オウンドメディアだからできることを探求する。NEC「wisdom」の未来
コンテンツマーケティングという言葉すらまだ日本に上陸していなかった2004年。NEC(日本電気株式会社)は、オウンドメディア「wisdom」を立ち上げた。国内外の最先端のビジネストレンドやテクノロジーの情報を発信する、ビジネスリーダーのためのオウンドメディアだ。
当初はNEC色を一切出さずに、NECに興味がない人でも、先入観なしに読んでもらうコンテンツづくりに腐心していたという。
2016年のリニューアルを機に、NECが提供する先端技術を活用した社会価値創造のためのソリューション紹介も行うようになった。それは、デジタルマーケティング起点で、商材の販売につなげられる環境が整ってきたからだ。
リニューアル後の「wisdom」の編集を手掛けるIMC本部の萬代由起子編集長と櫻井眞帆氏に、同サイトの現在と未来についてお話を伺った。
「wisdom」は2004年に立ち上がり、会員数約84万人を誇るメディア。
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目次
NECの取り組みに関する記事は一切載せない
――「wisdom」の立ち上げの経緯を教えてください。
萬代:「wisdom」が立ち上がったのは2004年です。当時は、まだ接点のないお客様とつながれる場を設けたいということで立ち上げました。なので、NEC色をなるべく出さないようにしており、NECの取り組みに関する記事は一切載せないという編集方針でした。
――あえて会社名を出さないのはどういう意図からですか?
萬代:ひとつは、NECという会社名が出ると、どうしても宣伝色が出てしまうという理由があります。また、大手企業が出す記事はおもしろくない、興味がないと思い込んでいる方もいらっしゃったので、そういった先入観を取り除いて読んでもらいたい意図からです。企業が運営しているメディアではあるのですが、「中立的なメディア」の位置づけで運営したい思いもありました。
――今は企業名を出していますが、何が変わったのですか?
萬代:今は、NECの取り組みを紹介している記事が半分くらいですね。一方で、直接NECが関与してない、世の中のトレンド情報やグローバル事情などのコンテンツもそろえています。全部がNECの紹介コンテンツになってしまうと、NECに興味がある人しかサイトに訪問しなくなってしまう。ほかの記事を読みたいと思って訪問された方が、ついでにNECについて書かれた記事も読んでくれればという考えで、両方のコンテンツをそろえています。
――これまで何度かリニューアルされていますが、社名を出すようになったのは読者が増えてきたからですか?
萬代:NECは2015年の中期経営計画の中で、「社会価値創造型企業への変革を目指す」という宣言をしました。「wisdom」もそれに沿って、2016年に大きくリニューアルしてコンセプトも変え、NECにまったく関係ない記事や、単なる趣味や学びといったコンテンツは作らなくなっています。
リニューアルに際し、ペルソナは「既存の枠組にとらわれず、新規事業をみずから作り出す次世代ビジネスリーダー」と決めました。コンテンツもペルソナの興味領域にマッチし、かつNECが提唱する社会価値の創造にリンクするものを意識しています。社会課題の解決に役立つことにつながる記事をそろえることで、NECの事業領域を紹介するメディアになるよう、編集方針を大きく変えました。
櫻井:社内から「wisdom」のコンテンツを作りたいという声が多く上がってくるのですが、基本的にはコンテンツ企画シートを提出してもらいます。シートを見て、この記事はどういう社会価値に合致するか、どんな未来が見えるかといったことをきちんと確認した上で、記事にしていきます。
集客の「量」から「質」へ編集方針を変更
――「wisdom」は、日本のオウンドメディアの中ではかなり早い時期に始まっています。そもそも、オウンドメディアを立ち上げた理由は何だったのですか?
萬代:最初は会員の集客が目的でした。属性を問わず、いろいろなところにアプローチしていましたね。プレゼントキャンペーンなども行い、かなりの会員数を集めていた時期もありました。
現在の会員数は、約84万人です。母数がある程度そろったこともあって、私たちが大切にしていくべき会員にフォーカスした編集方針になりました。新規の会員獲得も厳選して、会員の質を高めていく方向にシフトしています。
――リニューアルの前後で、会員の属性も変わったわけですね。
萬代:弊社がお客様とする層に向けた施策を打っていくことで、必然的にその比率が増えていると思います。一方で、離脱する方が多いことも事実です。今のサイトに魅力を感じていただけない方は、ターゲットではないので仕方がないと割り切っています。数は減っても質を上げるという方向で今は運営しています。
櫻井:今は「会員数を増やしたい」というより、ちゃんとしぼったターゲットに響いているかを重視しています。そのためにKPIを設定し、半期ごとに見ていくようにしています。
――質の高い会員の指標は何ですか?
萬代:明確にわかりやすいのは会員の属性です。具体的に営業先としてアプローチしたい業種や領域のお客様かどうかというのがひとつの指標になっています。また、私たちがペルソナにしている、新規事業をみずから立ち上げようとしている方を増やそうとしています。
――会社の業種や部署など、会員属性に何か特徴はありますか?
