インタビューとは初デートの食事である【最強コンテンツの作り方 第6回】
もはや、ネットで集めた二次コンテンツを大量生産する時代ではありません。情報洪水の時代だからこそ差別化を図り、ユーザーに信頼される価値の高いオリジナルコンテンツが求められているのです。
本連載「最強コンテンツの作り方」では、情報収集からインタビュー、取材、企画、文章の作成方法まで、ユーザーの心をつかむコンテンツの作り方をお届けします。
第6回は、インタビューをする上で知っておきたい2つの構成要素についてご紹介します。
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目次
インタビューに臨む際に押さえておきたい2つの構成要素
インタビューは取材の基本です。「取材=インタビュー」といってもいいでしょう。しかし、その手法は人やメディアによってさまざまで、これという正解やマニュアルはありません。
反対にいえば、小手先のテクニックやスキルをいくら覚えても、インタビューがどんなしくみで構成されているのか知っていなければ、「はりぼて記事」に終わってしまいます。
そこで今回は、インタビュー記事を書く上で知っておきたい「会話と対話」、そして「口語体と文語体」という、2つの構成要素についてお話をしたいと思います。
インタビューは「会話」と「対話」で成り立っている
私自身、これまで数多くのインタビューをしてきましたが、いまだに「正解」は見つかっていません。
もし完璧なインタビューがあるとすれば、それはどんなインタビューだと思いますか?
私は、「完璧なインタビューとは、インタビューで聞いた話がすべてそのまま使えるもの」だという思いでやってきました。つまり、後で編集作業が一切必要ないインタビューです。しかし、そんなインタビューができたことは一度もないし、今後も永遠にできることはないでしょう。だから、私はなるべく無駄のない質問をして、無駄のない返答をしてもらうよう努めてきました。
それでも、いつも半分以上が無駄な質問、無駄な返答になってしまいます。インタビューの経験がある方ならわかると思いますが、60分のインタビューを文字に起こすと、20,000字程度になります。ここでもし「完璧なインタビュー」なら、5,000字の原稿を書くには15分あれば十分ということになります。
しかし、私は最終的に原稿にするとき、5,000字であれば、少なくともインタビュー時間を60分はもらうようにします。つまり、5,000字の文章を作成するために20,000字が必要なのです。
ただ、15分のインタビュー時間で、3,000字の記事を作成することもまれにあります。それは、ある米国のテニス選手をインタビューしたときでした。いただいた時間は撮影込みの30分。通訳も入ったので、実質15分以下でした。雑誌で3ページの枠をとっていたので、記事は3,000字程度にまとめなければなりませんでした。
もし、この記事がインタビュイー(話し手)のコメントを主とした質疑応答の形式だったら、3,000字の記事を構成することは難しかったでしょう。だから、私はエッセンスとなるインタビュイーのコメントをはさみながら、筆者の地文で構成する報道スタイルにしました。筆者の視点や考察を交えながら、ストーリーを立てていくのであれば、15分のインタビューでも3,000字の記事を作成することは十分可能です。
とはいえ、私は5,000字の原稿を書くために、20,000字の素材が必要なのはどう考えても無駄が多いと感じていました。つまり、無駄な話を聞きすぎているのではないかと。文字起こしをした20,000字の素材を編集して5,000字になるということは、使わない15,000字、すなわち75%が無駄になることを意味します。
しかし、実はその75%が無駄になることは、当たり前のことなのです。
70%の「無駄な会話」が、30%の有意義な「対話」を生む
作家の井上ひさしは、著書「自家製 文章読本」で、「酒場のマダムを口説くときや上司が部下に説教するときを録音すれば、会話がいかに文語体と乖離しているかがわかる」と書いています。「どうしてこれほど冗長で無駄なことばかり言っているのか。自分が阿呆に思えてくる」と。
しかし、会話体が冗長なのは「阿呆だから」ではないそうです。
「実は会話体は冗長性こそが最大の特徴で、その70%までは無駄な受け答えである(情報理論の創始者の一人、クロード・シャノンの調査による)~中略~しかし、この無駄がなくなると、私たちは命がけの緊張感を強いられる。それでは精神が参ってしまう。だからあえて70%の無駄を交えて会話する」というのです。
つまり、20,000字の素材を、読むに値する文章にしたいなら、それが5,000字になるのは必然なのです。
問題は、この無駄な会話をいかに削ぎ落としていくかということです。
