【寄稿】初めてのユーザテストの前に必ず目を通しておくべき、ユーザから正しくインサイトを吸い上げるコツ
こんにちは、ポップインサイトの木原と申します。
ポップインサイトはユーザテスト、特に被験者が自宅にいながら調査に参加する「リモート・ユーザテスト」を専門としている調査会社です。創業から3年弱で、ウェブ事業者、そのほかにも一般企業などから、2000件以上の調査のご依頼をいただいています。
今回は、「ユーザテストの経験から得られた、人の話をしっかり聞くコツ」をお届けします。これから対面式調査でモデレータ(調査に同席する進行管理役)をつとめようとしている方はもちろん、「誰かの意見をヒヤリングする」という日常に根差した行為を改めて振返ってみたい方のお役にも立つと思います。
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目次
ユーザの考えていることを引き出す、2つの方法
ユーザテストにおけるユーザの考えの引き出し方は、大きく2つに分けられます。一つは「思考発話法」もう一つは「回顧法」です。
実際に何か(たとえばウェブサイト)を利用しながら「考えていること、感じていることをぶつぶつと独り言をつぶやく」ことを「思考発話」と呼んでいます。まさに何か行動しているときの、リアルタイムで鮮度抜群な心理状況が得られる点に最大のメリットがあります。
一方で、利用が終了した後にそこまでの行動を振り返り、行動の内容、背景を深く掘り下げていく手法を「回顧法」といいます。回顧時には既に行動は終わっており、行動自体へのバイアスに神経質になる必要もありませんから、より幅広く、深い質問を被験者に投げかけることができます。
「思考発話」を掘り下げる難しさ
「思考発話法」も「回顧法」も、どちらもユーザテストにおいて欠かすことのできないものですが、より自然な流れの中で心理を把握できる「思考発話」がたくさん得られれば、それに越したことはありません。
ユーザの思考発話をより豊富に得るため、中立的な相槌(うなづき)や簡単な質問など、回答に影響を及ぼさない範囲で発話の促しを行うことがモデレータに期待されます。
ただし、モデレータは「思考発話を豊富にするためなら何を聞いてもよい」というわけではありません。質問によっては、被験者の行動自体に不適切なバイアスをかけてしまう、行動フェイズ中には聞くべきでないものがあります。
行動フェイズ中に聞くべきではない2大NG質問
認知を確認する質問
-「画面上部に青いボタンがあるのに気付いていますか?」
-「このアイコンはクリック可能なのですが、気付いていますか?」
→本来気付かなかったかもしれない要素に気付かせてしまい、その後の行動が不自然になる
理由・感想を問う質問
-「先ほどこの写真をクリックしたのはなぜですか?」
-「このアイコンが赤色であることについて、どのように感じますか?」
-「エラーメッセージが出ましたが、内心どのように感じていますか?」
→行動中に理由を考えさせてしまい、本来なら「あいまいな気持ちのまま」進めていくはずのその後の行動を、言語化によって固定された心理状態で進めることになってしまう
こうした質問はそれ自体が被験者の思考や行動に影響を与えます。外部の刺激に影響されてしまった被験者の行動はもはや自然なものとはいえず、調査データとしての利用価値はガクッと下がってしまいます。
しかしながら、「気付いたか、どう思ったか」「なぜ、どうして」「もしこうだったら、どう思うか」といった質問は、深みのある調査のために不可欠でもあります。いったい、どうすればいいのでしょうか?
