオウンドメデイアの制作に関わってきた経験からの実感です。 多くの人にオウンドメディアの相談を受ける機会があるのですが、誰もが「そうはいってもクライアントが…」という悩みがあるんですよね。コンテンツ1つずつのチェックが多くて時間がかかるとか。特に大企業さんのオウンドメディアなんかで、チェックをする人が多いとダメですね。もう4人以上がチェックし始めると決まらない、進まない(笑)。オウンドメディアって、ある程度遊び心がないとユーザーもついてきてくれないし、成功しないと思うんです。BAKEはビジョンは明確なのですが、いい意味でレギュレーションがないので スピード感があっていいなあと思いました。
――今後ご自身でどのように育てていきたいと考えていますか?
塩谷:こうして取材していただく機会が増えたり、周囲からの期待値も上がってきている状況で大変嬉しいのですが……逆にそれがプレッシャーですね。人気コンテンツになるように…と1本の記事を作成するのに時間がかかりすぎてしまって。いまは社内外からの書き手を増やしていって、質の高い記事を安定的に発信できるようにしたいです。 農業とか食の裏側に関する読み物が少ないので、もっと有識者の方々にも参加してもらって、濃いコンテンツを充実させていきたいですね。そこにときどきBAKEの社員が出てきてブランディングができたらいいと思ってます。
――塩谷さんにとってメディアをやっていくうえで最も大切にしていることは?
塩谷:自社が内輪受けで「いいでしょ!」って主張しても、外の人から見たらたいしたことないじゃん、ということもあるんです。先ほどの大企業のオウンドメディアの例ではないですが、決定者が多かったり、社内にしか目が向いていないと、安全志向になって無難かもしれないけど、つまらないものしかできない。だから、ユーザーが本当に求めているものは何かを自問自答しながら、自社にとって耳に痛いことも聞いてもらい、客観視して俯瞰してコンテンツを見ていきたいな、と思ってます。私は社員ではないゆえのユーザー視点で入っていけると思うので。客観的に俯瞰して冷静に判断する――それも愛だと思ってます。 。
自由が丘の旗艦店の3Fに設立されたOPEN LAB
全職種で多角的に共感してくれて、BAKEの未来に夢を描いてもらえたらいい
――阿座上さんは、どのように発展させていきたいと考えてますか?
阿座上:記事本数はそんなに増やしていく予定はありませんが、スイーツを軸にしつつも、食の専門家やテクノロジー、デザイン、サイエンスなどを充実させていきたいですね。そういう意味でいま、旗艦店である自由が丘店の3階にオープンラボを開設し、宮城大学食産業学部の石川伸一准教授を顧問に迎え入れるなど、単発のイベントだけでなく、O2Oの常設化を視野に入れた展開も進めています。
――会社自体の事業の展開はどのように考えられてますか?
阿座上:日本を代表するお菓子メーカーになるという大目標があるので、将来的には世界に1000店舗。そのためには人材が一番大事だと考えています。いい仲間に入ってきてほしいので、採用はかなり大きな比重を占めてますね。職種に限定されない、さまざまな事業を展開しているので、ダイバーシティー(多様性)は重視しています。「THE BAKE MAGAZINE」を通して、全職種で多角的に共感してくれて、BAKEの未来に夢を描いてもらえたらいいなと考えています。実際に今年に入って、海外事業部の部長の半生を紹介した記事に共感して、10人くらい求人に応募してくれたということもありました。
――阿座上さんにとってオウンドメディアを通じて伝えていきたいことは?
阿座上:これは糸井重里さんの受け売りですが、愛される企業になるために「シェア」「フラット」「リンク」の3つの原則を重視しています。自分たちがどう考えているかをユーザーとシェアして、立ち位置としてフラットな関係性を保ち、いつもオープンでリンクしていくこと。これを地で行くようなコミュニケーションをしていきたい。そのためのコミュニケーションのハブとなるのがオウンドメディアだと考えています。自分たちがワクワクしていることをそのままに伝えたい。キュレ―ションメディアが全盛の時代ですが、誰が書いたかわからないコンテンツはやはり消費力が弱い。大切なのは、読みやすく、わかりやすく、親近感をもって自分たちの言葉で素直に伝えていくこと。そうすれば自ずと、BAKEの“愛”も伝わっていくものと信じています。
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