インタビューを成功に導く7つのレシピ【成田幸久のコンテンツ相談室】
こんにちは。コンテンツディレクターの成田です。このコーナーでは、お客様からよくいただくご質問から毎回1テーマをピックアップしてご紹介していきたいと思います。
前回に引き続き、今回はインタビューで面白い話を引き出し、オリジナリティのある記事を作る方法についてお話します。
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インタビューを成功させる「ABCDEFGのレシピ」
インタビューを成功させるためには、以下の7つのことを押さえておく必要があります。頭文字を並べて「ABCDEFGのレシピ」と覚えておいてください。
ひとつずつ見ていきましょう。
(1)Analysis (解析)
誰もがインタビューをする前にインタビュイー(取材される人)のことを調べると思います。過去の著書やインタビュー記事などがあれば可能な限り目を通すことでしょう。そこで重要なのが解析です。有名だから、すごい実績を残したから、というだけでは差別化したインタビュー記事はできません。ありきたりの質問ばかりを並べても、インタビュイーに「また同じ質問か」と、うんざりされるだけです。インタビューをするにあたって、これまでどこにも出ていないオリジナルのコンテンツにするためには、その人のまだ知られていない潜在的魅力を引き出すことです。
インタビュイーが何を考えていて、次にどんなことをしていきたいと考えているのか、入手した情報をもとに解析し、あらかじめ仮説を立てて臨むと、新しい発見につながる可能性が高まります。
ときにはインタビューの主旨に沿った話でなくても構いません。また最終的に記事にするかしないかは別にして、つかみとして「あなたのことにすごく興味があって徹底的に調べてきました!」という意思表示をしておくことで、アイスブレイク的な役割も果たします。そうすることで思わぬ貴重な話を引き出せるかもしれません。ただし、それはファンとして「あなたが大好きです!」という表明ではありません。あくまでも相手に「わかってるね〜」と感心させる隠し玉を用意しておくのです。
(2)Backup (予備)
インタビューは一発勝負です。二度目はありません。限られた時間で話を聞き、記事にまとめなければなりません。あとであれを聞き忘れた、録音できてなかったとなってもやり直しはできません。
レコーダーは予備に2台用意しておくとよいでしょう。容量が足りなくなったり、電池切れになったりするなど、不測の事態に備えて2台あると安心です。手書きのメモは、録音の補足ではなく、あくまでもポイントの抽出という意識でとりましょう。原稿に起こすときにメモから骨組みをつくり、録音データで肉付けしていくと、最初から全体の構成が組み立てやすくなります。
質問内容はインタビュイーにも事前に渡しておきます。そうすることで、あらかじめ話すことを考えておいてもらえます。特にインタビューに慣れていない相手の場合、現場でスムーズに話を進めるためにも事前に渡しておくとよいでしょう。ただ、ミュージシャンや俳優などのタレントの場合は、事務所やマネージャーが質問内容のチェックをすることはあっても、インタビュイー本人が事前に内容を確認してくれることはほとんどありません。
現場でぶっつけ本番のインタビューになることも多いので、質問骨子は多めに用意しておくとよいでしょう。(1)絶対に押さえておきたい質問と、(2)できれば押さえておきたい質問、そして幹となる質問の流れで話が広がらない場合に備えて、(3)少し視点を変えた予備の質問の三段階で用意します。なお、あまり多くの質問を渡すと相手に主旨や聞きたいポイントがわかりづらくなるので、事前に渡すときは「絶対に押さえておきたい質問」だけに留めておきましょう。
インタビューの主旨を固めて、その構成に沿ってインタビューを進めても、インタビュイーが必ずしも想定通りに答えてくれるとは限りません。また実際に会って話を聞くと、想定していなかった面白い話を聞き出せることもあります。少し視点を変えた第三の質問は、そういう状況になったときのために用意しておきます。
(3)Context(文脈)
ときどき質問内容を、ただ読み上げるだけのインタビュアーがいます。そういうインタビュアーは、記事にするときもただ質問した順番に並べてくるだけだったりします。このような「文脈」を無視した構成になると、一問一答のアンケートのように無味乾燥な退屈な記事になってしまいます。
文脈がないと読者は途中で飽きてきます。文脈をつくるためには、文から文へ移る流れの中にある、意味や内容をつなげていかなければなりません。文脈次第で、同じ言葉を使っていても、その意味は変わってきます。
