【寄稿】セグメントなきユーザビリティはない「マーケティングの常識と通じるユーザビリティの考え方」
こんにちは、ポップインサイトの木原と申します。
ポップインサイトはユーザテスティング、特に被検者が自宅にいながら調査に参加するリモート・ユーザテスティングを専門とする調査会社です。創業以来3年弱で、ウェブ事業者、そのほかにも一般企業など、2000件以上の調査のご用命をいただいています。
幸いなことに、ご依頼の数は現在も順調に伸び続けており、お客様の業種の幅も広がってきているのですが、それに伴って、新しいお客様から「結局うちのサイトのユーザビリティは高いの? 低いの?」と尋ねられる機会も増えてきました。
そこで、今回は、ユーザビリティの基礎について、おさらいの意味も込めて、「ユーザビリティとセグメント(特定の顧客属性)は切っても切り離せない」という趣旨で、お話ししたいと思います。
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目次
実はやっかいな「ユーザビリティ測定」
ユーザテストの「調査ご要件」として「このページのユーザビリティ計測をお願いします」とご依頼を受けることがしばしばあります。
このご依頼、結構クセモノです。そのまま「はい、かしこまりました」とはお受けすることができないものなのです。
それはなぜか。最大の理由は「ユーザビリティはプロダクト(ウェブサイト)に専従的にひもづくものではない」ということにあります。
ユーザビリティはプロダクト(ウェブサイト)に専従的にひもづくものではない
ユーザビリティは「どこにある」のか?
では、ユーザビリティは「どこにある」のでしょうか?
複数の関連組織がユーザビリティをそれぞれに定義づけていますが、ここでは「ISO9241-11」の考え方を引用しましょう。
ある製品が、指定された利用者によって、指定された利用の状況下で、指定された目的を達成するために用いられる際の、有効さ、効率及び利用者の満足度の度合い
(ISO9241-11の示すユーザビリティの定義)
この定義のポイントは冒頭部にある、「指定された利用者によって」という部分です。なぜなら、ユーザビリティは、サプリメントに含まれるビタミンの分量のように、「サイトの中にあらかじめひっそりと仕込まれている、固定的に数値化できるもの」ではないからです。
ユーザビリティとは実は「プロダクト(ウェブサイト)」と「指定されたユーザ」という2つの関連要素の間で成立する、よりダイナミックな存在なのです。この考え方を図で示すと以下のようになります。
「指定されたユーザ」なしのユーザビリティは存在しない
ユーザの視点でユーザビリティは変わる
ユーザビリティの本質について”歯科医院検索ポータルサイト”を例にとって、考えることにしてみましょう。
誰もが一度ならずお世話になっている歯科医院ですが、治療を受けるには来院前の予約が必要なケースがほとんどです。しかし、予約のタイミングやその際に歯科医院について重視する点は人それぞれ違います。
例に挙げるサイトは”予約システムには強いが、口コミや歯科医院の詳細などの情報や検索表示はあまり強くない”という特徴があるとしましょう。
そこで、まず「どのタイミングで予約を取るか」「予約する歯科医院を決める際の重視点は何か」という2つの項目で、アンケート調査を行いました。回答からは大きく分けて2つのユーザ像が浮かび上がってきました。それが以下の人たちです。
アンケート結果から見える、2つのユーザニーズとサイトの評価
アンケート結果からは、「すぐ予約」を重視するユーザと「しっかり比較」を重視するユーザでは同じサイトでも見方大きくが異なることが分かりました。
これは同じ「ユーザ」であっても、サイトに求めるものによってそのユーザビリティが大きく変動することを示しています。
その角度から見たユーザビリティ、本当に重要?
