VISIONARY(トヨタ自動車) vs Mercedes-Benz LIVE!(メルセデス・ベンツ日本)【オウンドメディア一本勝負!第2回】
成功するオウンドメディアと失敗するオウンドメディアの違いは何なのでしょうか。私たちは、何を基準にオウンドメディアを運営していけば良いのでしょうか。
「オウンドメディア一本勝負!」では、業界の気になるオウンドメディアを比較・検証し、その答えを探っていきます。
第2回は、世界の自動車産業を牽引するトヨタ自動車株式会社の「VISIONARY」と、メルセデス・ベンツ日本株式会社の「Mercedes-Benz LIVE!」。
「VISIONARY」は、「EXPERIENCE AMAZING(驚きの体験)」をスローガンにした、トヨタの高級車種「LEXUS(レクサス)」のブランディングを目的に、2017年5月にスタートしたライフスタイルメディアです。
一方の「Mercedes-Benz LIVE!」は、2014年4月に開設され、2017年4月にリニューアルされた、メルセデス・ベンツのある生活について発信していくライフスタイルメディアです。
次に挙げる5つの指標において、それぞれのメディアを採点していきます。
<5つの指標>
【1】ブランディング
企業に対する共感や信頼を通じて価値を高められているか。
【2】おや?まあ!へぇ~
疑問や好奇心を抱かせ、驚きや発見を与え、納得してもらえているか。
【3】ソートリーダーシップ
未来を見据えた革新的な提案によって、業界を主導できているか。
【4】解決策の提示
ユーザーが抱える課題や悩み、欲求を満たす提案ができているか。
【5】ストーリー性
心を動かし、記憶に残し、態度変容を促すストーリーが提供できているか。
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目次
【1】ブランディング
レクサスとメルセデス・ベンツ。ともに、世界市場で憧れの高級車として、確固たるブランドを築いています。レクサスは、1989年に米国で発売されると、ハリウッドスターをはじめ多くのセレブたちに愛され、あっという間に人気高級車へと仲間入り。そして、2005年に、満を持して日本市場にも進出しました。
メルセデス・ベンツは、もはや高級車の象徴・代名詞ともいえる世界屈指のブランド。日本でも輸入車の販売台数1位(2018年度、日本自動車輸入組合調べ)を誇っています。
しかし、両社のオウンドメディアのブランド戦略は少し異なります。
「VISIONARY」は、レクサスのブランドサイトでありながら、レクサス自体の露出は控えめです。おしゃれで知的なライフスタイルの提案がメインで、レクサスはあくまでも暮らしの中に溶け込むアイテムのひとつとして位置付けています。
一方、「Mercedes-Benz LIVE!」は、ほぼすべてのコンテンツに商品が紐付けられています。これは、近年のオウンドメディアでは珍しいスタイルです。なぜなら、オウンドメディアで配信されるコンテンツは、ユーザーファーストの立場をとることが多いため、商品やサービスの直接的な訴求は敬遠されるからです。
しかし、「Mercedes-Benz LIVE!」では、「これでもか!」というくらいにメルセデス・ベンツが顔を並べます。これができるのは、メルセデス・ベンツが世界屈指のブランド力を持つゆえでしょう。
とはいえ、実は「Mercedes-Benz LIVE!」も、リニューアル前は「VISIONARY」と同じように商品の露出は控えめに、音楽や趣味といったライフスタイルの提案を軸としたメディアだったのです。
では、なぜ「Mercedes-Benz LIVE!」は、商品を前面に押し出す戦略に切り替えたのでしょうか。
「消費者はドリルが欲しいのではなく、穴を空けたいのだ」というマーケティングの鉄則があります。つまり、ユーザーは商品が欲しいのではなく、その商品を使ってある目的を達成したいのです。車が欲しいのではなく、車を使ってドライブや移動をしたいのです。
しかし、メルセデス・ベンツに限っては、ターゲットユーザーはもはや「ドライブしたい」「移動したい」のではなく、「ベンツを持ちたい」のです。つまり、「Mercedes-Benz LIVE!」のおもなターゲットは、「高級車に乗りたいけど、何にしようかな」と悩むユーザーではなく、「ベンツが欲しいけど、車種は何がいいのかな」というユーザーなのです。
マーケティングにおいて、ターゲットは、大きくブランドターゲットとセールスターゲットに分けられます。ブランドターゲットは、ブランドの思想や世界観に深く共感する象徴的な顧客層、そのブランドの顧客層として想起される象徴的な顧客層のことです。一方、セールスターゲットは、おもに商品の機能性や価格などに魅力を感じる顧客層。
両メディアとも、ブランドターゲットを対象にしていることに違いはありません。しかし、両ブランドのターゲットとの向き合い方は微妙に異なります。
レクサスは、米国で確固たるブランドを築いているものの、日本市場ではまだメルセデス・ベンツの牙城を崩せているわけではないので、まずはブランドターゲットを優先していると思われます。一方、メルセデス・ベンツは、日本市場で高級車としての地位を確立しているため、ブランドターゲットをリテンション(関係維持)しつつも、リニューアル後はセールスターゲットも視野に入れた戦略にシフトしたと思われます。
◆ブランディングの採点◆
5(VISIONARY):5(Mercedes-Benz LIVE!)
