編集長たちへの取材でわかった!オウンドメディアで成果を出すための4ステップ
Web編集者として、オウンドメディアの立ち上げや運用改善の相談をいただく機会がたびたびあります。
その際によく聞くのが
「PV以外に、何をKPIに設定すればいいのかわからない」
「ひとまずサイトを立ち上げて、あとはやりながら考える、でよいのか」
といった悩み。
PVを指標としてオウンドメディアを運営することは、目標としてわかりやすいです。立ち上げ当初は、一定の流入を獲得できるようにPVを追っていくことも大切でしょう。
しかし、PVばかりを追い続けると、コンテンツの内容が読者の不安を煽るものに偏ってしまったり、SEOのことだけを考えたコピペ記事の量産で読者への価値が置き去りになってしまったりと、どうしても読者より数字や効率を優先した運営になりがちです。
また、方向性が間違ってなければよいですが、「ひとまず立ち上げよう」で始められたオウンドメディアは目的が適切でなく、途中で立ち消えになってしまうこともしばしばあります。
では、どうすれば読者が集まり、成果があがるオウンドメディアになれるのでしょうか?
様々な要因が絡みあうため、「こうすれば成功する!」という特効薬を伝えることはできませんが、本メディアの連載「愛のないコンテンツマーケティングに未来はない」での取材を通して、成功しているオウンドメディアの共通点を見つけることができました。
今回は、その取材を通して見えてきた4つのステップを紹介します。
\オウンドメディアのKPI設計を解説!/
目次
オウンドメディアで成果を出すための実践的4ステップ
- 1. オウンドメディアをマーケティング戦略の中に組み込む
- 2. ターゲットの悩みを聞き、読者視点で伝える
- 3. ターゲットのリアルな反応をつかむ
- 4. 社員を味方につけて加速する
それぞれ具体的になにをどう行っているのか、詳しく解説していきましょう。
1. オウンドメディアをマーケティング戦略の中に組み込む
オウンドメディアは事業に貢献しなくては意味がありません。バズる記事で人を集めても、売上や事業に貢献していなければ、存在価値がないのです。
そのため、「オウンドメディアによって、どのような状況をつくりだすのか」というマーケティング戦略が、正しく設定されている必要があります。
楽天市場のオウンドメディアである「それどこ」は、ユーザーアプローチの課題であった「楽天市場の会員以外に接点を持つ」ことを目的に始められました。そして、テレビCM以外にリーチできなかった楽天の非会員とコミュニケーションを取ることに成功し、結果として費用対効果の良い新規会員獲得ができています。
「それどこ」のオウンドメディア戦略
”あの読者”に届けたい。楽天「それどこ」が実践した伝わるコンテンツの作り方より
また予約システムを販売するReserveLINK(リザーブリンク)のオウンドメディア「予約ラボ」は、戦略の前提として「予約システム」関連の検索キーワードで上位表示できているという状態がありました。
さらに広く、潜在的なユーザーを獲得するため、課題を持つ担当者に 予約システムの重要性を発見してもらう→「予約システム」を含むキーワードで検索してもらう という反応を意図したオウンドメディア戦略を取っています。
「予約ラボ」のオウンドメディア戦略図
自社推し禁止が潜在ニーズを問い合わせに導く 「予約ラボ」のオウンドメディア戦略より
このように、成果をあげているオウンドメディアは「どういう状況をつくるのか」という戦略が明確です。あなたのオウンドメディアは、事業に対してどのような状況を実現させるかというゴールが設定されていますか?その戦略は、ユーザーとのコミュニケーション全体を俯瞰したときに適切なものになっていますか?
「とりあえずオウンドメディアを運用してみる」という考えになっているのであれば、今すぐ見直したほうが良いでしょう。
2. ターゲットの悩みを聞き、読者視点で伝える
オウンドメディアの目的は、コンテンツを通じて潜在的なユーザーと接点を持ち、新たな顧客として育成することにあります。
そのためには、企画や編集といったコンテンツの作成段階で、どれだけターゲットの悩みに寄りそえているかが大切です。
転職サイトDODAのオウンドメディアである「”未来を変える”プロジェクト」では、特集コンテンツの内容がターゲットであるハイキャリア層にとって確実に必要とされる情報にするため、ユーザー属性に近い40名ほどの参加者を事前に募り、編集会議としてディスカッションイベントを開催しています。
イベントでは組織論や働き方、テクノロジーなど毎回異なるテーマについて議論が交わされます。参加者から挙げられた意見や疑問の一つひとつが、オウンドメディアの特集企画に活用されるのです。
また、イベント参加者40名から厳選された数名が特集記事の制作段階にも加わり、彼らから記事へのフィードバックを得つつ、コンテンツが練り上げられていきます。
“純度の高いコンテンツ”が結果を生む!DODA「”未来を変える”プロジェクト」の徹底的な環境づくりより
このユーザーが直接参加する仕組みにより、コンテンツは読者にとっての課題感を射抜いたものに仕上がります。さらに、特集コンテンツがオウンドメディアで公開されると、イベントで議論を交わした参加者たちが「自分ごと」としてSNSでの拡散に協力してくれます。
その手法に注目が集まりがちですが、前提となるのは「多忙で接点を持つことが困難な、キャリア志向の高いターゲットユーザーとつながりをつくる」という戦略があればこそ。人手と時間をかけて純度の高いコンテンツを作成することは、戦略実現のための最適な手段なのです。