櫻井:会員属性は、どうしても製造業や情報システム部門の方が多くなります。しかし、「wisdom」では、なるべくそれ以外の新規事業開発や、営業が接点を持てていない分野の方を増やすことも、目標のひとつとしています。
――具体的に強化していきたいコンテンツの傾向はありますか?
萬代:コンテンツ制作は編集部だけではなく、同じ本部に注力テーマのプロモーション担当がいるので、各チームと連携して作るようにしています。
どういうコンテンツでどういったお客様にアプローチしたいのか、弊社が今注力したい領域はどこなのか、アプローチしたいお客様はどのような業種や職種で、どのパイプを強くしたいのか。それぞれケースバイケースなので、それに合ったコンテンツを作ります。そして、コンテンツに合った広告を、ターゲット層が見そうなところに配信します。
――「wisdom」がハブになって、全社的に各部署からの要望を集めてコンテンツの予定を組んでいるイメージですか。
萬代:そうですね。私たちが所属しているIMC本部は、全社のマーケティング機能を担う部門です。全社の注力領域における各マーケティング担当者は、IMC本部に集約していて、基本的に全社の注力領域のコンテンツに関する相談は、IMC本部に上がってくるようになっています。
最近では、デジタル活用が従来の情報システム部門だけの課題ではなくなっている中で、営業がアプローチしたい、情報がほしい領域も従来のやり方ではカバーできなくなっています。そのため、新規顧客や新規事業に向けた活用という観点で社内でも「wisdom」の認知が上がってきています。
コンテンツの方針を決めるコンテンツ企画シート
――実際にコンテンツ化するときに、各部署とのすり合わせはどういう流れで行いますか。
萬代:先程もふれましたが、最近、コンテンツ企画シートを整備しました。それに、記事の対象や目的、お客様にとってどういう課題や解決に役立つかといった内容を記入してもらいます。
このシートをもとに「wisdom」のポリシーと合うか、編集部で判断します。コンテンツ化するものに関しては、そのテーマの担当者がいれば、テーマの担当者といっしょに進めていきます。
――合わないと思ったら扱わないこともあるのですか?
萬代:はい。「これはどう考えても、NECの製品/ソリューションの紹介止まりだよね」という、製品カタログとかスペックといった話だと「wisdom」に載せるにはふさわしくない。社会課題に対して、お客様に何か気づきを与えない、価値提供につながらないテーマは扱いません。
その場合、NECには「wisdom」のほかに製品/ソリューションや会社情報などを掲載しているコーポレートサイトがあるので、そちらにソリューションの紹介といっしょに載せてもらうこともあります。
――編集部で判断するときに、どういう切り口にするかという判断は、それなりに商品に詳しくないと難しくありませんか?
萬代:会社として訴求すべき活動なのかを判断します。弊社が注力領域とする、「NEC Safer Cities」というスマートシティ(※1)の実現に関係するテーマであるか。そして、弊社が「NEC Value Chain Innovation(バリューチェーンイノベーション)」と呼んでいる領域、つまりは、人やモノ、プロセスを産業の枠を超えてつなぎ、新たな価値を創出が訴求できる内容かどうか。コンテンツは、そのどちらかにマッチしているという基準があります。
どちらにも合致しない場合は、「AI」「生体認証」「ネットワークに関連した技術的な要素」といった差異化要素として注力しているテーマが含まれているかを見ています。
いずれにも該当しない場合は、弊社が解決しようとしている社会課題(地球との共生、枠を超えた多様な働き方など)に解をもたらす取り組みであるかという軸で見ます。それでも合致しない場合は、扱うことはないですね。
※1 スマートシティ:ITや環境技術などの先端技術を駆使し、エネルギーや交通網の効率化を図って、環境に配慮しながら継続的な経済発展を目指す都市のこと。
――指標になる軸があって、それに合致するかしないかというのが、フィルターになっているのですね。
萬代:はい。そこで判断した上で、あまり“NECが”という製品軸とならないように、主語はNECかもしれないですけど、コーポレートサイトとの差別化を図る内容になっているかを合わせて確認します。
あとは、その記事を作ることでどういう認知拡大になるのかも確認します。セミナー等への参加促進なのか、外部にバナー広告を出すのか、どういうプロモーション戦略で外に出していくのかもコンテンツ企画シートに書いてもらいます。コンテンツ企画シートを見れば、どういう目的のコンテンツで、どういうプロモーションがしたいのか、一目でわかる形になっています。
――コンテンツ企画シートが果たす役割は重要ですね。
萬代:そうですね。「wisdom」のコンテンツは、ライターさんに書いてもらうものです。コンテンツ企画シートはそのままライターさんに発注するときにお渡しするものになるので、ここに必要要素はすべて含める感じになっています。
企業オウンドメディアの成功事例を詳しく知りたい方はこちらを参考にしてください
KPIは会員の質を高めること
――会員になるためのモチベーションはイベントがメインですか?