両ブランドともにブランド力は横綱級であり、オウンドメディアも一流のハイクオリティを保っています。お互い、ターゲットに多少の棲み分けはあるものの、ブランディングに関してはまったく互角といえるでしょう。
「Mercedes-Benz LIVE!」がストレートに商品を訴求できるのも、自信と誇りの表れでしょう。レクサスが国内市場でメルセデス・ベンツの販売数を越えたときは、「VISIONARY」も一気に商品訴求をするメディアへと変貌を遂げるのかもしれません。
【2】おや?まあ!へぇ~
「VISIONARY」は、「クラスマガジン」(ある特定の階層の人だけを読者対象にした専門誌)といってもいい高級感と、独自の世界観に包まれています。「EXPERIENCE AMAZING(驚きの体験)」をスローガンにしているとおり、ラグジュアリー感の中にも、驚きと発見に満ちたコンテンツが豊富にそろっています。また、扱うジャンルの幅も広く、外堀から攻めながらレクサスにたどり着くような設計になっています。
「Mercedes-Benz LIVE!」は、カルチャー、ライフスタイル全般のグローバルナビと車種別のグローバルナビが並列に表示されており、どちらからもアプローチできる設計になっています。「VISIONARY」のように「COOKING」「HOBBY」といったカルチャー系のカテゴリもありますが、すべて車種の紹介と結び付ける徹底ぶりです。
◆おや?まあ!へぇ~の採点◆
5(VISIONARY):3(Mercedes-Benz LIVE!)
雑誌がまだ元気だった時代の雰囲気を漂わせる「VISIONARY」に、懐かしさと安堵感を覚える50~60代の方は多いのではないでしょうか。「Mercedes-Benz LIVE!」は、コンテンツはすべて商品に紐付いているため、好奇心を促したり、驚きを与えたりするような意外性にはやや欠けています。ということで、「VISIONARY」の勝ち!
【3】ソートリーダーシップ
ソートリーダーシップとは、企業が未来を見据えた革新的なアイディアや解決策を提示し、業界における主導的な地位に立つことです。そういう意味において両社のメディアは、もはや世界の覇者としてのプライドをかけて、競い合っているライバルといえます。
「VISIONARY」は、メディアタイトルが示すように、全体を通じて「未来を見つめる」世界観を打ち出しています。みずから「未来像を見極め、知の拡張と知的好奇心の充足を目的とした」先見的メディアをうたっているだけあって、車の未来、テクノロジーの未来、豊かな生き方など、レクサスを通じて、トヨタ自動車がどんな未来を描いているのかを垣間見せてくれます。
ただ、「VISIONARY」は、あくまでもレクサスのブランディングメディアという位置付けなので、トヨタ自動車という企業としてのビジョンを具体的に表明しているわけではありません。トヨタ自動車は、ブランド別にサテライトメディアを数多く抱えていますが、ソートリーダーシップの表明は、豊田章男社長を前面に押し出した「トヨタイムズ」にその役割を担わせているのかもしれません。
「Mercedes-Benz LIVE!」は、商品訴求とエンターテインメントに特化していることもあり、ソートリーダーシップ性はほとんど打ち出していません。
◆ソートリーダーシップの採点◆
3(VISIONARY):2(Mercedes-Benz LIVE!)
両社とも、このオウンドメディアでソートリーダーシップを訴求していこうという意図はあまりなさそうです。このクラスの大企業は、ブランド別、目的別にそれぞれサテライトサイトを持つので、一ブランドのオウンドメディアで、あえてソートリーダーシップは打ち出していないようです。
【4】解決策の提示
オウンドメディアの多くは、課題解決型のコンテンツが提供されます。ユーザーファーストの視点に立てば、自ずとユーザーのメリットになる課題解決型コンテンツが多くなります。
商品の宣伝をするだけなら、広告を打ったほうが効率はいいでしょう。わざわざオウンドメディアでユーザー視点に立ったコンテンツを提供するのは、ユーザーと信頼関係を築き、エンゲージメントを結ぶのが目的だからです。
コンテンツマーケティングには、「アドボカシー・マーケティング」という上位概念があります。「アドボカシー(advocacy)」とは、「支援」「擁護」「代弁」などの意味を持ちます。アドボカシー・マーケティングは、顧客との信頼関係を築くことを目的に、徹底的に顧客本位で接するマーケティング手法のことです。
企業は「ユーザーファースト」を追求し、信頼を得ることでユーザーとの長期的な関係性を構築し、利益を目指さなければならなくなりました。このことが、アドボカシー・マーケティングが注目されるようになった所以です。
「VISIONARY」と「Mercedes-Benz LIVE!」は、ともに高級車という高関与商材を扱うメディアです。高関与商材とは、商品の比較・検討など、消費者の思考が多く関与する商材のこと。家や不動産などの耐久消費財や、株、国債、金などの金融商品、高級車のような趣味や嗜好性が高い物など、一般的には高額な商品を指します。