これまでのお話を元にユーザビリティをシンプルな公式にしてみましょう。
ここでは「ユーザビリティ=指定されたユーザ(セグメント)×ウェブサイト」としておきます。この公式の「指定されたユーザ」にどのような人を代入するべきでしょうか。
意外なことに、「既に重要度の高いと分かっているものを代入し、ユーザビリティを確認する」という考え方は、成果につながらない、空振りの調査に終わることがあります。その根っこには、
重要度の高いセグメントに対する対策は「すでにある程度なされている」ことが多い
という、いってみれば当たり前の事実があります。誰しも「メインの客層」のことはそれなりに研究し、問題解決に取り組んでいるものです。自然、せっかく調査を行っても大きな改善に結びつく課題が見つからないケースが出てきます。
しかし、だからといって、少数派あるいは重要度があまり高くないと思われるセグメントを気まぐれにひっぱり出して、満足度の向上を図ったところで成果は極めて不安定です。
「不満を抱えていて、かつ優先する価値のあるセグメント」の探し方
では、どうすればいいのでしょうか。
実はユーザビリティテストで成果を収める「勝ちパターン」のカギは「改善余地の大きさ」×「セグメントとしての価値の高さ」の大きいパターンをあらかじめ押さえておくことにあります。
「セグメントとしての価値の高さ」は数の力なしに計測できないので、このプロセスには定量調査が挟まります。冒頭で紹介した「いつ歯科医院の予約を取るか」のアンケート調査もこの位置付けになります。
改めて、アンケートの結果を見てみましょう。
歯科医院の予約タイミングについてのアンケート(一部抜粋)
アンケートの結果では、後者のユーザが大きな改善対象候補として有力であることを表しています。
「誰にとってのユーザビリティなのか」を決めることが肝要
これまでのお話の要点をまとめると、以下のようになります。
- ユーザビリティは常に、あるセグメントのユーザとの組み合わせにおいて成立しており、独立したパラメータとして認識してはならない
- ユーザビリティテストで成果を出すには、対象となるセグメントの「ビジネス視点での重要性」を事前に把握する必要がある
- あるセグメントにとってのユーザビリティ向上が、ほかのユーザ(セグメント)にとっての不利益になることもあると考えておく
マーケティングの世界ではジェネラルコンシューマー(生活者)とターゲットコンシューマーを分けて考えますが、ここでいう「セグメント」はターゲットコンシューマーと同義のものとして考えて差し支えないでしょう。
「常識」としてのユーザビリティ
顧客との組み合わせをなおざりにした「プロダクトやサービスそのものが価値の高いものかどうか」という考え方はウェブサイトの世界では根強く残っているように感じられます。
まるで「偏差値を出す」かのように、サイト単体を評価することにも意味がないわけではありません(ヒューリスティック評価には当然意義があります)。しかし、ユーザビリティという切り口で考える時は、そこに「具体的な顧客像」がなければ意味がないのです。
このユーザビリティの原則は顧客を重視する「マーケティングの常識」と近い点があます。つまり、ユーザビリティはなんら特別なことではなく、顧客にとってより魅力的なプロダクトやサービスを実現のための「とても常識的な」フレームワークの1つにすぎないのです。
まとめ:ダイナミズムに慣れよう
「これは60点、あっちは90点、あっちのほうが優れている」。
人は明快で絶対的な評価であれば、余り頭を働かせないでも受け取ることができます。だから、多くの人がそのような評価を求めるのは、とても自然なことなのです。
しかし、ユーザビリティはそのような単純なものではありません。
その指標が成立するにはセグメント指定が欠かせない、つまり、常に「条件」がつきまとうからです。だから、あるユーザにとってユーザビリティが高くても、全く別のユーザの人にとってはその反対ということも珍しくはないのです。
そして、ユーザビリティの測定は、こうした考え方を理解して「どのセグメントを優先すべきか」について記事前半の例のように、調査を行って慎重に決めていくことが理想になります。
「まずは綿密な事前調査を行うか」
「それともとにかくユーザテスティングしてみるか」
どちらにしても自分たちが確かめたい「ユーザ(セグメント)」を意識することが満足できる答えを手に入れることにつながるのです。
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