被験者の記憶は「足がはやい」、鮮度を保ちながら回顧するコツ
このジレンマを解決するのが、行動がいったん終了した後に行う内容の振り返り、つまり「回顧」です。
行動が終わった後にじっくり掘り下げができる「回顧」は、一見万能のように思えます。しかし、残念ながらこちらにも気を付けなければいけない点があります。それは「記憶の鮮度」です。
行動が終わってから刻一刻と時間が経過する中、被験者の記憶は急速に正確さを失っていきます。この「刻一刻」というのは決して誇張ではなく、行動が終わったあとに「●●を見ながら、▲▲をしていらっしゃいましたが、それはなぜだったのですか?」のように質問しても、
「あれ、そんなことしてましたっけ、忘れました」
という反応が返ってくることは日常茶飯事です。
利用時の細かな状況や操作についての気付きを得る手法としては、行動直後の状態で意見を拾う思考発話の方が優れています。回顧時に記憶をたどってもらう場合には、確認を「時系列順」で行うことで、記憶の引き出しがスムーズに進められるよう配慮します。
両者をともに使いこなし、ユーザ心理をもれなく把握することがモデレータには求められます。
出来事の順番を思い出すためにも、「メモテイク」は必須
被験者の行動の内容をどんどん忘れてしまうのはモデレータも被験者も同じであることを忘れてはなりません。これは、被験者が行動している最中は「何が起こったか、絶対にメモを取って記録しないといけない」ことを意味します。
せっかくの調査を台無しにしないためにも、被験者が「何をしたか」「どこで躓いているそぶりを見せたか」などは、できるだけメモに残しておきましょう。
メモは時系列順に回顧を行うときの順番確認にもとても役立ちます。メモがない場合、行動の順番を正確に思い出すのはほとんど不可能です。
回顧法をスムーズに進めるための2つのコツ
「メモを取る」以外にも、回顧法にはいくつかコツがありますが、ここでは主な2つを見てみましょう。
回顧法のポイント1 実物を見せる
当然ですが、被験者は「行動の後には振返りが待っているから、どんな行動をとったかよく覚えておこう」などとは考えていません。
行動終了後、モデレータが「~の時、~をしていましたが、それはなぜですか」と言葉だけで問いかけても、うまく記憶を呼び起こせない可能性が高いのです。
振返り時には、実際に操作していた実物(画面など)を見せながら質問するようにしましょう。こうすることで、画面が刺激となり、行動時に何をしていたか、被験者がよりはっきりと思い出してくれるようになります。
回顧法のポイント2 脈絡のない質問はしない
モデレータが「これを質問したい」と感じたとしても、それを唐突に被験者にぶつけてしまうと正確な回答が得られないケースがあります。以下の例をみてみましょう。
回顧時のNG質問例
状況:被験者は調査中、ある「画像形式のリンク」をクリックしませんでした。
-モデレータ:この画像リンクをクリックしなかったのはなぜですか?
-被験者:気付かなかったからです。
-モデレータ:なぜ気付かなかったのですか?
-被験者:え、なぜって……。気付かなかったから気付かなかったんですけど、うーん、もしかすると画像が小さいからかなあ……。
回顧時のOK質問例
状況:被験者は調査中、ある「画像形式のリンク」をクリックしませんでした。
-モデレータ:先ほど、この画像リンクに気付きましたか?
-被験者:いいえ、気付きませんでした。
-モデレータ:もし、この画像に気付いていたら、どうしたと思いますか?
-被験者:普段バナーは見ないので、気にしないですね。
-モデレータ:なぜ、普段は見ないのですか?
-被験者:ほとんどが広告で鬱陶しいから、最近はこういう画像は全然見ないですね。
NG例では、「被験者が画像を『バナー』だと感じている」「その画像は広告だと判断されている」という事実を聞く機会が失われています。
しかも、「クリックしないのは画像サイズが小さいから」というこじつけの回答まで引き出してしまっています。この回答を信じて画像を大きくしたところで、逆効果にしかならないはずです。
聞きたいことを脈絡なくいきなり聞いてしまうと、ユーザの気持ちを引き出せないだけでなく、正確ではない考えを「ねつ造させてしまう」恐れがあります。
回答内容をより豊かにし、かつ正確性を保つため、「事実についての質問」を切り口に、徐々に段階を踏んで「背景心理」のステップへと回顧を進めていくとよいでしょう。
「脈絡のない質問はしない」は「時系列順に回顧を行う」と通じる部分があります。いずれも「ユーザの認識の順番を尊重し、無理に頭をひねらせない」ことを狙いとしていると考えていただくと良いかもしれません。
「思考発話」と「回顧」が使いこなせても、うまくモデレートできないのはなぜ?