高関与商材は、長期間にわたって利用するものが多く、購入時にはこだわりを持って選ぶため、「強く愛される」ことが重要になってきます。
一般的には「商品訴求=企業視点」「課題解決=ユーザー視点」とされますが、レクサスやメルセデス・ベンツのようなブランドが確立した高関与商材の場合は、「商品訴求=課題解決=ユーザー視点」にもなりえます。
「VISIONARY」と「Mercedes-Benz LIVE!」は、ともに商材の世界観を全面に打ち出すことで、「憧れ」「特権意識」「所有欲」「夢」を触発し、ユーザー満足度を高めています。
「商品訴求=課題解決=ユーザー視点」は、ブランドが確立した高級車だからできるともいえます。誰もが知る有名ブランドであるからこそ、ストレートに商品訴求をしてもユーザーに忌避されない(むしろ求められる)側面があります。しかし、両ブランドにも、当然競合は存在します。だからこそ、オンリーワンの存在感を打ち出し、ユーザーが「この車は私のためにある」と思わせることが必要なのです。
一方、ブランドが確立していない企業は、まず「課題解決=ユーザー視点」の考えに沿って制作したコンテンツで、ユーザーの満足度を高める必要があります。
じっくりと時間をかけながら、少しずつ安心感と信頼感を与え、ユーザーのためにいかに信頼を獲得するか。ユーザーを支援し、擁護し、ユーザーの利益を最優先する――それがアドボカシー・マーケティングであり、コンテンツマーケティングのあるべき姿です。
◆解決策の提示の採点◆
5(VISIONARY):5(Mercedes-Benz LIVE!)
両ブランドとも高いレベルで互角の勝負をしています。類まれな高いブランド力を持っているからこそ、商品訴求をしながら「課題解決=ユーザー視点」も実現できる、稀有なオウンドメディアともいえるでしょう。
【5】ストーリー性
良いストーリーは、必ず「左脳的エビデンス」と「右脳的感性」の要素が両立しています。左脳的エビデンスとは、説得力のある客観的事実や論理性のあるコンテンツです。右脳的感性とは、意外性や驚き、気付き、発見など、心を揺さぶりユーザーの態度変容を促すコンテンツです。
ブランディングの項目で説明したように、両メディアともにブランドターゲットを視野に入れたコンテンツを配信しているので、ストーリー性を非常に重視しています。
例えば、「VISIONARY」の「VOICE」というカテゴリは、人に焦点をあてた取材記事ですが、リゾート地の紹介でも「庄内を世界一幸せなまちにする。ヤマガタデザインが取り組む「本物」のまちづくり」とか、「四国最南端の地にスノーピーク初、“海のキャンプ場”が誕生。野遊びを通じた、スノーピーク流の地方創生とは」といった切り口で、上質なストーリーに仕上げています(タイトルがちょっと長いですが…)。
「Mercedes-Benz LIVE!」には、「She’s Mercedes」という、新しいことに挑戦する女性を応援するカテゴリがあり、女性のライフスタイルを軸にした記事が展開されています。
◆ストーリー性の採点◆
5(VISIONARY):4(Mercedes-Benz LIVE!)
おもしろいストーリーに集中できる点で、「VISIONARY」の勝ち!とはいえ、両メディアとも、レクサスやメルセデス・ベンツのオーナーでなくても、「『VISIONARY』を読んでいる俺ってイケてない?」「『Mercedes-Benz LIVE!』を読んでいる私ってイカしてない?」と思わせるに十分な高いレベルで、左脳的エビデンスと右脳的感性を備えた良質のストーリーを提供しているといえるでしょう。
総合結果
最後に、それぞれの項目の結果を合計してみましょう。
◆合計◆
23(VISIONARY):19(Mercedes-Benz LIVE!)
「VISIONARY」が大きく引き離して勝ち!しかし、「Mercedes-Benz LIVE!」が、あえて商品訴求に徹しているため、ここで挙げている5つの指標では負けていますが、「オウンドメディアとしてどちらが優勢か?」という判断ではありません。
むしろ、「Mercedes-Benz LIVE!」が2年前までは「VISIONARY」と同じスタイルだったことを考えると、「Mercedes-Benz LIVE!」は「VISIONARY」の進化形なのかもしれません。
また、「VISIONARY」と「Mercedes-Benz LIVE!」は、質・量ともにハイレベルで、コンテンツ制作にかなりのコストと時間をかけていることがうかがい知ることができます。ほとんどの企業には、そんな予算も余裕もないのが実情でしょう。
ここで皆さんに知っておいていただきたいのは、「お金をかければすばらしいオウンドメディアが作れる」ということではありません。肝心なのは、両ブランドが「誰に、何を、どうやって」ユーザーにコンテンツを届けたいのか、明確なビジョンと指標を持っていることなのです。
あなたも自社と競合のオウンドメディアで、5ラウンド勝負してみてはいかがでしょうか。きっと、今まで気付かなかった課題とやるべき戦略が見えてきますよ。
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