私自身も経験があるのですが、よくインタビューで話が盛り上がって、インタビュイー(話し手)もよどみなくペラペラしゃべってくれることがあります。そして、インタビューが終わった後、「今日はいろいろ話が聞けたし楽しかったね!」というときに限って、内容が薄っぺらく、記事にまとめにくいということがあります。そういうときは「会話」ばかりで、「対話」がされていないことが多いのです。
インタビューでは70%の「無駄な会話」が必要ですが、記事にする素材に必要なのは「会話」ではなく、残り30%の「対話」なのです。
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「会話」は「対話」を導き出すためのコース料理
インタビューにおけるコミュニケーションは、70%の「会話」と30%の「対話」で構成されます。では、「会話」と「対話」の違いは何でしょう。
「会話」は、コミュニケーションにおける基本です。「日常会話」「夫婦の会話」「親子の会話」「恋人同士の会話」「英会話」とはいいますが、「日常対話」「夫婦の対話」「親子の対話」「恋人同士の対話」「英対話」という言い方はあまりしません。夫婦、親子、恋人が「対話」をするとすれば、それは何か特別な目的があることが想起されます。「一度ちゃんと話し合ったほうがいいよ」となったとき、「会話」は「対話」になります。
極論すると、「会話」はお互いの話を聞いていなくても成立します。「対話」を進めるための準備が「会話」ともいえます。「元気ですか?」と言ったら「元気です」。「おやすみ」と言ったら「おやすみなさい」。「おいしいね」と言ったら「うん。おいしいね」と答えます。インタビューのテーマが「人生で最も学んだこと」だとしても、最初からいきなり「あなたの人生において最大の恩師は誰ですか?」と聞くわけにもいかないのです。
インタビューは大切な人とのデートに似ています。インタビュイー(話し手)に心を許して貴重な話をしてもらうには、その舞台とストーリーが必要なのです。
例えば、インタビューを初デートでの食事に置き換えてみましょう。
今日は彼女と初めてのデートです。ちょっと気取って、素敵なイタリアンレストランに誘いました。雰囲気のいい中、シェフのおすすめコースを注文します。
心地良い緊張感に包まれ、しばらくすると、まずアンティパスト(前菜)が出てきます。アンティパストの役目は、食欲を促すことです。つまり、「今日はいろいろ話してみたいな」と相手に思わせる前振りです。いきなり本題に入るのではなく、量は少なくても、鮮やかな色やちょっとした刺激を交えて興味を引くことが大切になります。食欲を増進させるための塩味や酸味の利いた味は、インタビューでいう「つかみ」です。
次はプリモ・ピアット。前菜と主菜のあいだに出る料理です。パスタ、リゾット、スープなどが出されます。インタビューでいうと、少しずつ本題に近づけていく段階です。
そして、セコンド・ピアット。メイン料理です。肉や魚に合ったワインを口にすることでメリハリをつけたり、新鮮な気分になったりしてもらいます。
インタビューでは本題に突入しているので、集中する時間が続き、少し疲れてくるころです。相手が話に夢中になっていたら、おすすめのワインを出すようにぴったりな話題を振り、そのノリを勢いづけていきましょう。
次はサラダです。肉料理を食べた場合、酸性に傾いた血液をアルカリ性食品のサラダが元に戻してくれます。また、メイン料理でこってりした口の中を、野菜でさっぱりする目的もあります。特にインタビューが長めのときは、話題を変えたり、少し軽めの話に持っていったりして、相手が退屈したり疲れたりしないように流れを変えます。それがサラダの役割です。
そして、締めくくりはデザートとエスプレッソコーヒー。甘さと苦さの絶妙なハーモニーが、相手の気分をやわらげリラックスさせる効果があります。
ちょっと古いですが、1970年代に「刑事コロンボ」という人気ドラマがありました。コロンボは犯人に探りを入れるため話を聞きにいくと、必ず帰り際に「あ、最後にひとついいですか?」と言って振り返ります。あっさり帰ろうとするコロンボに、ホッとした犯人の心の隙を突いて核心に迫るのです。
インタビューで録音を止めた後から退去するまでの合間は、デザートや、コロンボの「あ、最後にひとついいですか?」に相応する時間となります。「ああ、終わった」と相手の緊張がほぐれた瞬間に、貴重な話が聞けることが意外に多いのです。
お互いの存在を認識するための手段が「会話」であり、「会話」はデートの食事のように「対話」を引き出すために必要な段取りなのです。アンティパスト(前菜)が出てきた段階で、いきなり「僕のこと好きですか?」と聞く人はいないでしょう。「会話」なくして「対話」をするのは難しいのです。ウォーミングアップや潤滑剤として「会話」が必要なのです。
一方、「対話」はお互いの話を聞き合うことです。相手が話していることを、「なぜこの人はこんなことを言うのか?何を言おうとしているのか?その言葉の背景にあるものは何か?」と、丁寧に聞くことが「対話」です。
