法律でも義務化が進むアクセシビリティの基本と定義を整理しました
※本記事は、2015年公開当時の情報を基にした記事です。
Webサイトを構築・運営する上で「アクセシビリティ」という単語はよく聞くと思います。しかし「アクセシビリティとは何か?」「アクセシビリティとユーザビリティは何が違うのか?」と聞かれると曖昧な方も多いのではないでしょうか。本記事では、一般的にWebサイトに関わる領域でいうアクセシビリティという単語の定義について説明します。
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目次
アクセシビリティとは
アクセシビリティ(accessibility)とは、文字通りには「アクセスできること」という意味です。情報、サービス、ソフトウェアなどが、どの程度多くの人にとって利用可能であるか、ということを意味します。
そもそもはWebに限った概念ではなく、障碍者や高齢者などハンディキャップを持つ人であっても、できるだけ一般の人と同じようなサービスを受けられるようにしよう、というような公共的な考え方から来た概念です。(例えば急な階段をエスカレータにすることで、足の悪い人にとってのアクセシビリティは改善します。)
一言で説明するならば、「ユーザーがどのような条件であっても、そのものが利用可能であること」をアクセシビリティが優れていると説明することになるでしょう。
この記事では概ねWeb上でのアクセシビリティのことを指してアクセシビリティと呼んでいますが、正確には「Webアクセシビリティ」と言った方が良いところでしょう。
アクセシビリティが悪いとはどういうことか
アクセシビリティが大事だということは何となくわかりますが、具体的にどういう時にアクセシビリティが問題になるのでしょうか。
例えば、手や腕に障碍があってマウスが使えず、キーボードだけでPCを使わざるを得ない人にとっては、「マウスを使わないと絶対に表示できないページ」はアクセス不可能です。また、視覚障碍で文章読み上げソフトを使う人にとっては、例えば画像に代替テキストが設定されていなければ、そこに画像があることにも気づけません。つまり、画像の情報にアクセス出来ません。
このようにアクセシビリティに問題がある状況というのは、「なんか使いにくい」とか「挙動が悪くてイライラする」というような使いやすさの話ではなく、「まったくその情報やサービスが利用できない人がいる」という問題です。
アクセシビリティが問題になるのは、ユーザーに身体的な障碍があるといった状況だけではありません。たとえば古いブラウザだと閲覧できないサイトは、ブラウザを更新していないユーザーのアクセシビリティを損ねていると言えますし、スマートフォンの輝度が足らず夏の直射日光の下での液晶が見えないのもアクセシビリティに関わる問題です。サイトのデータ量が極端に多くて3G回線では閲覧する気がなくなるほど重いサイトなども、アクセシビリティを損ねていると言えるでしょう。
アクセシビリティに配慮するというのは、「本当に『誰でも』このページにアクセスして、自分が伝えたい情報・価値を持って帰れるのだろうか」という問いを立ててみる、ということと言えるかもしれません。
検索エンジンのクローラーも立派な「ユーザー」
余談ですが、検索エンジンのクローラー(自動的にサイトを巡回して情報を取得し、検索エンジンに登録するプログラムのこと)をユーザーとみなして、そのアクセシビリティを担保するというのは、検索エンジン最適化(SEO)の重要な要素の一つでもあり、自然検索流入の増加にも部分的に貢献します。
この辺りについては、クローラビリティの改善という内容の記事で解説していますので、合わせてご覧ください。
公式な定義
大まかな考え方については上記の通りなのですが、Webアクセシビリティという概念は、あらゆる人がインフラとしてWebを使うための基礎になる考え方であるため、既に多くの公式な定義が為されています。
WCAG
世界レベルでは元々「WCAG」(Web Content Accessibility Guidelines)という指針がW3C(World Wide Web Consortium:インターネットの各種技術の標準化を推進する団体)から、1999年に作られたのが最初の規格になります。2008年にはバージョンアップされた「WCAG2.0」としてW3C勧告として出されました。
W3Cの規格文書は、長期的な使用に耐えうるように、その時々の技術には依存しない形で書かれているため、とても抽象的な内容になっていますが、興味がある方はリンク先を御覧ください。
・Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0
JIS(日本工業規格)
日本においてはJIS(日本工業規格)において2004年に「JIS X 8341-3:2004」(高齢者・障害者等配慮設計指針―情報通信における機器、ソフトウェア及びサービス―第三部:ウェブコンテンツ)というものが作られています。
これは先のWCAG2.0の成立を受けて、内容を反映した2010年に「JIS X 8341-3:2010」としてバージョンアップされました。
JIS X 8341-3:2010の内容はおおむねWCAG2.0同様で、アクセシビリティにA、AA、AAAの三段階の等級が設けられ、Webサイトでは「目標とするアクセシビリティの提示」が推奨されています。(例えば厚生労働省ではAを達成することを宣言しています)
アクセシビリティへの配慮は法的にも求められつつある
海外ではWebアクセシビリティの法律による義務化が既に進められつつあります。アメリカ、オーストラリアなど諸外国のWebサイトでは、日本の官庁よりも一段階上のWCAG2.0 AA等級水準のアクセシビリティが担保されるよう施策が進められているそうです。
障害者差別解消法
日本での取り組みは若干遅れてはいますが、国連が定めた「障害者の権利に関する条約」の批准に伴い制定された「障害者差別解消法」(2016年より施行)の範囲内に、Webサイトが含まれることはほぼ確定的です。
誰もが使うことになる、インフラのようなWebサービスにおいてはアクセシビリティへの配慮が今後更に問われていくことになるでしょう。
第8条第2項
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
アクセシビリティへの配慮の実例
完璧に誰からもアクセスできるような配慮というのは難しいですが、Google、Microsoft、Appleと言った世界中のありとあらゆる人間がアクセスする必要があるインフラ的な事業では大変重要視されており、各社がそれぞれにガイドラインを持っています。
こういった企業の実践や、デザインや設計上の例に学ぶことで、アクセシビリティに優れたWebサイト・Webサービスを作っていくことが出来ます。
もっとも、どれほど作り手が配慮したとしても、ユーザーのスキルが低すぎてアクセス出来なかったり、ユーザーエージェント(ブラウザなど)の仕様や、回線インフラの状況などによって「アクセス出来ない」ということはいくらでも起こりえます。
しかし、せっかくWebに出している情報やサービスが伝えるためにも、作り手側は常にベストエフォートを尽くす必要があるのでしょう。
筆者も少しでもアクセシビリティが高い日本語を書けるよう、努力しております。
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