萬代:そうです。例えば2019年9月には、「街づくり」をテーマにセミナーを主催しました。東急(東急株式会社)さんや、ライゾマティクスの齋藤精一さん、「wisdom」で毎月「次世代中国」というコラムを書いていただいている田中信彦さんに、街づくりについてお話しいただきました。NECからも、「2019年、2020年を契機としたこれからの街づくり」というテーマで講演させていただきました。
このような形で、「『wisdom』とNECがやっていること」と「世の中の最新情報」を掛け合わせたセミナーを、年に2回ぐらい企画しています。
イベントでお客様に「wisdom」を再認識していただけますし、そこで初めて「wisdom」を知る方もいらっしゃいます。イベントがきっかけで、「wisdom」が日常的な情報収集の手段として候補に上がってくれればいいなと考えています。
――イベント以外で反響を見る手段はあるのですか?
萬代:「wisdom」では記事ごとにコメントを書けるので、コメントで反応を見ています。
あとは、広告を出したときに、特定のコンテンツでアクセスが増えたりすると、この記事は人気なんだなというのはわかります。
ほかにも、「NewsPicks」のブランドパネル枠(※2)に、広告を週に1本出稿しています。そうすると、多くの人の目にとまるようで、かなり多くのコメントをいただけますね。「NewsPicks」の読者との相性もあるのかなとは思います。
※2 ブランドパネル枠:ウェブサイト内の広告枠のこと。Yahoo! JAPANのトップページの右上にある広告枠が有名。
――今のKPIは何に設定していますか?
萬代:会員の質を高めることで、NEC IDをより営業が狙うターゲット層とリンクした属性に変えていくことです。あとは、84万人の会員のアクティブ率を上げるという2軸を、活動の指標に置いています。
――アクティブ率は、何が一番大きな指標になるのですか?
萬代:サイト訪問やイベント申し込みなど、一定期間に何かしらアクションをしてくれた会員は、アクティブユーザーに設定しています。
例えば、イベントの申し込みで1回会員登録したまま、動きのない方は結構います。そういう人をなるべく少なくするために、その人たちに刺さる魅力的なコンテンツやイベントを仕掛ける。それによって、登録して終わりじゃなく、反応してくれる状態に持っていく。そうしないと、結局生きたデータが取れませんから。「wisdom」の運営は、デジタルマーケティングを基板にすることを目標としていますから、データが重要です。
――会員の反応で特に手応えがあるものは何ですか?
萬代:SDGs(※3)とレゴを組み合わせたワークショップを年に3、4回やっているのですが、そのワークショップと相性がいいのか、まさに私たちが描くペルソナに近い人たちに毎回ご参加いただけています。
特に、そういう少人数制のイベントだと参加者の顔が見えて、反応も見られるので、とても励みになりますね。
リアルでもつながって実際に意見をもらったりするので、自分たちが普段やっていることの意義も感じられます。そこで得た情報を現場にいない事業部や関係者にフィードバックすることで、自分たちの価値も高められる。そういうときは、非常にやりがいを感じます。
※3 SDGs:Sustainable Development Goalsの略。持続可能な開発目標を表し、2015年9月の国連サミットで採択された2030年までの国際目標。
お客様とコーポレートサイトの架け橋のような存在に
――イベントはユーザーと直接コミュニケーションがとれると思いますが、今後どのくらいまで増やしていくという計画はありますか?
萬代:もちろん増やしてはいきたいですけど、私たちはあくまでも「wisdom」のチームですから、イベントはエッセンスです。ウェブを活用して、お客様の動きをリアルでもデジタルでも総合的に追って見える化するのが、一番やらなくてはいけないことだと思っています。
――「wisdom」はオウンドメディアとしては老舗ですが、今後どのようなメディアにしていきたいと考えますか?
萬代:コーポレートサイトとは別に、こういったオウンドメディアを置く意味は非常にあると思うんです。ただ、なかなか位置づけを明確化するのが難しくて、今でも社内でいろいろな議論があります。
お客様を引きつけやすくなっているのはあると思いますが、まだ私たちにもはっきりした答えが出せているわけではありません。ただ、お客様とコーポレートサイトの架け橋のような存在になれるオウンドメディアを目指していきたいと思っています。
萬代由起子(まんだいゆきこ)
NEC IMC本部/メディア・デジタルマーケティンググループ所属。2018年よりwisdom編集長。現在は、オウンドメディア、外部メディア、リアルイベント等の様々なタッチポイントとMA、SFA、インサイドセールスを連動させたマーケティング施策を実行。
櫻井眞帆(さくらいまほ)
NEC IMC本部/メディア・デジタルマーケティンググループ所属。関東近郊の医療マーケットの営業を経て、2019年4月より現部署に配属。wisdom事務局としてオウンドメディア、外部メディア、リアルイベント等のさまざまなタッチポイント施策を実行。
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