「対話」は、お互いのことをじっくりと聞き合い、違いがどこにあるかを探します。違うことが前提です。
「対話」は、対話をした結果、相手の考えや違いを理解することで、関係性を深めることなのです。
「口語体」と「文語体」のハーモニーを目指して
インタビュー記事は、インタビュイーの話す言葉が軸になります。ここで、20,000字を5,000字に編集する作業とともに、「話し言葉」を「書き言葉」に変換する作業も発生します。
「言文一致」という言葉をご存じでしょうか。
言文一致とは、日常で用いられる話し言葉に近い口語体を用いて書かれた文章のことを指します。この言文一致のムーブメントが起きたのは、明治から大正にかけての時代です。
時代によって目まぐるしく変化していく話し言葉に比べ、書き言葉は古い形にとどまりやすいため、話し言葉と書き言葉の溝が深まるといわれます。日本では明治時代になって読み書きのできる人が増え、両者の乖離による不便が浮き彫りになってきたため、言文一致のムーブメントが起きたそうです。ただ、これは単純に話した言葉をそのまま文章として書くという意味ではありません。ここが言文一致の難しいところです。
言文一致といっても、文章には新聞、雑誌、論文、小説、エッセイなど、そのスタイルもさまざまです。インタビュー記事においては、インタビュイーが話す言葉は当然口語体です。それをそのまま文章にすると意味が通じなかったり、読みづらかったりします。そのため、言文一致とはいえ、口語体をある程度文語体とすり合わせる作業が出てくるのです。
例えば、インタビューで話を聞くと、「なんです」「みたいな」「っていうか」「ますけど」「まあ」「じゃないですか」「とか」といった口語特有の表現がよく出てきます。また、おしゃべりな人ほど短い文節をダラダラとつなげ、切れ間なく話すため、文字起こしをしたときに、句点「。」が300字くらい出てこないこともよくあります。話した口調をそのまま活かすほうが、話し手の性格や個性も伝わりやすいし、臨場感も出ることでしょう。しかし、度が過ぎると一文が300字くらいに長くなったり、同じ調子が続いて単調になったり、間抜けな印象を与えたりしまうリスクもあります。そのバランスがとても重要で、インタビュー記事では、編集のほとんどが、この冗長な口語体と堅苦しい文語体の調整作業といっていいでしょう。
先の井上ひさしは言文一致に否定的でしたが、その理由のひとつに、話し言葉と書き言葉の文章構成が真逆であることを挙げています。日本語では書き言葉は述語が最後にきます。「私は今日きれいな花を買った」と。しかし、話し言葉では往々にして述語が最初に来ます。「花を買った」と。「今日は何をしてた?」と聞かれれば、わざわざ「私は」「今日は」とは言わないのです。つまり、「述語をまず示して文の骨組や結構(※)を定め、それから意味をいっそうくわしく限定する修飾語や修飾句を並べてゆくのである」というのが、井上ひさしが言う話し言葉の特性です。
※構成のこと。
明治時代から現代に至るまで、言文一致をめぐる議論は絶えません。井上ひさしのように意義を唱え続けた作家もいれば、芥川龍之介のように「書くようにしゃべりたい」という作家もいたのです。とはいえ、明治から大正にかけての言文一致のムーブメントがあったからこそ、今日の我々は日常生活の延長線上の読みやすい文章にふれられ、親しんでいるのも事実です。
現代の日本語の文章は、当然ながら文語体しかなかった明治時代ほど、口語体と乖離しているわけではありません。むしろSNSの世界では、文字でありながら口語体に占拠されている感もあります。一方でJK用語(女子高生の流行り言葉)が毎年生まれるように、口語体の変化が著しい側面もあります。
現代は、言文一致すべきかどうかという二律背反の議論ではなく、いかに生の声をリアルにわかりやすく伝えるか、という点において考えるべきでしょう。「口語体」と「文語体」をどうやって読みやすくわかりやすく調和させるか。その探求は、甘いデザートと苦いエスプレッソが奏でるハーモニーのようでもあります。
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2つの構成要素を思い浮かべながらインタビューに臨もう
以上、「会話」と「対話」の関係性、そして「口語体」と「文語体」のハーモニーについて説明してきましたが、私自身、やはり「完璧なインタビュー」は実現できていないし、その「正解」もわかっていません。
でも、インタビューに臨むにあたって、常に「会話」と「対話」の関係性、「口語体」と「文語体」のハーモニーについて考えを巡らせることで、インタビューをする度に毎回新しい発見があります。皆さんもぜひ、今回紹介したインタビューを構成する2つの構成要素を思い浮かべながらインタビューに臨んでみてはいかがでしょうか。
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