たとえば、「自衛隊は違憲か合憲か」という議論があります。憲法9条だけを素直に読めば、「武力の放棄」「交戦権の放棄」とあり、武力を持つ自衛隊は「違憲」と思われます。しかし、「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については〜(中略)〜最大の尊重を必要とする」と書かれた憲法13条と併せて読むと、「生命、自由が脅かされたら、それを守る権利はある」と、自衛権までも放棄する必要はないという解釈もできます。日本政府は戦後ずっとこの自衛権を理由に自衛隊を合憲としてきました。これが文脈が持つ意味です。
コンテンツ全体を通して意味を持たせ、そこで読者に何を伝えたいのか明確にするために文脈は欠かせないのです。
(4)Dialogue(対話)
最近はインタビューのときにノートパソコンでメモをとるライターを見かけますが、ノートパソコンを使うとインタビュイーの目を見ないで話しがちになります。インタビューは対話でなければ、ただの一問一答のアンケートになってしまいます。いくら仕事だとはいえ、対話する姿勢がなく、事務的な印象を与えては、貴重な話を聞く機会を失いかねません。
相手は人間です。対話をすることで、本人も気づいていなかった考えやアイデアが出てくることがあります。指摘されて、質問されて、初めて自身について発見することもあるのです。インタビュイーに気づきを与えたり、自己発見をもたらしたりすれば、インタビューは成功したといってよいでしょう。
インタビュイーから面白い話を聞き出すためには、インタビュイーが発した言葉から文脈に沿って、「それはこういうことですよね?」「つまり○○ということですか?」などと、新しい価値を見出してあげるのです。そうするとインタビュイー自身も、インタビューに価値を見出してくれて、思わぬことを話してくれます。
(5)Expertise(専門性)
誰かにインタビューをして記事にするのは、その人が何かのエキスパート(専門家)であり、読者がその人の話から何かを学びたい、インスピレーションを受けたいと期待するからです。そして専門性の探求は、記事に驚きと深みをもたらします。
以前、わたしがリュック・ベッソンという映画監督にインタビューしたときの例を紹介しましょう。
リュック・ベッソン監督は、『グレート・ブルー』『ニキータ』『レオン』『フィフス・エレメント』『ルーシー』など、数々のヒット作品を生み出したフランスの映画監督です。
インタビューの当日は、朝から缶詰でインタビューが続いており、エージェントの人いわく「かなり疲れている様子でご機嫌もナナメなので、なるべく手短にお願いします」ということでした。
当時、リュック・ベッソン監督は、初めてCGを駆使した『フィフス・エレメント』という作品を発表した直後でした。『ワイアード』というIT系雑誌でのインタビューだったので、主にCG(コンピュータ・グラフィックス)技術についての話を聞く予定でした。しかし、監督はCGに関してはほとんど興味がなく、「CG自体にたいした意味はない」とあっさり返されてしまいました。しかし、わたしはこの反応にむしろ「しめた!」と思いました。後述しますが、監督にとってCGは「専門」ではないのは明白でしたし、それはまさにわたしの想定した回答だったからです。
そして、彼が最も目を輝かせて熱く語ってくれたのは、シネマスコープという横長の画角(縦横比が1対2.35)について触れたときでした。
監督がデビュー時からずっとシネマスコープのサイズにこだわっている理由について聞いたのです。するとそれまでつけていたサングラスを外し、ときに笑顔も交えシネマスコープについて熱く語り始めたのです。
「言葉に頼らないあの広い空間を使うことが心地よい」
黒澤明監督も中期にはシネマスコープを好んで使っていたことを伝えると、「自分はまだ黒澤明監督のように上手に空間を生かすことはできないが、あのサイズだから言葉に頼らないで伝えられる物語があるんだ」とうれしそうに語ってくれました。
インタビューは、ちょうど彼がデビューからの5作品のメイキング本を出版したタイミングで、そのプロモーションを兼ねたものでした。だからメイキング本を読み込むことで、彼が映画監督として、何にこだわり、何を目指しているのか垣間見ることができました。
その中で彼が映画監督というエキスパートとして、何を語りたくて、何を伝えたいのかを探り、インタビューで問いかけたのです。まだ誰も聞いたことのない話をしてもらうために。
エキスパートにはエキスパートだからこそ、持っている哲学や矜持があります。そこを見つけ出して、読者に届けることが、インタビュアーの最も重要な役目であり、醍醐味なのです。
(6)Flashback(再生)