また、前述した「予約ラボ」では、自社製品の宣伝を記事内で行わないという方針を徹底しています。これは、(最終的に検索行動を取ってもらう前提はありつつも)読者にとって役に立つ情報を伝えることを最優先するという方針によるものです。一方で、読者が記事をストレスなく読んでもらえるように体験レポート風に仕立てるなど、ユーザー心理を考慮した編集を行っています。
このように「読者が何の情報を必要としているか」を、直接話を聞いたり記事の編集に反映したりしながら、ユーザーファーストでコンテンツを作れていますか?検索ボリュームばかりを追うのではなく、ターゲットの声を聞いて仮説を立てることから始めましょう。
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3. ターゲットのリアルな反応をつかむ
「ターゲットの悩み」を企画や編集段階で盛り込むことが重要なのと同じく、コンテンツ公開後に記事を読んだユーザーがどのような反応を示したか、伝わったかどうかを確認することはオウンドメディアで成果をあげるために重要なポイントです。
「ベンチャー酒屋」を掲げるリカー・イノベーションのオウンドメディア「KURAND(クランド)」では、店長ブログが来店予約というコンバージョンに貢献を果たしています。
「KURAND(クランド)」における店長ブログの役割
"店長ブログ"がCVに効く!「NOMOOO」「KURAND」が見つけた実店舗とオウンドメディアの連携より
ブログ記事を執筆している店長たちは店頭で接客しているので、どの記事を読んだユーザーが予約に至ったのか、どういった情報がターゲットの行動を促すのか、を把握することができます。
執筆者である店長たちは来店客の反応を踏まえながら新たなブログ記事を更新し、それによってさらに店舗への集客が高まるという好循環が生まれています。
自分の書いたブログ記事が、自分の店への集客につながるために、店長たちのやりがいも高まり、自然と更新頻度も向上するという副作用も起きています。
また、前述の楽天市場「それどこ」は人気記事が2万以上のいいね!を獲得するオウンドメディアですが、SNSのコメントは編集長が一つひとつチェック。特にはてなユーザーとの相性のいいメディアなので、「このIDのユーザーはこんな記事に反応してくれる」という、匿名ユーザーの嗜好性まで把握しています。
これによって「どの読者に、どのような情報を届けると、どういった反応が得られるか」という、オウンドメディアと読者との距離感をつかむことができるのです。
PVだけを追っていては、ターゲットに伝わったかどうかはわかりません。記事を読んだユーザーがSNSやリアルの場でどんな感想を述べているか、読者にコンテンツの意図が伝わったかどうかを確認・検証することで、よりよいコンテンツづくりができるようになります。
4. 社員を味方につけて加速する
オウンドメディアが成果をあげる上記の仕組みを加速させるために、各編集長が重視している裏の戦術があります。それは、「より広く伝えるためには、社内にファンをつくる」という点です。
コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏は、著作『明日のプランニング』において「企業にとっての最強のファンとは、社員である」と語っています。
企業がサービスや商品を世に送り出し、それらを支持するファンを広げていくためには、もっとも身近な存在である社内の人々から支持され、共感されていることが欠かせないということです。
オウンドメディアの運営者は、「社外のユーザーだけではなく、社内のメンバーから共感されているか」という点も重視すべきなのです。
実際に「予約ラボ」や「KURAND」では、普段は制作に関係の薄い社内メンバーがオウンドメディアに関わることを通して、社内に同じ認識や目標を共有することができました。
もちろん、その状態をつくるためには「それどこ」が取り組んでいるように、オウンドメディアを通じて得られた実績やユーザーの声を積極的に社内へ伝えていくといった、地道な社内ファンづくりの活動が必要です。
また、オウンドメディアの読者は、必ずしも「ターゲットユーザー」や「見込み顧客」だけではありません。社内メンバーのすぐ外側には、新たな提携先となるパートナーや、そのような企業の中で働きたいと考える求職者も存在していて、読者になる可能性があります。
彼らとつながることによる人事コストの圧縮や事業の拡張なども、事業に還元できる成果となるのです。
オウンドメディアでは”読者一人ひとり”に注目しよう
PVといったわかりやすい成果指標は、オウンドメディアの運営を説明しやすくしてくれますが、ユーザーは数字である前にひとりの人間です。
数万から数十万というPVやSSを追っていると、例えば「100UU」という数字は重要度が高くなさそうな印象を受けがちです。しかし、課題を抱いた100人の参加者が集まっている場と考えると軽視することはできません。
また逆に、真剣な課題を持つ100人と、偶然いる100人ではわけが違います。自社に興味を持ってくれる100人を集めることができるのならば、いたずらにPVを増やそうとする必要はないとも言えます。
大事なことは、冷静な戦略を背景にいだきながら、オウンドメディアに集まってくれるユーザーの顔を一人ひとり想像し、彼ら・彼女らが本当に必要としている情報は何か?を考え、愚直に実践・改善を繰り返していくことでしょう。
■参考
明日のプランニング 伝わらない時代の「伝わる」方法(佐藤尚之/講談社現代新書)
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