さて、ここまでで見てきた「ユーザ心理の把握方法の基礎」がしっかり理解できているモデレータでも、大切な意見を聞き漏らしてしまうことがあります。それはなぜでしょうか?
様々な原因が考えられますが、最もよくあるのは「調査がどのように活用されるか理解できていない」です。
最近弊社で経験したNG例をまずは見てみましょう。クレジットカードに関するユーザテストを行ったときの事例です。
実際にあったNGモデレート例
-モデレータ:お使いのカードを見せていただけますか?
-被験者:はい、こちらです。
-モデレータ:ゴールドカードをお使いなんですね。どのようなきっかけで、いつ作ったんですか?
-被験者:そうですね、10年以上前に、社会人になってからカードを作りました。きっかけは、それまでは学生だったこともあり、”別に要らないだろう”と思っていたんですが、さすがに社会人になってカードを持ってないのはカッコ悪いな、と思ったことです。
-モデレータ:主な用途はなんですか?
被験者:普段の買い物と公共料金の支払いです。買い物でポイントがたまるので、それで別のものを買えたりするのがいいと思っています。
このやり取りのNG点はどこでしょうか?一番ダメなのは、「いつ、なぜゴールドカードにグレードアップしたのか」を聞けていない点です。
新卒1年目からゴールドカードを利用しているとは考えづらく、社会人経験を重ねるどこかの段階でアップグレードの決断をしていると考えるのが自然ですが、その経緯を聞き漏らしてしまっています。
このケースでは、お客様は調査を通じ「ゴールドカードへのグレードアップを検討するときはどういう心理なのか、何を情報として打ち出せばその心理を後押しできるのか」を確認し、それをウェブサイトの改修時に活かしたいとお考えでした。
この「調査の目的」をしっかり担当者間で周知できていれば、聞き漏らしは起こらなかったはずです。(なお、この件では別途アンケート調査を行うなどフォローアップをしており、大きな問題にはなりませんでした)
モデレータが「聞き取った内容が何に使われるのか」を理解しておく重要性
上記の理由から、モデレータは必ず「なぜ今自分は被験者に同席しているのか」「聞き取った意見は何に使われるのか」に対して自覚的である必要があります。
そこがあいまいなままでは「ここは意地でも掘り下げないといけない」という箇所をとり漏らしますし、何より、活用イメージがないまま調査に同席しても、発見を得たという手ごたえが得られませんから、おもしろくありません。
このように書くと、「要件確認をしっかりしろってことでしょ、何を基本的なことを、当たり前じゃないか」という声が聞こえてきそうですが、必ずしもテストの背景を熟知した人間がモデレータ役をつとめるとは限りません。調査だけ外注する場合、業務の全貌が見えていない若手メンバーがモデレートする場合など、起こりうるシーンはいくつも考えられます。
調査の前には、関連するメンバー間での情報共有をできるだけ進めておきたいところです。
まとめ:ユーザテスト流「気持ちの聞き取り方」を日常生活で試してみよう
まとめると、モデレータには「調査が何を目指して行われているか」を理解した上で、「思考発話法」と「回顧法」のそれぞれをうまく使いながら、被験者からその心理を吐き出させることが求められます。
思考発話時には被験者の行動への影響を最小限にとどめつつ、感じていることを確認し、回顧時には思考発話時に掘り下げたかった内容をしっかり聞き取ります。
ここに含まれる「何のために話を聞いているか、目的を明確にする」「目的に沿いつつ、順を追って、具体的かつ深くヒヤリングする」という2つの姿勢は、ユーザテストの現場に限らず、「気持ちの聞き取り」が必要なさまざまなシーンで有効です。
部下の方から職場環境についての意見を聞きたいとき、営業先の担当者から要件をはっきり聞き出せないときなど、「考えようによっては、今『ユーザ』を相手にしているともいえるな」と感じられる瞬間があると思います。
そういう時は、ただ話し合うのではなく、「ユーザテストしているつもりで」相手の話を聞いてみると、案外スムーズにことが運ぶかもしれません。もしかすると、その経験が巡り巡って、いつの日かユーザテストを行うときに役立つかも。まずは身近なシーンで試してみてはいかがでしょうか?
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