インタビューを終えたあとは聞いた内容をテキストに起こしますが、これはできるだけ早くやりましょう。現場の臨場感、インタビュイーの言葉、そのときの表情、感情の起伏などは、時間が経ってしまうと色褪せていってしまいます。
インタビュー内容を再生するときには、必ず編集作業が入ります。編集作業の過程では必ずしもインタビュイーが使った言葉だけを使うとは限りません。文脈のある記事を読者に届けるためには、ストーリーの流れ、感情の強弱などを思い返しながら、インタビュイーが伝えたい話がわかりやすく、深く伝わるように言葉をつないでいきます。
インタビュイーは、いつも話上手で、豊富なボキャブラリーを持つ人とは限りません。多忙な有名人になると、疲れていて話す気分でないときもあります。それでも一発勝負ですから、限られた時間でいい話を引き出さなければなりません。インタビュアーは、インタビュイーの代弁者でなければならないのです。
「それは○○ということですよね?」「○○したら○○したくなりませんか?」といった流れで、「○○」にあたる言葉をインタビュイ―の代わりに用意してあげるのです。インタビュイーの言葉だけをつなぐのではなく、文脈をつくるためにインタビュアーがインタビュイーと共同作業で言葉を紡ぐのです。
(7)Gist(主旨)
インタビューにおいて最も重要なのが、主旨です。Gistには「主旨」以外にも「要点」「骨子」という意味があります。
Expertise(専門性)の章でリュック・ベッソン監督に「CG技術」について話を聞いたと述べましたが、もちろん彼にCGの技術的な話を聞いたわけではありません。初めてCGを全面的に使ったことで何が変わったのか? あるいは何が変わらなかったのか? デジタル技術が映画というエンターテインメントにどんな影響をもたらしたのか? 彼にとってCGはどんな意味があったのか? などの質問を用意していきました。しかし、これは主旨ではありません。主旨は「コミュニケーション」でした。「CGという道具を使うことでコミュニケーションはどう変わるか?」というテーマ設定です。なぜか?
リュック・ベッソン監督の作品にはいつも、「コニュニケーションの障害」が隠れテーマとして設定されています。会話ができない未来世界を描いた『最後の戦い』、人と話すのが苦手だがイルカと会話をする『グレート・ブルー』のジャック、『レオン』も『フィフス・エレメント』も『ニキータ』も、主人公はみなコニュニケーションに障害を抱えています。
リュック・ベッソン監督が、「CG自体にたいした意味はない」と言ったとき、彼は映画『フォレスト・ガンプ 一期一会』で知的障害を抱えた主人公がケネディ大統領と対面するシーンを例に挙げて説明しました。
「あのシーンは、CGの合成でケネディ大統領が主人公と実際に会っているように見えることが面白いのではない。大事なのは、ケネディ大統領が『いまの気分は?』と尋ねたときに、主人公が『おしっこがしたい』と言ったことなんだ」
CGでできること、できないことなどの話から、シネマスコープの広い空間を使うことで観客に伝えられる物語、現代社会が失いつつあるコミュニケーションについて、作品を通して語ってくれました。そして、インタビューの最後に「映画は観客とのコミュニケーションだ」と締めてくれました。
インタビューは主旨に始まり、主旨に終わります。何を、誰に、どんな目的で、どうやって伝えるかを決めるために欠かせません。主旨は、自分が一番知りたい、伝えたいことをインタビュイーから聞き出して、読者に伝えるための起動装置なのです。
どんな素晴らしいインタビュイーでも、料理の仕方が上手くなければ面白くはならない
以上、インタビューで押さえておくべき「ABCDEFGのレシピ」について紹介しました。インタビュー記事の良し悪しは、インタビュイー(取材対象者)やインタビュアー(ライター)だけで決まるものではありません。どんなに有名人や偉業を成し遂げた人にインタビューをしても、この「ABCDEFGのレシピ」をないがしろにしては、面白い記事にはなりません。
逆にこの「ABCDEFGのレシピ」を指標にすることで、面白いインタビューになるかどうか、あらかじめ見極めることができます。
つまり、Analysis (解析)してみれば、価値のある話を読者に伝えられるか、ある程度判断はできます。Expertise(専門性)があるかないかでどこまで深い話をしてもらえるかがわかります。そして、Gist(主旨)を立てられれば、あとはBackup (予備)、Context(文脈)、Dialogue(対話)、Flashback(再生)をしっかり押さえて進めれば、必ずや面白いインタビュー記事は生まれることでしょう。
イラスト:タナカケンイチ
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